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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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没稿補足:再議論

当初10話として書いたのですが、考えた末にボツにしました。

ですので、これは読み飛ばしてくださって大丈夫です。


実際の10話の冒頭部分の詳細描写になります。お読みいただける場合は内容が重複することをご理解ください。


 軍議用の天幕から、割り当てられている宿舎用の天幕に移動して、簡単な食事を取った。

 さすがに今日一日で盛りだくさんすぎると思ったが、これからローズに偵察に出てもらわなければならない。

 彼女一人を働かせて休む気分にはなれない。


「ローズ。相手に見つからないことが第一。あと、敵はジャングルに入ってすぐのあたりに陣取ってるはずだから」


「はい。吉報を持ち帰るので、安心しててください」


 ローズが笑顔で答える。

 そして短く、


「それでは、後程」


 そう言い残して闇に消えていった。

 しばしローズの消えた闇を見つめる。


「今夜は派手な出来事はないかもしれないけど、山場だな」


 ガルスガ族長のことも気になる。

 彼には手紙で警告してあるが、今夜は暗殺が実行される可能性が高い。

 ジャングルに月が昇り始める。

 すっかり暗くなった今、月明かりは煌々と周囲を照らし出す。


「僕も、今のうちに準備をしておくか」


 独り言をつぶやいてから、セーブポイントの端に向かう。

 近くを哨戒していた従士(スクワイア)に声をかける。


「ちょっとした儀式をするので、人が近付かないように見ていて欲しいんだけど、頼めるかな?」


 若い従士は何をするのか気になって仕方ないようであった。

 そりゃ、そんなこと言われれば何をするのかは気になるよね。


「人が近づかないように見ててくれれば、儀式の様子は見ていても構わないよ。でも、他言無用にしてね?」


 彼は二回頷いた。

 僕は奇跡の行使を準備する。

 月に祈りを捧げた後に、聖印を宙に描く。


「月の使徒が願い申し上げます。世界の善きものの守護者よ、私の呼びかけに答え、お力をお貸しください」


 宙に描いた聖印が輝き、天に細い光が伸びた。

 一瞬の出来事。

 次の瞬間には目の前に一人の人物が立っていた。背中に銀の翼をもつ背の高い姿。

 ローブを纏い、手にはこれも銀色に輝く槌矛(メイス)を携えている。


「私を呼んだのは貴殿か?」


 その人物はそう尋ねた。


「はい、偉大なる守護者(エンジェル)よ。お力添えを願いたく、お呼びいたしました」


 僕はその場に膝をついて答えた。


「私の名はロロカント。月の使徒よ、お立ちください。あなたは善に仕える、いわば同胞。あなたの敵を討つために私は戦いましょう」


「そう言っていただけると幸いです。明日の夜までの一日、どうか私の指揮の下で、その槌矛を振るってください」


「申し出、確かに承りました。あなたの近くに控えておりますので、必要な時にお呼びください」


 そう言い残すと守護者は姿を消した。


「ふう。これで準備はOKと」


 急激に疲労感が襲ってくる。

 ペガサスの時も思ったけど、この奇跡はちょくちょくは使いたくない感じだ。

 ふらついた僕を気遣って、見張りに立っていた従士が駆け寄ってくる。


「ああ、ありがとう。大丈夫だよ」


 僕は笑顔で彼に応える。


「い、今のは天使様ですか?」


「そうだね。僕たちを守ってくれる天使様だよ。このことは内緒にしておいてね?」


 彼は再び縦に二回首を振った。

 僕はふらつきながら自分の天幕に戻る。

 背後で若い従士が頬を高揚させ、僕の背を見送っていたことを、僕は知らない。


 自分たちの天幕に戻り、そこにいたコマリの脇に座る。


「大丈夫ですか?少し顔色も悪く見えますが?」


 僕の様子を見てコマリが問いかけてきた。


「大丈夫、ただ少し疲れたよ。偵察に出てもらっているローズには悪いと思うけど、少し休ませてもらうね」


 そう言って体を横たえる。

 瞑想状態に入りながらも、コマリの存在感を確かに感じていた。

 彼女の存在がとても心地よい。

 何かに抱かれるような感覚を感じながら、より深い瞑想に入った。


 どれくらい瞑想に入っていたのか、正確な時間はわからないが、天幕内に別の人の気配を感じて瞑想から覚める。

 十分な休息とは言えなかったが、眩暈は落ち着いていた。ひどい脱力感もない。


「アレン、戻りましたよ」


 ローズの声だ。

 何事もなく戻ってきてくれたことを神に感謝してから、彼女に向かう。


「どうだった?奴らはいた?」


「ええ、無警戒でしたよ。

 スコーロウが12体、うち2体は司祭クラスですね。あとはドロウが20ほど。数としては大したことはありません」


「そう。それなら想定内だし、むしろ少ないくらいだ。蠍神(スコルピウス)の一派は、大規模な動員をかけるだけの力が無いのかもしれないね」


「ただ少し気になることがあります。発見されないためにあまり接近はしていないので、詳細はわからないのですが、子供の姿を見かけました」


「子供、ですか」


 僕は自分の抜け作加減に、苛立ちを感じていた。

 部族に蠍神(スコルピウス)の配下が置かれている状況で、人質を取るのは常套手段だろう。

 仮にガルスガ族長がクァルテレンダを押さえようとしてくれても衝突になるだけだ。

 セーブポイントの安全を考えれば、それで十分といえる。

 ダメだ。僕がここにいる意味を考えろ。僕は何をしにここに来た?何のためにここにいる?

 ヴィッシアベンカ族に流血を強いる方法は正しくない。

 ましてや人質となっている子供の安全は保障されていない。

 だとすれば、方法は一つだけ。


「これから、軍議用の天幕に行きます。ローズ、哨戒に当たっているザックを呼んできてもらえませんか?」


「わかりました」


 そう言ってローズが出ていく。僕もコマリと共に外に出た。

 足早に移動してから軍議用のテント前の従士に声をかける。


「当直の指揮官はおられますか?」


「エウリシュア様がおられます」


「至急取り次いでいただきませんか」


 従士は頷いてから天幕に入っていった。

 すぐに中からエウリシュアが声をかけてくる。


「司教、お入りください」


 僕は軍議用のテントに入った。

 エウリシュアは物資の帳簿を確認していたようだ。

 テーブルの上にいくつかの書類と帳簿が置かれている。


「こんな時間にどうした?事務仕事の陣中見舞いってわけじゃないよな?」


「ええ、エウリ。少しだけ緊急事態です」


 僕はそう言ってから状況とこれから行おうと思うことに関して説明した。

 険しい表情で彼は言った。


「アレン、その判断は正しいと思う。デニスとソウザを呼ぶから少し待っててくれ」


 そう言い残してエウリシュアは天幕から出ていく。

 入れ替わりでローズとザックが天幕に入ってきた。


「呼んできましたよ。で、緊急で軍議という事は、これから奇襲ですか?」


 ローズが僕に問いかける。


「ええ、流す血を最小にするには、それしかありません。働きづめのローズには悪いのですが」


「そこは気にするところじゃありません。議論は聖炎が揃ってからにしましょう」


 ローズの言葉に僕は頷いた。

 程なくエウリシュアが戻ってきた。


「デニスとソウザもすぐに来る」


 彼はそう言うとテント外の従士にお茶の準備を頼んだ。

 コマリがその声を聞いてから、


「私が準備いたします、少しお待ちください」


 そう言って席を立った。それをローズがすぐに追う。

 天幕の中にしばしの沈黙が訪れる。

 沈黙を最初に破ったのはソウザだった。白いシャツにベージュのロングパンツという比較的ラフな格好であったが、帯剣しているし盾も手にしている。


「どうした?なにかあったのか?」


 彼は天幕に入るなり、そう言った。


「全員が揃うまで待てよ」


 エウリシュアがソウザに言う。ソウザが椅子に座ると、デニスとコマリたちが揃って天幕に入ってきた。

 デニスはプレートをきっちりと着込んだ完全武装状態だ。


「お茶をご用意いたしました。こういう席には最適かと思います」


 そう言ってコマリがカップを並べて、ポットから豆茶を注いでいく。

 ドロウの豆茶の匂いが天幕に立ち込める。

 カップが目の前に運ばれたので、僕は一口含む。

 口に広がる香ばしい香りと酸味。やや刺激的にも感じるが、口の中でフルーティに感じられる。

 そして強い苦み。そしてほのかな甘さを感じて、喉へと流れていく。

 僕はこの味に覚えがあった。ラッシャキンに最初に薦められた豆茶の味によく似ている。

 家族ごとに、配合やロースト具合が異なると聞いた。これはコマリの家族の味でもあるんだ。


「うっ!」


 目の前でソウザが小さな呻きを上げるのが聞こえた。

 さすがに彼らには濃いのだろう。

 その様子を見ながら自分の感覚がはっきりとしている事に気がついた。

 なるほど、覚醒作用もあるんだな。確かにこういう場にぴったりだ。

 僕はカップを置き、話し始める。


「突然の招集をお詫びします。予定していた作戦を大幅に変更したいと思い急遽集まっていただきました。まずはローズの偵察でわかったことをご説明します」


 僕は聖戦士(パラディン)たちに人質がいる状況と、確認できた敵の戦力を説明する。そして、


「結論としては、奇襲をかけて人質の身柄の確保と、スコーロウの殲滅を行うべきと判断しました。準備の時間がありませんが、最良の策と考えます。みなさんの意見を伺いたい」


 そう締めて、意見を促す。最初に口を開いたのはローズだった。


「アレンは当初の案だとヴィッシアベンカ、クァルテレンダの両部族が決闘の際に激突することを回避する手段として今回の奇襲を提案したんだと思いますが、そこで流れる血は、彼らの払うべき代償であると私は思います。リスクを冒してまでそれを防ぐ意味はないかと。当初案で万全の態勢で迎撃する方が良いと私は考えます」


 ローズは話し終えると豆茶をカップを口に運ぶ。

 次に手を上げて発言を求めたのはコマリだった。


「奥方、どうぞ」


 向かいに座るエウリシュアが発言を促す。

 コマリは立ち上がって、話し始めた。


「ドュルーワルカ族もかつて同じ境遇でした。父ラッシャキンは子供を生贄として差し出すことを拒み、皆様方から差し出された手を取ることを決断したのです。ご想像ください。崇める蠍神(スコルピウス)の威光、人質、その状況で彼らの取り得る選択肢を。

 今、人質を解放し、蠍神の威光を払えるのであれば、彼らに違った選択肢が与えられます」


 コマリの言葉にソウザが頷き、言葉を続けた。


「俺たちには、救いを求める者の手を払うことも、蠍神のやり口を見過ごす選択もない。

 だとすれば話は簡単だ。子供は家に帰る。悪党は滅ぼす。それでいいじゃないか」


「ソウザ、言いたいことは良く分かったが、お前は奇襲に賛成なのか?元の作戦の方が良いと思っているのか?」


 デニスがソウザに問いただした。


「流れを読めよ、俺は悪党に吸わせる空気すら惜しいと思ってるんだ。善は急げ、って言うだろ?」


 その言葉を聞いてからデニスが座り直して腕組みする。

 少しの沈黙の後、デニスがゆっくり口を開いた。


「去年のドュルーワルカの集落に向かう前を思い出すよ。あの時のギヴェオン猊下の気持ちが分かる気がする。

 あの時よりも今の方が戦えない一般信者も数多くいるしな。

 だが、ソウザの言う通り、俺たちの取るべき選択は一つだと思う。守るべき民を守ろう。

 私は奇襲案を支持する」


 デニスがそう言って、エウリシュアを見る。


「聖炎の総意として反対となっても、アレンは行くつもりだったでしょ?

 私は最初からアレンと共に殴り込むつもりでしたよ。それが神の意志に背くことになるとは思いませんからね」


 エウリの言葉を聞いてから、僕は告げた。


「ありがとうございます。全員一致で奇襲をかけることにします。これから作戦を……」


「おい、ローズ殿は反対意見だったろ?全員一致ではないが?」


 デニスが指摘したので僕は説明した。


「ローズは決まった以上、作戦に全力で協力してくれます。それに、これは想像ですが、とりあえず正論の反対意見を言ってみた、という所でしょう」


 そう言ってローズの方を見る。


「読み切られているのか、信用されているのか。あまり面白くない気はしますが、その通りです。

 ただ、私の仕事が増えそうなので、それなりの手当ては要求しますよ?」


「僕の払えるものにしてくれると助かるよ。作戦の説明を続けますね」



 30分後、僕たちは行動を開始した。



少し迷いが生じて、ボツにしました。

第6話からここまで、時間が出来た際に再構成できればと考えております。

詳細は活動報告に書きたいと思います。

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