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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第四章 陰謀
131/136

28:灯


 奴と戦い始めてから、5分近くが経過している。

 Gさんはいくつかの攻撃魔法を立て続けに使った。

 炎の魔法は奴が高い耐性を持っているようで、全くダメージになっていない。

 電撃系の魔法はそこそこ効いているようだし、酸の雨(アシッドレイン)氷の嵐(アイスストーム)も効果的だ。

 だが、どれも奴を弱らせるほどの打撃には至っていない。

 それに、これは想像だが、奴はかなり強力な自己回復能力を持っているのではないか。

 飢餓の王(ファメス)の依り代だった粘体がそうであったように、死者の王(モーテュラム)の依り代であるデューザルも同様だと思われた。


「どうした。ネタ切れか? もっと絶望を味わえ。無力を嘆け! 愚かさを恥よ!」


 このままだとジリ貧になる。

 せめて奴に剣が届く距離に近づかないと。

 そのためにはこの触手の攻撃をかいくぐり、僕が奴に接近して奴の威光を押さえなければならない。

 そう思いながらレディアスを振るい続けるが、時折レディアスが不快な音を立てることに気づいた。

 何かを伝えようとしている気はするが、それが何かわからない。

 そのまま何度か迎撃と治療を繰り返したとき、突然レディアスが重くなった。

 違う。今まで働いていたレディアスの力が遮断された。

 僕がレディアスで触手の攻撃を捌き切れているのは、レディアスを通じてレイアの動きを僕ができるからだ。

 僕は一瞬手を止めて、レディアスを見る。

 何が起こったんだ、レイア。

 そう問いかけた瞬間、レイアの声が聞こえた。


―この唐変木! 少しは俺に意識を向けろ! じゃねぇと話もままならねえ!―


「え?」


 僕は襲い掛かってくる触手を再び薙ぐ。

 レディアスの感覚は元に戻っていた。

 一体何が?

 そう思いながらレディアスを再び見ると、先ほど同様にレイアの声が聞こえた。


―こっちは剣の体に慣れてねぇんだ。ましてや剣には口がない。お前が意識を向けなきゃ会話もままならねえんだぞ!―


 ひどく怒られている気がする。不快な感覚の正体はレイアの苛立ちだったんだ。


―よくわからないけどごめん。さっきから何かを伝えようとしてくれてたんだよね?―


 レディアスを意識しながらだと、治療まで手が回らないが、少しなら大丈夫なはず。


―よく聞け。ガイアが奴にダメージを与えたタイミングで、ガイアの前に出て、防御はスロンドヴァニールに任せろ。

 そして俺の声を聞いて、同じように口にしろ。俺が口にする神の名の部分は、お前の神の名に置き換えろ―


 意味はわからなかったが、言いたいことはわかった。

 僕はレディアスへ向けた意識を周囲に広く向け直す。

 そしてヴェルへの回復を行った。

 ヴェルもエウリも時折攻撃を受け、傷ついている。

 ダメージこそ大したことはないが、悪魔の傷同様に治癒の奇跡の効きが悪い。

 長く放置してダメージが蓄積すると、回復が追い付かなくなる。

 Gさんが僕に向かって叫んだ。


「アレン、少しばかり準備に時間が必要じゃ。奴から目を放す間、防御を頼む」


 Gさんが何かする気だ。

 レイアの言っていたチャンスになるかもしれない。

 僕はGさんと奴を結ぶ直線上に陣取り、後方への攻撃を再び遮断する。

 するとすぐにGさんは魔法を使った。


「これならどうじゃ! 追放せよ!(バニッシュメント)


 奴の足元に魔方陣が輝き、瞬間移動(テレポート)に似た光が現れる。

 一瞬、奴の触手の攻撃が止まった。

 今か?

 そう思ったが、時間が必要と言っていたことを考えれば、Gさんの魔法が早すぎる。

 奴は追放の魔法の効果を退けたようだった。

 攻撃速度が元に戻り、僕が防御を続ける。


「これに耐えるか。ならば!」


 Gさんは次の魔法の準備を始めたようだ。

 僕はそのタイミングが来るのを待ち、防御と回復に専念する。

 エウリは盾で攻撃を防いでいるが、ヴェルは盾の代わりに足を使い、躱しながら戦っている。

 ヴェルの方が疲労が蓄積しているはずだ。

 動きが悪くなれば、それだけダメージを受ける確率が高くなる。


「ヴェル! 少しこっちに寄って!」


 僕は声をかけ、ヴェルがそれに応じて僕の脇に来る。

 すぐさま聖印を描いて彼女の肩に触れ、大いなる癒し(ヒール)の奇跡を施した。

 これでしばらくは大丈夫なはずだ。


「待たせたな!」


 そう言ってGさんが僕の脇を駆け抜け、死者の王に接近を試みた。


「Gさん、無茶だ!」


 僕は慌てて前進し、Gさんを鱗の範囲に収めようとするが、触手の圧力が高くてままならない。

 数歩進んだところで、前に出たGさんを触手が狙う。


「Gさん!」


 数本の触手がGさんの体を貫いた??そう見えた瞬間、そこにいたGさんが消える。

 ほぼ同時にGさんのいた空間を後方から緑の光線が貫いた。

 その緑の光は死者の王を射抜く。


「くっ!」


 奴が大きくうめき声を上げた。

 無数に伸びていた黒い触手が消える。

 僕は何が起きたのか、この時初めて理解した。

 前に出たのはGさんの幻影で、囮だったのだ。

 本人はその幻影の陰から分解光線(ディスインテグレイト)で奴を狙い、それが直撃した。

 僕はサイドステップでGさんの前に立ち、レディアスに意識を向ける。

 レイアはすぐさま僕に言葉を伝えてきた。


―天におわす、わが神太陽の神(ソロス)に願う。その手綱をしばし放し、我に委ね給え―


「天におわす、わが神月の神(デミムア)に願う。その手綱をしばし放し、我に委ね給え」


 僕はレイアの伝える言葉を、願う神の名だけ変えて口にした。

 すると、レディアスの刀身が淡い光を放ち、その表面をいくつもの雷が駆け巡る。

 既知感(デジャヴ)……僕はこの言葉を知っている気がする。

 一方、死者の王は怒り狂うかのように声を上げた。


「人ごときが依り代に傷をつけるなど、あってはならん!

 その報いを……何をしている?!」


 奴はその半身が人の形を維持できなくなっていた。

 初めて明らかにダメージを負ったことが見て取れる。

 体中から噴き出す黒いもやのようなものが形を変え、黒い触手と化して接近してくる。

 奴は僕が何かしようとしていることに気づいたようで、今までヴェルやエウリを狙っていた触手も、すべて僕に向けてきた。

 スロンドヴァニールの鱗がそれをはじき返し続けるが、数が多すぎてさばききれない。

 僕は接近する触手を切り落とし、レイアの言葉を待つ。

 だが、その言葉が聞こえない。

 僕を狙ってきた触手を切り落とすのに精いっぱいで、レディアスに意識を向けられていないのだ。

 それでも、僕の口は自然に言葉を発していた。


「解き放て、剣の真なる力を」


 僕の言葉に反応するかのように、レディアスの輝きがひときわ強くなる。

 僕は知っていた。

 口や耳、体が、この言葉も、そしてこの次に何をすべきかも覚えていた。

 防御を止め、辛うじて触手を躱す。

 次の一撃は確実に当てなければ。

 僕は奴に向かって走り始める。

 触手の圧が強く、体を次々とかすめ、右の太ももを貫通した。

 足に激痛が走る。

 だがここでやめるわけにはいかない。

 歯を食いしばり、それでも足を前へと進める。


「太陽の輝きを以て、闇を滅せ!」


 エウリが叫び、それに応じて太陽剣(サンブレード)が、その名の所以たる鮮烈な輝きを周囲にまき散らす。

 拮抗していた奴と月の神の威光のバランスが崩れた。

 エウリは、僕が何をしようとしているのかに気づいたようだった。


―アレンは今、巨人族の城でレイアが見せた攻撃を、死者の王に使おうとしている。

 あれなら、死者の王の依り代であっても、無傷では済むまい。

 何としても、その機会を作らねば!―


 エウリが一気に距離を詰め、奴に渾身の一撃を叩き込む。


悪を討つ一撃(スマイトイービル)


 輝きを放ち続ける太陽剣が、奴の体に深く切れ込む。

 奴の反対側ではヴェルが三日月刀を舞うように振るい、奴の体を切り裂いている。


「人の分際で……」


 憎々しげな奴の声が響く。二人の攻撃が奴の動きを完全に封じてくれた。


―今だ―


 レイアの声が再び僕に届く。


「エウリ! ヴェル! 下がれ!」


 二人が僕の声に反応したのを確認して、僕は上段からレディアスを振り下ろしながら叫ぶ。


「悪を討つ一撃!」


 レイアの悪を討つ一撃で威力を増した刀身は輝きを増し、闇に沈んでいた穴の中を白い世界へと染め上げる。

 レディアスの切先は奴には届かない。

 だが、その光はまっすぐに闇を切り裂き、空を切り裂き、轟音を響かせながら、奴の体を二つに引き裂いた。


 すぐに静寂が訪れる。

 その静寂を破ったのは、奴の声だった。


「ぐぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!」


 地の底から響くような声。

 それを発した次の瞬間、奴の体は威光を発するかのように周囲へ急速に膨張する。


「これでも、ダメなのか……」


 脇に転がったエウリが、力なく呟く。


―アレンの放った剣撃は、先に見たものよりも一段と神々しく、力強かった。

 飢餓の王(ファメス)を討ち滅ぼした時よりも、さらに強力だったと思う。

 にもかかわらず、死者の王はその動きを止めていない……―


 だが、奴の膨張は突然止まり、今度は急激に収縮して消えた。

 あまりに一瞬の出来事。


「やった……のですか? ……アレン!!」


 ヴェルがそう言いながら僕に駆け寄る。

 僕は肩で息をして答えることができなかった。

 触手に貫かれた足の痛みに加え、全身がバラバラになるほど痛い。

 僕は無意識に右足の傷に手を当て、癒しを願った。

 足に受けた傷だけでなく、あちこちに受けた傷が一瞬にして塞がる。

 レイアの持つ聖戦士としての能力、癒しの手(レイオンハンズ)によるものだ。

 動けずにいる僕の周りに、エウリとGさんが近寄ってくる。

 僕はようやくヴェルに応えられた。


「たぶん」


 エウリとGさんが僕に代わって言葉を続ける。


「さっきまでの嫌な空気が消えたな」


「どうやら死者の王に痛い目を見せて、追い返すことに成功したようじゃのう。

 本体は逃げたじゃろうが、依り代を失ったんじゃ。相当の痛手じゃろうよ」


―よくやったな。だが、鍛え方が足りないぞ。体がバラバラにならなかったのは運がよかったな―


 右手に握るレディアスからレイアの声が聞こえる。

 レイアとの付き合い方が少しわかってきた気がした。


 現状、かすり傷程度なので、そのまま一息つく。

 そして見た目に良くないという理由で、擦り傷の治療を行ってから、僕たちは穴から出ることにした。

 戦いは終わったんだ。




 Gさんに飛行(フライ)の魔法をかけられたエウリが、僕たちを地上へと抱えて往復してくれた。

 4人の中で一番筋力があることが、選ばれた理由だ。

 ヴェル、Gさん、最後に僕が地上へと戻る。


 僕が地上に上がり目にした光景は、驚くべきものだった。

 崩壊していない中央公園の半分とその周辺に、多くの人が集まり、ろうそくを手に立っていた。


「これは……」


 僕が思わず口に出すと、ロアンが「お帰り」と言って、ぱんぱんと腰のあたりを叩いてきた。

 そして状況の説明をしてくれる。


「シティガードたちが、街中を触れ回ってくれたんだよ。『月影の司教は敵ではない。今、街を守るために戦っている』ってね。

 その声を聞いた人たちが、次々に集まって、祈りを捧げていたんだよ。

 みんなが、アレンちゃんたちの無事を祈っていたんだよ」


 ロアンは感極まったように、最後は鼻声だった。

 ゲートを塞ぐ際の景色を見たこともあり、多くの人たちが集まってくれたのだろう。

 これだけの人が祈り、願ってくれた。僕たちが負けるわけがなかった。


 僕が上がってきたことに気づいた市民が、声を上げた。


「猊下がご帰還なさったぞ! 街は救われたんだ!」


 一人が上げた声が次々に伝播し、街中に広がっていく。

 まるでストームポートが歓喜の叫びを上げているように思えた。

 真夜中を過ぎ、日付が変わっている。

 こうして僕の人生史上、最も過密な4日間が幕を下ろした。


とりあえず一息。

アクション中心のハイテンポはここまでです。

次話からはその後の話となります。いつものまったりペースな感じで。

本文中で既知感をデジャヴと書いております。本来であれば誤用に当たるかと思いますが、アレンの状況を鑑み、あえて使用しております。


皆さんの声を聞かせてください。

一言でも結構です。それが次へのエネルギーになります!


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