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幕間:エピローグそしてプロローグ


 その後僕は少し気になったのでダゥエナラカァを呼び止めて少し話をした。

 なぜ5氏族を取りまとめることが出来たのか、聞いてみた。

 この問いに対して、彼は僕が想像した通りの答えを返してくれた。

 飛空船のインパクトは十分に大きく、レディアスの儀式で神の力の一端を感じたようだ。

 蠍神という信仰を失った彼らにとって、それは渡りに船だった。

 僕が寝込んでいるときに、ダゥエナラカァも含む5名の族長もまた、見舞いに来ていたらしい。

 恭順を示すチャンスを求めて。

 ところが僕がそれを門前払いしてしまったので、彼らはかなり困ったらしい。

 彼はこの状況をうまく利用し、5氏族がまとまって恭順の意思を示すことを提案したそうだ。

 彼に言わせれば、陛下の掌で舞っただけのこと、だそうだが、それでも状況判断と政治的交渉能力は高いといえる。

 僕は、今後ともあなたの力に期待しますと告げた。


 ラッシャキンの提案にも驚いたが、ラッシャキンには他意はなさそうだった。本当に面倒だと思ったらしい。

 もっともクェルシャッシャは、


「ああ見えてラッシャキン族長は、先を読む能力にたけておられる」


 と評していた。

 ラッシャキンの提案は、他の氏族から見れば反対する理由がない。

 当然全会一致となるだろう。それくらいはラッシャキンも予想しての発言だったかもしれない。

 結果として、評議会の公平性と議論による決定プロセスをその場で実演できたことは大きな収穫だと思う。

 何にしてもラッシャキンが僕の良き理解者であることに疑う余地はない。

 これまでもずっとそうであったように、これからもそうあってくれるだろう。




 評議会から1週間が過ぎた。

 僕たちは各氏族へと族長を送り届けて戻ってきたところだ。

 セーブポイントの外壁工事はまだ続いているが、聖堂の基礎工事は終わった。

 労働力の分配が変わり、周囲のドロウの集落の建設が本格的に始まることになる。


 その数日後、エウリシュアが本国から戻ってきた。

 だが、同行しているはずのギヴェオン司教の姿はない。

 本国で別件の厄介ごとが生じた、とのことだった。

 前回のように、司教に危険があるとか、そう言う話ではないらしいので、あまり深くは聞かないことにする。

 聖炎(ホーリーフレイム)内部の問題に、僕が深入りする立場ではない。

 彼らの立場が大きく変わるようであれば、話は別だが。


 エウリシュアの帰還時に、新たな入植者と、都市建設に有用な資材や機器が持ち込まれた。

 それらはセーブポイントの建設を加速させるだけでなく、ドロウの生活基盤の構築にも大きな影響をもたらした。


 あと2週間もすれば、ファルナザールと、アウロシルヴァエの2氏族が、この地に移住してくる。

 その流れを踏まえて、今後もこの地に氏族が集まることになるだろう。

 その要因は評議会にある。

 族長もしくはその代理人を出席させることでOKなので、僕は族長は各集落に留まり、代理人が多く集まる形になると考えていたが、実際は族長体が揃って常駐を選んだ。

 最高の意思決定機関としての意味を理解した族長たちは、自ら参加することを選択し、族長代理を集落に置く形を取ったのである。

 結果、すべての氏族が、最終的にはこの地に集まる流れができていた。


 移住と言えば、ザックの率いるレーヴァ達も、遠くない段階で移住してくるだろう。

 議事堂を中心とした、どの氏族にも属さないドロウの町の基礎運営を彼らに任せてみようと考えている。

 彼らはすでに貨幣経済を導入していて、その辺の管理能力もある。

 ドロウの責任者を置く形にはするが、その運営自体は彼らに任せて、セーブポイントとの物資の交換、輸出入を行えば、ドロウは現状の生活を維持し、農場での労働力に対する対価を氏族に配分する。そう言う仕組みが作りやすくなる。


 ドロウの社会の未来図が、少しずつではあるが、形になっていく。そんな実感があった。


 もう3か月近くストームポートに戻っていない。

 僕にとって、あそこも大切な帰るべき場所だ。

 放置しちゃってるからロアンに怒られるかもしれないけど、彼女にも会いたいと思っていた。

 状況も落ち着いているし、一度ストームポートに戻ろうかと思っている矢先に物資の運搬を行っている輸送隊から一通の手紙を受け取った。

 それは天上神(セレスティアン)教会のレンブラント司教からのものだった。

 開封して中を確認する。



―親愛なるディープフロスト司教。

 そちらの天気はいかがだろうか。

 あなたのことだから、今日も美しい月夜を迎えていることと思う。

 こちらは天候制御の魔法が常に働いているので、穏やかな天気が続いている。

 だが、この街の名はストームポート。穏やかであっても嵐を忘れることはないよ。

 先日、ハーバーマスターとお会いしてこんなことを言っておられた。

 よく当たる占いによると、天候は下り坂で、やはり荒れた天気になる。

 だそうだ。

 嵐もまた神の恵み。そして終わらぬ嵐はない。

 いずれ嵐は収まり、平穏な時も訪れるだろう。

 その時にでもまた会おう。

 くれぐれも身の安全に留意し、君の旅を続けてほしい。


 貴殿の旅の無事を祈りながら。

           ユリウス・レンブラント   ―



 何というか、違和感しかない手紙だ。

 近況報告でもなく、何かの要請でもない。

 ご機嫌窺いの手紙とも取れるが、内容が天気の話ばかり。

 しかもハーバーマスターが占い?荒れた天気?

 だけど見方を変えれば、この手紙の内容は一貫している。

 ストームポートで何かが起こる。

 そしてそれは僕にも影響があって、今は戻ってくるな。

 そういう警告文だ。

 しかもハーバーマスターがレンブラント司教に連絡を依頼したとも推測できる。


 この時僕の心は強い風を受けた密林のようにざわついていた。

 文字通り、嵐がすでに近づきつつあるかのように。




幕間を追加しました。

4章の前振りが含まれますが、4章は全体を書いてからアップする予定ですので、しばらく更新はありません。是非とも続きを楽しみにして頂けると幸いです。


これを機に皆さんのお声を寄せていただければ幸いです。

ここがダメ、こうした方が良かったと思うなど、なんでも結構です。

皆さんの意見が作品を育てますので、是非ともご意見をお寄せください。


今後とも、当作品をよろしくお願いいたします。

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