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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第四章 陰謀
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26:兆


―始めるよ―


 僕はその場のメンバーに合図する。

 Gさんの声を聞いていないケイトさんに、まだ待つように指示すると、ロアンが先行して緑地帯から慎重に出て行く。

 すぐそこのキャッスルの鉄柵まで近づくと、周囲を調べ始めた。


―思ったとおり、警報が鳴る仕掛けがあるね。少しだけ時間をちょうだい―


 そう言って探索の範囲を広げる。

 すると数m離れたところにしゃがみ込んで、何かを操作し始めた。


―OK。ここからこっち側の警報は止まってる。急いで超えよう―


 そう言うと最初にヴェルが鉄柵を乗り越えて、ロープをかけてくれる。

 僕はそれを使って鉄柵を乗り越えた。

 その時点で気がついたのだが、僕以外はロープなしで簡単に鉄柵を超えていた。

 なんだか僕はお荷物のような気がする。

 落ち込んでいる場合じゃないと自分に言い聞かせ、先に進もうとしたときにヴェルに止められた。


―この先、仕掛けがあります。進んでは危険です―


 どうやら罠の類らしい。

 ロアンが再び周囲を調べると、建物の壁に制御盤があると伝えてきた。

 彼女が軽い身のこなしで壁に近づくと、どこからともなく小さな矢が飛来する。

 それを難なく躱して壁に到達すると、制御盤を操作し始めた。


―これでOK。進むよ―


 ロアンを先頭に壁際を前進していく。

 向かうのは右翼の建物の一番奥。

 裏側から接近しているので左方向だ。

 途中2回ほど、


―罠―


 というロアンの声に僕たちは足を止める。

 ケイトさんがほぼ同じタイミングで足を止めているのは、彼女もまた罠の存在に気づいているのだろう。

 そうして、右翼の建物の一番奥までたどり着いた。


―執務室は2階なんだよね? 窓からは入れると思うけど……どうする?―


―どうする? って、もしかして僕が昇れないから?―


―そうですね。アレンだけが壁を登れないでしょう。上から縄梯子を降ろしますから、急いで登ってください―


―待って。奴がいたら危ないよ―


―ケイトリンの話は聞いています。ですが、私が即死するとは思いませんし、すぐにロアンやケイトリンが援護してくれるでしょう―


―気づかれたら奇襲の意味がねぇ。さっさと行こうぜ―


 ハーバーマスターがそう言うと、すぐにヴェルとロアンが壁の継ぎ目に指先をかけながら昇っていく。

 僕は慌てて、ケイトさんに続くように、ヴェル、ロアン、ケイトさん、ハーバーマスター、自分を順番に指さした。

 伝わったようだ。ロアンに続きケイトさんも壁を上り始める。

 窓のすぐ下まで到達したヴェルが、ロアンの到達を確認してから窓を破って突入。ロアンがそれにすぐ続くと、縄梯子が下ろされる。

 同時にケイトさんが飛び込み、さらにハーバーマスターが続く。

 僕は縄梯子を上り、一歩遅れて室内に入った。

 入る前から気づいていたが、高価そうな調度品でまとめられた広い執務室に、デューザルの姿はない。


「ここにはいないようですね。どうします? ガラスを割って入りましたので、音を聞かれている可能性が高い」


 周囲を警戒しながらヴェルが尋ねてくる。

 ここは時間をかけるべきではない。奇襲の意味がなくなる。


「少々雑な気もしますが、こうなっては仕方ない。家探しをしましょう。十分、警戒してください」


―Gさん、忙しいようなら返答は不要です。執務室に入りましたが奴を発見できませんでした。引き続きキャッスルの中を捜索します―


 一方的にGさんに報告を入れるつもりだったが、返答があった。


―了解した。今、西門を通過してそちらに向かっておる。警戒しながらの移動なので、10分ほどでキャッスルに到着する予定じゃ―


―了解です―


 ヴェルが執務室の扉を開けて、廊下の様子を伺っている。

 その様子を不審に思ったヴェルがケイトリンに声をかけた。


「ケイトリン、ここはいつもこんなに人の気配がしない場所なのですか?」


「いや、以前は召使いや雑務を行うための使用人が結構いたはずだ。でも、確かに人気がないね」


 二人は警戒しながら扉の外へ出る。


「やはり人の気配がない。もぬけの殻?」


 ヴェルが呟いた。


「手当たり次第でも探していくしかないね……」


 僕が呟くと、ヴェルとロアン、ケイトさんとハーバーマスターの二人一組が、手近なところから扉を開けて確認していく。

 右翼の建物の2階を確認し終えて、中央のホールまでやってきた。

 誰もいないし、明かりもついていない。日が暮れたようで、すっかりと暗くなっていた。


「やはり誰もいないようですね」


 奴ほどの力を持つ者が、息をひそめてどこかに隠れているというのは想像しにくい。

 執務室にいないということは、どこかで何かをしているだろう。

 ここにいないのであれば、奴が潜伏できる場所はどこだ?

 独自に隠れ家を持っている可能性もある。奴が何かを企むなら、ある程度広い場所も必要だろう。

 レーヴァをひそかに密輸していたくらいだ。

 レーヴァの傭兵……そうか。


―Gさん、僕たちは一度外に出ます。キャッスル前で合流しましょう―


―もう到着する。待っておるぞ―


「一度外に出ましょう。ここに奴がいるとは考えにくい」


「しかし他を探すとなると、手がかりがないだろ?」


 ハーバーマスターがそう言うので、僕は答える。


「当たりはつけてます。とりあえず合流しますよ」


 僕たちは走って正面玄関から正門へと向かう。

 そこにはGさんたちが待機していた。


「街中の様子はどうですか?」


「静かなものじゃ。市民は閉じこもって息をひそめておるよ。

 何かが起こっておることを察しておるのじゃろう。シティガードの大半は我々に協力的じゃ。

 じゃが、おるはずの鉄の監視団の姿が見えん。

 デューザルに付き従っておるのかのう」


「デューザルはレイブンズにいると思います。山岳地帯も軍事に関してはレイブンズが仕切っていたようですし、レーヴァを密輸していたわけでしょ?

 広さが必要で、兵力があって、逃げ込むには最善だと思いますが?」


「なるほど。その可能性は高そうじゃな。

 じゃが、レイブンズの囲い地(エンクロージャ)に踏み込むとなれば、いろいろと問題がある。

 あそこは治外法権が認められておるのじゃから、連中もうんとは言うまい」


「僕たちは法の外にいます。悪く言えば反乱分子です。デューザルを糾弾するのであれば、ウエルナート男爵家はもう無いので、領主不在の空き地ですよ。どこの法が適用されるというのですか?」


「随分乱暴じゃが、まあ、そのとおりではあるな」


「とりあえずレイブンズに向かいますよ」


 そう言ったときに初めて、Gさんたちの後ろにかなりの数のシティガードがいることに気がついた。


「って、何でこんな数のシティガードが?」


「さっき言うたじゃろ、シティガードは大半が協力的じゃと」


 レイブンズは少ないとはいえ、数百の兵力をここでも持っているという話だ。

 乱戦になれば犠牲者が増える。


「戦闘に巻き込みたくありません。シティガードの皆さんは街の西側に残って、万一の際の住民の保護や避難誘導をお願いします」


 そう告げて僕たちはレイブンズの囲い地に向かおうとするが、ヴェルが呟く。


「先手を打たれましたね」


 その声の後から、僕にも足音が聞こえてきた。

 整然と揃い、力強く行進する足音。かなりの数だと思う。

 何より乱れなく揃った音が、強い威圧感を与えてくる。


「囲まれてはまずいですね。キャッスルの正門で迎撃しましょう。周囲の柵を超えてくるようなら建物まで後退します」


 相手は職業兵士、数の差は圧倒的。

 情けをかける余裕はない。

 そう思っているとオリヴィアが不意に声をかけてきた。


師匠(マスター)アレン。彼らは戦いの中にのみ生を見出します。

 気後れなさいませぬよう。彼らの戦いを終わらせてください。レーヴァに魂があるのであれば、それは輪廻を辿り、違う人生にたどり着きます」


 僕は相当悲壮な顔をしていたのだろう。オリヴィアは気に病むことはないと言ってくれているのだ。


「オリヴィア、僕の友達のザックを覚えている? 彼さ、今レーヴァたちを率いて面白いことをしているんだ。

 彼を見て思うんだよ。死ななくてもレーヴァのままでも、きっと人生は選べるって。

 でも、僕は躊躇はしないよ。今、倒れるわけにはいかないからね」


「では私も、ザックのしていることを見るまでは死ぬわけにはいきませんね」


 そんな言葉を交わして僕たちは迎撃態勢を取る。

 パーシバルとエウリを中心に左右に7名ずつのレーヴァ。門の幅よりも広く、十分受け止められる。

 2列目に僕とオリヴィア、その左右に3名ずつの魔道兵装のレーヴァが並ぶ。

 その外側にケイトさんとロアンが弓を持って立っている。

 最後尾にGさんとハーバーマスター。

 ヴェルには押されているところや、打ち漏らしを自由に潰してもらう。

 30mほど先に、整然と並ぶレイブンズのレーヴァ兵。

 飛び道具を使うつもりはないようだ。

 最前列の兵士たちがかなり大きな盾を隙間なく並べて構え、2列目の兵士たちが長めの槍を手にしている。

 重装兵による、突撃を敢行するつもりのようだ。


「バリケードを築く時間があれば、もう少し楽ができたかもしれんな。言うても仕方ないが。オリヴィア、魔道兵装のレーヴァは何を仕込んでおる?」


「現状、4名が氷の嵐(アイスストーム)、2名が電撃(ライトニングボルト)です。ですが、氷の嵐は装備分が終われば予備はありません」


「うむ、良い選択じゃな。氷の嵐は同時に打たせるな。順番に使い、効果時間を最大にするように心がけてくれ」


「了解です」


 Gさんとオリヴィアが打ち合わせを終わると同時に、前列のレーヴァ兵がこちらに前進を開始する。


「来るぞ!」


 エウリが声を上げると同時に、自らの威光を周囲にまで広げる。

 味方に聖戦士の祝福が施された。

 最初はザッ、ザッ、ザッという感じだった敵兵の足音が、徐々にザザザザザと早くなり、急激に距離が縮まる。

 こちらの魔道兵による氷の嵐が敵兵の前に放たれて、その進行速度を遅らせると同時に、氷塊が激しく打ち付ける。

 視界が悪くなるが、ロアンとケイトさんが矢を放ち始めた。

 続けて味方による電撃が放たれる。

 それを抜けてきた敵兵の盾と、こちら側の前衛の盾が激しくぶつかり合う。

 敵の2列目からは槍による突きが前衛を襲った。

 Gさんが蜘蛛の糸(ウェブ)の呪文を放ち、2列目の動きを封じる。そこに真横からヴェルが切り込み、蜘蛛の糸に囚われて動けないでいる敵兵を切り倒していく。

 こちらの1列目はその場を持ちこたえ、敵の槍が来なくなったところから反撃を始めていた。

 数度の打ち合いが繰り広げられ、30名ほどの敵兵がその場に倒れている。


「敵はなぜ総攻撃をかけてこんのか?」


 Gさんが呟いた。

 確かに最前列の盾を有効に使うのなら、後続を断続的に送り込んだ方が有効なはず。

 だが、第一波はこれだけ、と決められたような攻撃だ。

 それだと相手の方が明らかに消耗が大きくなる。


「分かりません。何か企んでいるのでしょうか?」


「何にしてもこれなら耐えきれる。ありがたいじゃねえか」


 パーシバルが振り返り、そう言った。

 そう、これなら持ちこたえられる。

 それも向こうは分かっていると思うのだが……。

 再び盾を構えたレーヴァ兵の後ろに、槍を持った兵士が密集隊形を取る。

 同じことを繰り返すつもりのようだ。


「次が来るぞ!」


 後ろから見ていたハーバーマスターが叫ぶ。

 先ほどと同様に氷の嵐が敵の進行を抑えつつダメージを与え、電撃による攻撃で少しずつ敵を討ち減らす。

 最前列が激突し乱戦になると、今度はGさんは別の魔法を行使した。


「やる気なのはようわかったが、付き合ってやる必要はなかろう」


 Gさんの上方に火球が4つ現れると、後方で待機していた敵のレーヴァの集団に次々降り注いで爆発を起こす。

 火球の直撃したあたりにぽっかりと穴が開き、目に見えて敵の数が減った。

 ヴェルは再び敵の2列目に直接攻撃し、槍の兵士を討ち減らしていく。

 僕は回復の杖を使って、傷を負った味方のレーヴァやエウリを回復させ続けた。

 明らかに敵の消耗は激しい。

 だが、向こうは三度、同様に陣形を組むと、限定的な数で突撃してくる。

 僕は激しい違和感を覚えていた。

 3度目の突撃を凌いだ段階で、敵兵の総数は当初の半分近くまで減っていた。

 Gさんの強力な範囲攻撃が、かなりの敵を葬ったようだった。


「なんで、こんな無駄なことを繰り返す……」


 僕は苛立ちのようなものを感じていた。

 まるで命を捨てるために突撃しているようにすら見えた。

 こんなバカな戦い方、させられる方が哀れだ。

 敵は4度目の突撃を敢行してきた。


 動かなくなったレーヴァたちの亡骸が、キャッスルの門付近に多数転がっている。

 こうなると進軍するのも足元が不安定になるはず。

 それでも敵レーヴァ兵は、次の突撃の準備を始めていた。


「一方的な虐殺だな。胸糞悪い」


 パーシバルが呟く。それにエウリが答えた。


「だが、迎撃しないわけにもいかない。敵兵が目の前にいる状態で、移動もできない」


 僕はエウリの言葉を聞いて、ハッとなる。


「これは、時間稼ぎでは?」


「何のための?」


 僕の言葉にハーバーマスターが問いかけてくる。


「それは、分かりませんけど」


 敵が5度目の突撃を開始しようとしたその時、鐘の音がゴォーン、ゴォーンと低く鳴り響いた。


「なんでこんな時間に鐘を鳴らすんだ?」


 前方を見据え、盾を構えたままでエウリが言った。

 ハーバーマスターが意外なことを口走る。


「今の音、どこから聞こえた?」


「鐘の音じゃ。後ろの教会じゃろう」


天上神(セレスティアン)教会の鐘楼は修復中で、鐘は今、鳴らせない」


「え?」


 じゃあどこから鳴ったのか。そう思った次の瞬間、

 ストームポート南側、やや西寄りの城壁手前くらいで赤い光が天へと上るのを見た。

 次に東南側、城壁のやや外側。次に北寄りの城壁付近――と、次々に赤い光が天へと伸びて行く。

 シティを取り囲むように、5本の赤い光が見えていた。


「敵が来るぞ!」


 エウリが叫ぶ。

 先ほどまでと同様の突撃が、また行われたのだ。

 魔道兵装のレーヴァたちが魔法を放ち、前列が敵の進撃を受け止める。

 僕は回復の杖を振りながら、Gさんに尋ねた。


「Gさん、あの光は一体?」


「わしにも分からん。じゃが、ストームポート全体に奇妙な魔力の流れが生じておる」


 そう言っている間に、ヴェルと前衛たちの奮闘で突撃を退けた。

 それと同時に、すぐ目の前――中央市場(マーケット)あたりから一回り大きな赤い光が天へと伸びると、地響きが鳴り始める。


「地震か?」


 ハーバーマスターが声を上げるが、Gさんは目を見開き、目の前に上がる光を見て呆然としていた。


「地獄の……地獄の門が、開くのか……」


 それは僕の理解を超えた言葉だった。


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