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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
35/136

33:選択


 3日かけて山を下り、丘の巨人(ヒルジャイアント)の集落でここで待機していた巨人たちと再び合流する。

 そこから、最後にジャガーノートを目撃した地点まで、さらに4日かけて移動した。

 僕たちはジャガーノートから西に約30キロの地点に到達し、ひとまずの拠点と定めて情報の収集に当たることにした。

 落ち着いて祈りを捧げたとき、新たな段階の奇跡の使用を許されていることに気がついた。

 少しでも戦力が向上するのは大きな進歩だと言っていいと思う。


 ここに拠点を置くことにしたのは、前回の戦闘で敗走することになった巨人族が集結して、攻撃の準備をしていたことが一番の理由だ。

 負傷者も多くいるので、治療を行いたいとも思ったが、元を絶たない限り、けが人は際限なく出てしまう。

 今すべきことはジャガーノートの脅威を速やかに排除することだ。そのためにもっと情報が必要だった。


 現地の指揮官に、雲の巨人(クラウドジャイアント)のガルンドルンから説明してもらい、攻撃の準備はしてもらうが、指示がない間は手を出さないように徹底してもらう。

 風渡り(ウインドウォーク)の奇跡を用いて、上空からの偵察を敢行する。万一あの光線を撃たれても、ガス状なら影響を受けない、と思いたい。

 万一の事態を考えて、全員で行動するのは避けたいと思ったが、状況がどう変わるかわからないからこそ、全員で行くべきだと、僕の提案は却下された。

 僕の能力上昇に伴って、風渡りの奇跡の効果人数も増えている。今なら整備士を連れて高速飛行で移動できるが、その前に確認すべきことがある。


「整備士君、君はどうしたい?今ならケイニスに戻ることもできると思う。散々巻き込んだ後で少し申し訳ないけど、もし戻りたいなら今が最後のチャンスになると思うんだ」


 整備士は彼自身の意志というよりも成り行きでここにいる。

 僕は彼の人としての意思を尊重したいと思った。


「ちょっと待て、こいつはもう俺たちの仲間だろ?なんで今更追い出すようなことを言うんだ?」


 パーシバルが横槍を入れてきた。もちろん、パーシバルの言っていることもわかるつもりだ。

 だけど、この先僕たちが生きていられるとは限らない。戦いが始まるんだ。

 だからこそ、僕は彼の口から彼の意思を聞きたかった。選択するのは彼であるべきだ。


「今なら僕たちに捕まっていて、隙を見て逃げ出した、が通じると思う。でも、今後僕たちと行動を共にしているのを目撃されれば、そうはいかなくなる。僕たちはケイニスの軍勢と戦うつもりでいる。その結果がどうなるかは誰にも……神様にだってわからないんだよ。

 自分の行動に責任を持てるのは自分だけなんだ。だから君の意思を確認したい」


 僕の言葉に整備士が返答に窮しているのがわかる。

 それでも彼が口を開くのを待った。

 少しの沈黙の後、彼は口を開いた。


「戦争が終わって、私は目標を失った。それをケイニスが拾ってくれて、生きながらえました。私の生きた証はケイニスにしかないのです。

 私が生きていくにはケイニスにいるしかないのです」


「違う生き方だってある!何ならうちの工房で働けばいい。ケイニスに恩義を感じてるのかもしれんが、連中にとっては商売の一部なんだよ」


 パーシバルの言葉にザックが続いた。


「RZX004。あなたはあなたの自由意思で生きる道を選ぶ時が来たのだ。私は人として生きる意味を見出すことが出来た。

 あなたもまた自らの魂に恥じない選択をしてほしいと思う」


 それらの言葉に整備士は考え込んでいた。

 僕は静かに移動してローズの脇に立ち、周囲には聞こえないようにローズにささやく。


「だめだよ。彼がどんな選択をしても、見逃してあげて」


「彼が選択したのであれば、その責任は彼にあります」


 ローズは整備士がケイニスに戻ると口にしたときに、その場で処断するつもりでいた。

 戦況を考えればその判断は正しい。こちらの情報がケイニスに流れる可能性があるのだから。


「それでも、彼を黙って行かせてあげて。ローズの判断が正しいことはわかってる。だけど彼には少しでも長く生きて欲しいと思うんだ」


「わかりました。あなたがそう言うのであれば、出過ぎたことは控えます」


「ありがとう。その分僕が頑張るからさ」


 小声の会話が終わるころ、整備士は再び話し始めた。


「あなた方と出会わなければ、冷たき天の塔(スヴァルトゥリム)を見ることも、ましてや伝説の龍神に会うこともなかったでしょう。

 この世界は広くて、私の知らないことがたくさんある。それを知りたいと願うのは……正しいのでしょうか?」


「かつて私は同じようなことを言っていただきました。世界には知らないことが沢山ある。それを自分の目で見てみないか、と。

 私はその言葉に気持ちが抑えられませんでした。それを見たいと願ったのです。

 正しいかどうかなんて、誰にもわからないのです。それはずっと後に、あなた自身が決めることではないでしょうか」


 コマリが整備士に答えた。

 整備士は再び重い口を開いた。


「私は……私は、どうすればいいのか、正直わかりません。ですが、ジャガーノートのようなものを作ることには賛成できない。

 その一点だけにおいても、戻ることはできません。どうか私にあなた方の手伝いをさせてください」


「ありがとう。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」


 そう言って右手を差し出す。彼もその手を握り返してくれた。


「ねえ、整備士君。今更な気もするけど、整備士って人の名前じゃないからさ。これを機会に君に名前を贈りたいと思うんだ。

 思い付きなんだけど、『メクトラス』ってどうだろう。古い言葉で旅する技術者って意味なんだけどさ」


「メクトラス……私の、人としての名前……」


「気に入らないかな。だったらみんなでもう少し考えるのもいいと思うし、自分で考えるのもいいと思うけど……」


「いえ、ぜひ。メクトラス、私はメクトラス」


 彼はその名前を気に入ってくれたらしい。何度か小さくつぶやいていた。


 少し落ち着いてから、風渡りの奇跡を用いての偵察を敢行する。

 メクトラスにガス化した状態での制限事項を伝えて、万一はぐれた時はここに戻るように確認した後、僕たちは飛び立つ。

 上空に上がり、20キロほど飛行すると、ジャガーノートが目視できる。やはりかなり大きい。

 地面には谷に沿って、魔法で焼かれた痕跡が残っていた。おおよそ8キロがあれの射程と推測できる。

 焼かれた地表を確認したが、魔力の残滓はほとんど残っていない。圧倒的な熱量が地面を焼いていることがわかった。

 さらに周囲の状況を確認してから詳細な調査をして帰還した。


「ジャガーノートは動いていないね。2週間以上同じ位置にいることになる」


 僕の言葉にローズが続けた。


「周囲1キロの範囲に戦闘部隊が展開していますね。数は少し補充したように思えます。谷向きの配置はかなり少なめで、左右の稜線に沿って主力が置かれている感じですね」


「正面から来るなら一掃するだけ、と考えているのでしょう」


 ザックが腕組みしながら言った。


「メクトラス。あれに一番詳しいのは君だと思うんだ。どうやったら無力化できると思う?」


 僕の問いかけに整備士は少し考えてから答えた。


「大前提として、私が詳しいわけではないということはご理解ください。あくまでも想像ベースの話です。

 ジャガーノートが移動できる、強力な攻撃を備える以上、何らかの動力炉に類するものを持っているはずです。

 中からそれを破壊するしか方法はないでしょう。稼働できなくしたうえで、周囲の山を崩して埋めるとかくらいしか、思いつきません」


「あの場所から移動していない、ということは何らかの理由で動けないのでは?」


 ローズが状況を踏まえて意見を述べる。


「十分に考えられますが、状況を整理すると、必ずしもそうとは限りません。

 確かに、巨人族を討伐するのが目的であれば前進するでしょうし、ジャガーノートの技術を使いたいのであれば上陸地点まで移動させるでしょう。

 だが、それは何らかの理由でできない。そこは正しいと思います。ですが、全く動けないと結論付けることはできないと思います。

 想像なのですが、溶岩湖からのエネルギーはジャガーノートに供給されているのではないかと想像します」


「なるほど。動力炉が稼働していなくても、溶岩湖からのエネルギーが供給されることで動いている可能性もあるな」


 整備士の意見にパーシバルが頷く。


「もし溶岩湖からのエネルギー供給で動いているとするなら、供給施設が稼働し始めてから3日ほどで、あの攻撃が行われました。

 この期間ずっと供給されているとして、5~6発の射撃は可能でしょう。蓄積されていれば、ですが」


 整備士はそう付け加えた。


「あの攻撃を封じること自体はそれほど難しくはないと思ってるんだ。力場の壁(ウォールオブフォース)の呪文や魔力中和アンティマジックフィールドは有効なはずだからね。問題は僕たちはそれで防げるけど、防いだところで僕たちだけじゃどうにもならない。巨人族の力がないと攻めようがない。だけど巨人族を護れるほどの力場の壁や魔力中和は使えない。発射する場所が特定できればその周囲に力場の壁を展開すれば、封殺できるんだけどね」


 僕の言葉にコマリが続けた。


「ジャガーノートが古代エルフの遺物であるのであれば、巨人族が中に侵入することはできないでしょう。無力化するために内部から破壊する必要がある以上、私たちが侵入する以外の方法はないのではないですか?」


「その通りだね。結局の所それしかないと思う。幸いジャガーノートは谷間に存在するから、左右からなら接近しやすいだろうし」


「向こうだって馬鹿ではないでしょう。それを見越して警備は厚いと思いますが?」


 ローズが再び意見した。


「谷の北壁側は、ジャガーノートよりも高いから、巨人族も接近できるんじゃないかと思う。

 あの光線は山を吹き飛ばすような物理的なエネルギーは無さそうだしね。

 そこで、溶岩湖側からあのエネルギー施設を破壊してもらって、ゆっくりと進軍してもらう。

 僕たちは谷を最短距離で接近して、中に突入。どうかな。いまく行きそうな気がするけど」


「狭い内部に入れば、数の不利は被りませんし、可能性はあると思いますが……」


「何か問題がある?」


「ええ、内部の情報がない以上、入ったら手探りになります。短時間で破壊するのは難しいでしょう。長期戦になればジリ貧ですし、脱出の際に包囲されることになります」


「風渡りなら上空に逃げることもできるから、そこは大丈夫じゃないかな」


 連中は大戦力を大火力で圧倒できることを知っているし、巨人族以外の敵が存在することに気がついていない。

 敵は内部からの攻撃は想定していないだろう。

 作戦はたぶんうまくいく。

 あとは侵入後に速やかに破壊・脱出が出来るか。

 陽動に当たる巨人族にも被害が出るのを想定しなければならない。


 僕たちはその後も詳細を詰めてから、ガルンドルンに作戦の説明を行う。

 彼は巨人族の名誉にかけてと、陽動を引き受けてくれた。

 作戦の決行は明後日。今日と明日で準備を終えるために、巨人族は慌ただしく動き始めた。




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