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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第四章 陰謀
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27:闇


「Gさん、それどういう意味ですか?」


「文字通りじゃよ。奴の狙いがわかったわ。

 奴はストームポートの地下構造を利用して、強大な召喚術を完成させた。

 いや、次元門(ゲート)を開くという方が適切か。

 ここで死んでいったレーヴァたちは供物として利用したのじゃろう。

 わしらを足止めするための捨て石として、一石二鳥という訳じゃよ」


「地獄直結の門なら、小さいものを開くことができますよね?」


「規模が違う。あのゲートが開けば溢れ出す悪魔の数も質もけた違いになる。

 この規模で門が開けば、その大きさに見合った強力な悪魔も通れよう」


「壊しましょう! どうしたらいいんですか?」


「術式は完成された。そして起動された。今から魔方陣を壊すには時が足りん。

 ストームポートごと破壊すれば別じゃが」


「そんなことできるわけないじゃないですか。1万を超える人がここにいるんですよ?」


「じゃがせねばならん。ゲートが開けばどのみちストームポートの住人はみな死ぬであろう。

 ゲートを開かせなければ、少なくとも世界は救われる」


「次の突撃が来る!」


 パーシバルが叫ぶ。

 一同が迎撃態勢を取る中、僕とGさんは話し続けた。


「だからって、ここにいる人たちが犠牲になっていいわけありません!

 僕は諦めませんからね」


「何をする気じゃ」


「月の神様に奇跡を願います。どんな代償を払ったとしても、ストームポートが消えてなくなるよりはましでしょ。

 きっとどうにかしてくださる」


「相手は死者の王(モーテュラム)の使徒かあるいは依り代か。簡単にはいくまい」


「僕はどちらも絶対に諦めない。あの門をぶち壊して、世界もストームポートも守りたいんです!」


「まて……これならいけるかもしれん」


「方法があるんですか?」


「やって見んと分からん。一人の力で足りぬなら二人の力を合わせればいい。

 事は単純ではないが……試してみる価値はある」


 敵の突撃が終わり、レーヴァに深刻な負傷者が出ていた。

 僕は治療を施しながら、Gさんに尋ねた。


「その方法は?」


「おぬしの奇跡と、わしの魔法を合わせる。それも、第9段階の最上位のものをな」


 僕はレーヴァに杖による治療を施して、Gさんに歩み寄りその内容を聞いた。


「そんなこと、できるんですか?」


「わしもやったことはない。じゃが、これ以上の手立てもない。これで駄目なら、打つ手などない」


「敵の動きが早い、次が来る!」


「まだ供物が足らぬようじゃな。急ぐぞ!」


「みんな! Gさんと僕は暫く手が離せなくなる。なんとか持ちこたえて!」


 僕がそう言うと、Gさんはすぐに魔法の準備を始めた。

 宙に魔法文字を描き、時折複雑な幾何学模様を描いていく。

 最後に一つ大きく息を吸うと、詠唱を始めた。


「地に溢れる万物の精霊たちよ、我が声を聞け。

 これよりアレン・ディープフロストが願う祈りを、すべてのものが同様に祈れ!

 我が名はガイア。わが命に従い、我が望みを聞き入れよ!

 聞け! 我が願いを(ウィッシュ)!」


 Gさんの体から天に伸びる光が放たれると、はるか天上でその光が弾け、周囲にその光が舞い降りる。

 小さな星々が雪のように降っているようだった。

 Gさんはよろめいてその場に膝をついた。

 僕はすぐに聖印(シンボル)を宙に描き、無言で祈りを捧げる。

 それから、天に向かって声を上げた。


「我が主月の神(デミムア)よ、あなたの使徒が願い申し上げる。

 今この場に現れようとしている、世界の秩序を乱し、この世に混乱をもたらすものの顕現を阻み給え!

 今こそ神の奇跡を(ミラクル)!」


 空に見えていなかった月が突如天空を照らし、その光が舞い降りる光の粒をより輝かせる。

 その一つ一つが、願いを月に届けるかのように、尾を引きながら月へと集まっていく。

 幾万、いや、幾億もの光の線が天を走り、月に集まると月はひときわ輝きを増した。

 その光にストームポート全体が包まれる。

 そして、突如すっとその光が消え、月も再び姿を消した。


 目の前の、そして周囲に上がっていた5本の赤い光の柱は消えていた。


 僕もその場に膝をつき、ひどい疲労感に襲われながらもGさんに声をかけた。


「これで、門は開きませんよね?」


「……おそらくな。不穏な魔力の流れは収まったようじゃ」


 二人してその場に座り込んだ。


「何が起こったんだ?!」


 敵の突撃を退け終え、肩で息をしながら振り返ったエウリが声をかけてくる。


「詳しくは後で。それよりもレイブンズの部隊は?」


「動きがおかしい。統率が乱れているようだ」


 逆に僕から問いかけ、それにエウリが応じた。

 それを聞き、僕は立ち上がってすぐ先の敵兵たちの様子を見る。

 一糸乱れぬ行動をしていた彼らが、隊列を乱し、周囲を見回したり、状況を確認しているのが見えた。

 僕はその場からさらに数歩前に出て、聖印を描いてから、奇跡を願う。


感情の鎮静化(カームエモーションズ)


 そして精一杯の声で叫ぶ。


「レイブンズの兵士たちよ!

 貴殿らに戦う理由はないはずだ。武器を収め、レイブンズの囲い地(エンクロージャ)に戻りなさい!」


 その声を聞いたレーヴァたちは、その言葉の意味を一瞬考えたように見えた。

 そして、その後、ばらばらと少しずつではあるが、レイブンズの囲い地の方へと歩き始める。


「これで、終わりだな? 単調だが、何度も繰り返されればかなり疲れる」


「何も終わってないんですよ。

 僕たちはここに来た目的を果たせていない。

 奴は最後の光の上がった場所にいると思います。

 儀式か魔法の術式か、完成させるためにそこにいたはずです」


「うむ。すぐに向かえば、まだ間に合うじゃろう。

 ここでは瞬間移動は使えぬからな」


 僕たちはすぐ目の前に上がった赤い光の場所、この街の中央付近へと向かった。

 レイブンズの部隊が整列した場所を超えると、その先に異様な光景が見えてくる。

 僕たちから死角になっていた中央市場の南半分と、その先の中央公園の半分ほどの地面が消え、巨大な穴がぽっかりと口を開けていた。


「地下に存在する先ほどの術式の中心点じゃな。衝撃で地面が崩れたか。

 ここで巨大なゲートの出現に必要な術式を完成させたのだろう。

 おそらく奴はこの穴の奥におる」


 縁から中を覗き込むが、日が暮れて暗いこともあり、底は見えない。

 だが、奴を倒さなければ同じことが繰り返される。

 今追い詰めるしかない。


「オリヴィア、部隊をここで待機させて、敵の援軍に対応してほしい。

 ロアン、パーシバル、ハーバーマスター、ケイトさんも、ここで防衛に当たってください。

 あまり敵の数が多かったりするようであれば、撤退も考慮して」


 オリヴィア旗下のアイアンウォッチたちは、この先に進むには能力が足りていない。

 ハーバーマスター、ケイトさんは装備が不十分だ。ロアンはそもそも戦闘には向かない。

 そしてパーシバルは何かあった時に、ここに残る味方の盾として働いてくれるだろう。


「僕とヴェルとGさん、エウリの4人で穴に降ります。いいですね?」


 僕の言葉に4人が頷く。


「じゃ、行きましょう」


 僕の言葉に合わせ、Gさんが羽毛の降下(フェザーフォール)の魔法をかけていく。

 僕も降下するメンバーに状態確認(ステイタス)の奇跡を施した。

 その途中、ロアンが僕の名を呼んだ。


「アレンちゃん! 約束して。絶対に戻ってくるって。誰一人欠けることなく生きて帰るって!」


 唇をかみしめ、真剣な表情のロアン。

 僕はロアンの肩に触れて、笑顔で答えた。


「約束するよ。僕たちは全員で帰ってくる」


「絶対だからね? 嘘ついたら怒るからね?」


 今にも泣きそうな顔でロアンは繰り返した。

 僕は笑顔のまま、答え続ける。


「うん。約束は守るよ。僕たちは大丈夫」


 そう言って再びロアンの肩を、ポンポンと叩いた。


「行きましょう」


 ヴェルがそう告げ、僕たちはそこにある大穴に飛び込んだ。


「おい、ちびっこ」


「ちびっこ言うな、髭寸胴」


「心配するな。あいつらは必ず帰ってくるさ。だから俺たちは、あいつらが帰ってくるための場所を確保しなきゃな」


「分かってるよ。みんなが帰る場所はあたしたちが守るんだ」


 ロアンは目をこすりながら、パーシバルに答えた。




 僕たちは穴の底に向けて降下している。

 想像していたよりも深い。

 下にあった空間に上部が崩落した、という感じではなかった。

 この穴はあけられたものだ。


「この穴自体がゲートになる予定だったのかもしれんな。しかし、想像以上に深い」


 Gさんの声が聞こえる。

 垂直に100mくらいは降りただろうか。

 夜目の利く僕の目に底が見えた。


「もうすぐ着地です。あと5m。3、2、1、今」


 ヴェルがカウントを取り、Gさんとエウリに告げる。

 ふわりと降り立って周囲を警戒してから、エウリが告げた。


「僕もガイア殿もハーフエルフだ。夜目は利くし大丈夫だ」


「そうなのですね。覚えておきます。でしたら明かりはない方がいいでしょう。敵に気取られる心配が減ります」


 穴の直径は100mまではない、そんな感じだ。僕たちは飛び降りた側、北側の壁面付近に着陸している。


「まずは中心部を調べるぞ。なんぞ手がかりが見つかるかもしれん」


 そう言ってGさんが慎重に歩き出した。

 僕たちはすぐにGさんを中心に、ヴェルとエウリがGさんの左右前方、僕がGさんの後ろの位置につく。


「嫌な感じしかしませんね」


 エウリの率直な感想だった。

 たしかに、穴の底で息苦しいというのはあるのかもしれないが、ここに漂っている空気はそんな単純な話ではなさそうだ。

 奴の気配を感じる。

 濃厚な血とカビの混じるような、独特のにおいがしている気がした。


 10歩ほど進んだところで、前から憎悪や殺意に似た気配が強まる。


「まこと忌々しい。貴様は排除したはずだ。生きておろうとはな」


 闇の中から声が響いた。おぼろげな輪郭が見えるが、それが人であるかは分からない。そこに浮かぶように見える二つの赤い目が印象的だった。

 その声には聞き覚えがある。

 だが、その声の主の特徴である流麗さは感じられない言葉遣いだった。


「デューザル。いや、その言葉遣いはデューザル卿ではありませんね。

 彼を依り代にしたのですか、死者の王(モーテュラム)!」


「礼を欠いておるな。依り代とて神が目の前におるのだぞ。

 頭を垂れよ!」


 その言葉と同時に、強烈な威光が周囲に広がる。

 周囲がすべて闇に染まりそうなほど強大な力に、まともに立ってはいられなくなる。

 Gさんがその場に、上から押し付けられるように膝をついた。


「神と認めぬ者に、膝をつく道理はない!」


 渾身の力を込め、エウリが叫ぶと、彼の聖戦士(パラディン)威光(オーラ)を放ち、わずかだが死者の王の威光の力が弱まった。

 僕は聖印を描いて、神に奇跡を願う。


月の神(デミムア)よ、我々に闇と戦う庇護を! 祝福を!」


 僕がそう口にすると同時に、僕の体を通じて月の神の威光が周囲に広がる。

その光は闇の威光と拮抗し、僕たちを奴の影響下から救い出してくれた。


「無駄な争いはしたくありません。死者の王、おとなしく自らの領土に、地獄(ゲヘナ)にお戻りなさい」


「いちいち偉そうで気に入らん!

 ここは我が領土に近い。この領域において、4人で何ができるか!

 自らの愚かさを悔いて死ね!」


 死者の王から無数の黒い触手のようなものが伸びる。

 僕は咄嗟にスロンドヴァニールの鱗を投げた。

 鱗は即座に大型の盾の大きさに変わると、接近してくる触手を弾いて接近を防いでくれている。


「愚かなのはお前じゃ! 神は殺せぬが、依り代なら殺せる!」


 Gさんは通常よりもかなり速い速度で魔法文字を宙に描き、即座に魔法を放った。


分解光線(ディスインテグレイト)!」


 Gさんの手元から緑色の輝きが放たれ、奴へと一直線に伸びた。

 直撃すると思われた時、その進行線上に触手が伸び、光線を浴びて霧散した。


黒き触手(ブラックテンタクルズ)の魔法ではないのか?!」


「その通り、これは実体を持っている。残念だったな」


 触手の動きが早くなり、ヴェルとエウリはそれを躱すので精一杯で近づけない。

 僕はGさんの前に位置取りを変えて、レディアスを振るって触手を払い続ける。

 Gさんをスロンドヴァニールの鱗が守っている状態なので、僕も大きく前に出ることができない。

 今の状態ならGさんは魔法を使い続けることができる。

 僕はレディアスを振るい、触手を切り落としながら、隙を見出して、ヴェルとエウリに高速詠唱(クイックンスペル)の技術を応用して治療を行う。

 杖に持ち替えての治療は難しい。

 治癒の奇跡が尽きる前に倒さなければならなかった。

 だが、十分に勝機はある。

 僕たちは必死に戦い続けた。


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