23:資格
巨人族たちが少し落ち着き、聴覚と視覚を失っている丘の巨人達はその場に座っている。
歩き回ると混乱を生むだけなので、炎の巨人達に頼んで半ば無理矢理座らせてもらった。
僕は僕たちがここに来た経緯を話すことから始める。
クァルテレンダ族が居住地を追われて避難してきたことから、その原因を確かめ、必要なら巨人族と話をするためにここにやってきたことを伝える。
彼らは概ね納得してくれたようだったが、前線の状況を確認するために偵察を出す、という事だった。
一応は止めたが、僕たちの話を鵜呑みにはできない彼らの立場というものもあるのだろう。
3人の炎の巨人の一人が前線に向かって歩いていく。
僕たちは残った二人の巨人たちと話を続けた。ザックと一騎打ちをした巨人、この部隊を束ねる戦士であるンガデラ、もう一人がビルバ。偵察に出たのがデウラと名乗った。
「お前らは戦士としての誇りと強さを示した。掟に従い客人として迎えよう」
ンガデラが改めてそう言うとその場に座る。
もう一人の炎の巨人ビルバは明らかにいら立っている様子で、
「腕の一本や2本失っても、我らは退かぬ」
そう言って一歩前に出た。それを受けてザックが無言で前に一歩進む。
「ビルバ、やめておけ。余興としては面白いが、お前がかなう相手ではない」
ンガデラの静止によって、ビルバはンガデラの後ろに下がり、その場に座った。
「強き山の民よ。寛大な言葉に感謝申し上げる」
僕もそう言ってから、その場に座る。ザックやコマリ達もその場に座った。
ンガデラは僕らが座るのを見てから話し始めた。
「まず、ドロウの氏族が巨人族の襲撃を受けたという話だが、我々には子細はわからん」
「その件に関しては、海から来た連中が関与していると最初は思っておりました。連中に追われる形で平野近くに暮らす巨人族が追われる形でジャングルに至ったのではないかと。ですが、クァルテレンダ族の暮らしていた地域とはかなり離れています」
「言い分はわかった。だが、その大きな水から上がってきた小人どもと戦になっている状況だ。調べるにしても落ち着いてからになる」
「はい。状況も理解しております。その点でご協力がいただけるのであれば、急がずとも構いません」
「お前らは、奴らと同類であろう?何か知っているのではないか?」
ンガデラは少し視線を鋭くして僕を見る。
僕はそれに臆することなく答えた。
「ある程度の推測はできておりますが、正確なことは何も申し上げられません。
ですが、確実なことを一つ申しあげるとすれば、彼らは私たちにとっても脅威であり、敵と呼んで差し支えないでしょう」
「敵か」
「はい。共通の敵です」
ンガデラは黙り込む。何かを考えているようだったが、再び口を開いた。
「お前が奴らと戦うというのであれば、わが部族は歓迎しよう」
「ありがとうございます。ですが、誤解を恐れずに申し上げれば、私は山の民すべてと共に戦いたい。
私が望むのは、山の民との同盟です」
「同盟だと?言葉の意味を解っているのか」
「理解しております。つきましては、あなた方を統べる山の民の王に目通りを願いたい」
僕の言葉に、脇に座っていたビルバが再び激昂し口を挟んだ。
「無礼にもほどがある。雷の王は小人の言葉に耳など貸さぬ!」
「ですが、私は会わねばなりません。力なきものの言葉が届かぬは必定でしょう。
それでも私は雷の王に会い、私の言葉を伝えねばなりません」
僕は強く言い切る。
仮にケイニスの軍勢と正面からぶつかるとなった場合、当てにできる戦力はドロウ3氏族2000名。
戦い様はあるが、向こうには飛空船もあることを考えると、不利な状況は覆せない。
だが、巨人族との同盟が成れば互角以上に戦えるだろう。
交渉のチャンスは逃したくなかった。
「お前の覚悟はわかったが、目通りを願うにしても、それなりの立場が必要だ。ただの小人に王への目通りを願う訳にはいかん」
ンガデラは僕に向かって言う。
「おっしゃることはわかります。私は月の神の使徒。あなた方に月の神の加護をもたらすものとなりましょう。
もし、それで不足であれば、私はドロウの小王と名乗りましょう」
半分以上はハッタリだ。だが、まるっきりの嘘ではない。
あえて小王と名乗ったのも3氏族を束ねる王という意味でだ。これも各族長にお願いすれば、便宜上そう言うことにしてくれるだろう。
「王を名乗る者がわずか数名の手勢で、我々と交渉に来る。か。」
ンガデラが呟いた。
恐らく僕のハッタリに気がついたのだろう。
だが、ここで引く訳にはいかない。
「王を名乗るのは、最も強き者であるから。故に多くの手勢を率いるまでもありません」
僕の言葉にンガデラはにやりと笑って見せた。
「なるほど。筋は通っているな」
そう言うとゆっくりと立ち上がる。
「話はひとまず後回しだ。デウラが絡まれている」
そう言って僕らの脇を通り歩き始めた。
僕らも立ち上がって後方を確認すると、接近してくる人影―炎の巨人が戦いながら後退しているのが見えた。
「行こう!」
僕の声と共に、一斉に駆け出す。
コマリが即座に加速の呪文を唱え、僕たちの速度が一気に上がった。
「ローズ、後方から弓で援護して。コマリ近づいたら敵に弱体化を。パーシバルはコマリの前で壁をよろしく!」
敵の数は20ほど。すべてがレーヴァで、1小隊分という所だ。
デウラは大きなダメージは負っていないようだが、如何せん敵の数が多く、引きながらの戦いで矢傷を負っている様だ。
「巨人よ、全力でこちらに!」
僕が叫ぶとその声は彼に届いたようだった。彼は全力でこちらに向かい始める。
移動速度自体は巨人の方が早い。
「コマリ!」
コマリは移動速度を下げて、呪文の行使体制に入る。
僕はザックに合図して左右に展開し、魔法の通過する場所を確保。
ほぼ同時に接近してくるレーヴァの足元に紫の魔方陣が輝いた。
コマリの選択した呪文は鈍化だった。
先頭で巨人を負っていたレーヴァの移動速度が急激に落ちて、後列との差が詰まり、団子状になる。
「神よ、我々に加護を、敵に不遇を!祈祷」
僕もコマリに続いて奇跡を行使する。
近くにいた味方の能力を底上げし、効果範囲内の敵の能力をわずかに阻害する。
僅かな差を生む奇跡だが、このわずかな差は戦場での天秤を大きく動かす。
足の速いザックは敵との接近戦に入っている。僕はさらに奇跡を願う。
「月の神よ、私に戦士としての力をお与えください。信仰による力」
願いは聞き届けられて、力がみなぎってくる。
ザックほどではないが、これで僕も十分に戦えるはずだ。
ザックの隣に並んで、三日月刀を抜いて切り払う。
パーシバルによって整備された刃は、軽くレーヴァの装甲を切り裂く。
彼に託した後にこの刀で戦うのは初めてだったが、その切れ味と威力は別物と言って良いほどだ。
前線を支えるのはザックと僕の二人。
二人とも常時3人以上は直接対峙する形になるが、レーヴァの部隊を十分に受け止めていた。
前に出られない他の兵が左右に回ろうとすると、ローズの放つ矢が確実に数を減らす。
戦っているレーヴァ達が弱いわけではない。十分に経験を積んだベテランクラスの戦闘力はある。優秀な兵士たちだ。
だが、ザックはもちろん、アレンですら、それは脅威にならない力をすでに身に付けていた。
数の上では圧倒的に不利だったが、問題にならなかった。
目に見えて動くレーヴァの数が減り、最後尾の一人が、全力で走り去ろうとしているのが見えた。
「ローズ、逃がさないで!」
その声にローズは素早く反応し、右側に大きく移動した後、弓を引き絞る。
正確に放たれた矢は、背後から走り去ろうとするレーヴァの首元を射抜いた。
ほぼ同時に最後に残っていたレーヴァを2体まとめてザックが屠る。
僅か2分ほどの一方的な戦いだった。
僕は三日月刀を収めて治療のワンドに持ち変えると、ザックの傷を治療する。
ザックも僕も大した傷は負ってはいないが、無傷という訳にもいかない。
そこにパーシバルやコマリ、ローズが近寄ってくる。
ローズは開口一番、
「なぜあなたが最前線で戦うのですか?私が前に出るべきでしょう」
いつもならそうするところだが、しなかったのにはそれなりに理由がある。
「ここでの戦闘を報告されては色々とマズい。逃げる敵を確実に仕留められるローズの手を塞ぎたくなかったんだよ。
それに、巨人族ともまだ交渉しなければならない。ある程度戦えるところは見せておかないと」
そう言うとローズは納得せざるを得ない様子だった。
後ろからンガデラの声が聞こえる。
「なかなかの戦士ぶりだな。お前も口だけではないようだ」
巨人族は高みの見物を決め込んでいたようだ。
僕たちが本気でケイニスの軍勢と戦うのか、見たかったのだろう。敵の哨戒のおかげで、交渉が少ししやすくなったのは事実だ。
これである程度は信用してもらえるのではないかと思う。
「当然だ。伊達に王を名乗っているわけじゃない」
それらしいことを言っておく。相手がこちらに持つ印象は重要だ。
ンガデラは言葉を続けた。
「お前らは信用してもよさそうだ。ここに長居するのは賢い選択とは言えない。ついて来るが良い」
そう言うと踵を返し歩きはじめる。
「どこへ向かうのですか?」
僕の問いかけに彼はこう答えた。
「雷の王の住まう雷の砦に向かう。段取りはつけてやろう。だが、その先は保証できん」
少なくともンガデラの信用は得ることが出来た。大きな一歩だ。
僕たちは彼らの後ろについていく。
歩きながら確認したかったので、パーシバルに話しかける。
「彼らの言葉、理解できてる?」
もうしばらくすると言語会話の奇跡が切れるだろう。そうすると誰も話が出来なくなってしまう。
言語理解の奇跡はまだ用意してあるが、相手の言葉が理解できても話せないのでは、どうにもならない。
「ああ、奴らは巨人語をしゃべっている。俺が知ってる巨人語と少しばかり違う所もあるが、方言の範疇だ。
必要になったら、俺が話してやる」
ひとまず安心した。
これで巨人族との同盟が少しだけ現実味を帯びた気がした。後回しになっていた懸案である、ハーバーマスターへの連絡を行う。
僕は送信の奇跡を用いて、
―大陸東海岸、山岳地帯近くにケイニスが拠点を設置。山岳部に置いて古代の兵器を起動した模様。現時点でケイニスと断定する証拠はなし。巨人族との交渉に向かう―
そう伝えた。
一度の送信量の限界近く、だが、ちゃんと状況は伝えられただだろう。
ハーバーマスターからの返答はない。こちらからの送信でいっぱいだったと思われた。
その後彼らは来た道を戻るようだったので、溶岩の湖の脇で少し止まってもらい、さっき別れた整備士を探す。
彼は律儀に建物の中に隠れていた。
「思いのほか、戻ってくるのが早くなった。一緒に行くかい?それともここに残る?」
僕の問いかけに彼は一も二もなく答えた。
「ああ、一緒に連れて行ってくれ。ここで錆びて朽ち果てるのはごめんだから」
そう言って外に出て、巨人族を見て、彼は固まった。
「彼らは味方だ。大丈夫」
整備士がそれで安心したかは分からないが、彼は僕たちと共に行動することに決めたようだ。
僕たち5人に一人を加え、巨人族は再び歩き始めた。




