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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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9:会見


 半時ほど過ぎてから、会見の場所に向かう。

 会見の場は双方の中間地点に設定され、荒地の真ん中で立ったまま行われた。

 この場にいるのは、僕とコマリ、ローズ、ザック。聖炎(ホーリーフレイム)の代表としてデニスと、司祭のアンジェリカ。

 本来なら聖炎の代表が3人いるべきだが、ザックは聖炎の護衛として紹介しており、数の上ではドュルーワルカ族から3人、聖炎から3人という形を取っている。こういう構成にしたのにはもちろん理由がある。

 向こうの思惑から考えれば、この場で暗殺、というケースもありうるからだ。同時に伏兵によるセーブポイント襲撃も警戒する必要がある。

 聖炎の指揮系統は可能な限りセーブポイントに残してある方がいいし、指揮系統に入らない最強戦力をここに配置する方がいい。


 ヴィッシアベンカ族が、族長のガルスガと、戦士長ブアルガ、それに相談役と名乗ったベルフィロという男の3名。

 クァルテレンダ族がバドリデラ族長と、その近衛を名乗るケヒーラという女性。最後に戦士長のドゥアルデストだった。


 僕の初見の印象だと、バドリデラ族長は女性だ。恐らくは呪術師(シャーマン)、顔を布で隠しているが歩き姿と所作で判断できる。彼女は間違いなく鎧を装備していない。

 初見で分かったことがもう一つ。ドゥアルデストは僕を見て驚かなかった。ガルスガ族長やバドリデラ族長が驚いたにもかかわらず。

 ドロウの氏族の名誉族長がエルフなんてありえない話のはずだ。

 つまり、彼は僕を知っていることになる。

 僕は先手を取ることにする。


「まずはガルスガ族長、貴殿の勇猛果敢な戦いぶり、戦場を去る際の毅然とした振る舞い、いずれも見事で感服いたしました」


「あの戦いにおいて、アレン様は族長として全軍を指揮しておられました」


 僕の言葉にローズが捕捉を入れる。


「なるほど。ラッシャキン族長にあのような戦い方ができるはずないとは思っていたが、貴殿のような方が指揮されておられたのか。

 あれは我々の完全な負け戦。過分な誉め言葉はかえって耳が痛い」


「ラッシャキンも申しておりました。『あれはドロウの戦いではない』と。私もあなたたちの誇りと名誉に応じることが出来なかったのは、申し訳なく思っております」


「そう申されるな。あれはそもそも大義も何もない戦いだ。それでもその誇りに応じてくれたラッシャキン族長に報いることが出来なかったのも我々なのだから。水に流してほしい」


 そういってガルスガ族長は頭を下げた。

 去り際にも思ったが、物凄く器の大きな人だと思う。そして、彼に我々をだまし討ちにする意図がないと確信した。

 彼に後ろめたさや、怒りは感じられない。


「そろそろ本題に入りましょう」


 頃合いを見ていたのだろう、ドゥアルデストが口を挟む。

 ドロウ語だ。

 ローズは聖炎の二人に通訳している。

 一拍置いてデニスが答えようとしたのを僕は制し、話を続けた。


「私的な用件をもう一つだけ。ドゥアルデスト戦士長、貴殿がローズに求婚したと聞きましたが、間違いありませんか?」


「確かに妻になれとは言った」


「許可を得るために私と決闘を望むとも聞きましたが?」


「それも事実だ」


「わかりました。貴殿の決闘の申し出を受けます。明日正午、この場で。よろしいですか?」


「ほう、面白い。青白いエルフが俺と戦おうって言うのか。受けてやる」


「決闘を受けるのは私ですよ。貴殿は挑む立場です。お忘れなきよう」


「ふんっ!」


 場の雰囲気がやや険悪なものへと変わる。

 僕はとりあえず最初の危機は脱したと感じた。

 コホン、とデニスが咳払いした後に、話を続けた。


「では、本題に入る。当方は貴殿ら2部族が我々およびドュルーワルカ族の庇護を求めてきていると認識しているが、それに相違はないか」


 ローズがドロウ語に通訳して、ガルスガ族長が大きくうなずく。

 バドリデラ族長は少し間を置いて、周囲の様子を気にするようにうなずいた。


「確かに承った。豊富とは言えないが、必要であれば物資の提供も行おう。クァルテレンダ族には負傷者がいるようだが、直ちに治療を行える司祭を派遣するが?」


「申し出は有難いが、施しは必要ない。治療もお断りだ」


 ドゥアルデストがそう言うと、ローズが厳しく言い放つ。


「無礼者!戦士長如きが口を挟むな。この場にて切り捨てるぞ!」


 ローズは本気だ。腰のロングナイフを握っていつでも抜ける構えを取っている。

 僕はそれを制して言う。


「ローズ、控えなさい。あちらにはあちらの都合があるのでしょう。その辺りを考慮しましょう」


「しかし、アレン様」


「2度同じことを言わせるつもりですか?」


 僕の言葉にローズは一歩引いた。そして僕は続ける。


「バドリデラ族長も今のお話の通りでよろしいですね?」


 少し間を置いて彼女は首を縦に振った。


 その後、現在の位置に仮の宿営地を設置すること、物資が必要であればセーブポイントまで申し出ること、生活に必要な水や食料は基本的に自分たちで賄うことなどが仮の取り決めとして合意された。


「他に何かあれば、この場で承りますが?」


 一同からは何の言葉はなかった。


「では今後詳細を少しづつ決めることとして、この場を解散にしたいと思います」


 僕がそう言うと一同はそれぞれの宿営地に戻ろうとする。


「ガルスガ族長、お待ちください」


 コマリが声を上げた。そしてガルスガ族長に数歩進んでから、続けた。


「父、ラッシャキンからの親書を預かっております。ご存じの通り父は短気ですので、決闘の申し込みなど書いてあるやもしれませんが、どうか慎重に行動していただけますよう、お願いいたします。なににしましても、ご自分の天幕にお戻りになって、落ち着いてお読みください」


「確かに親書を受け取りました。お返事は後日」


 ガルスガはそう言って、コマリから親書を受け取った。

 コマリは小走りに僕の横に並んで、僕に向かって笑った。僕はうなずく。

 数歩歩いたところで、ローズが僕の脇にやってくる。


「なんで、決闘の話をわざわざ持ち出して、しかもお受けになるんですか?!意味が分かりません!」


「まあまあ、落ち着いて。彼らの名誉を守るためにも、決闘は断れないよ。僕が負けるって決まったわけじゃないしさ」


「ですが!……」


 僕はローズにウインクして見せた。

 彼女は何かを察してくれたんだろう、それ以上異議を唱えることを止める。

 僕たちはそのまま何事もなく、セーブポイントの中に戻った。


 軍議用の天幕に戻って、一息入れる。

 少し雑な感じで椅子に座る。

 行儀が悪いのは大目に見てもらおうと思う。なにせ今日は一日がやたらと長い。

 座るとすぐにいい香りのお茶が運ばれてきた。間違いなく一級品だ。


「いいんですか?これは司教のお茶ですよね?勝手に飲んで怒られません?」


「これも猊下のご命令さ。茶葉が湿気でダメになる前に飲めってね。もちろん酒には手を付けるなと釘を刺されてるけど」


 合流したエウリシュアがそう説明する。ソウザは警戒に当たっているそうだ。

 給仕してくれた従士(スクワイア)が下がってから、状況と今後の方針を話始める。


「まず、今の所思惑通りに進んでいると思う。向こうにそんな気が全くないなら、思惑も何もないけどね」


 僕はそう切り出した。だが、僕の中には確信がある。


「まず、読み通りドゥアルデストは僕を知っている。二人の族長は明らかに驚いていた。彼は僕を見て全く驚かなかったからね」


 カップを手にして一口含んでから続ける。


「で、ガルスガ族長はクァルテレンダ族に関しては余り情報を持っていない。少なくとも蠍神(スコルピウス)の司祭連中の思惑には関与していないし、気づいてもいない。もう一つ。バドリデラ族長が本当に族長かまではわからないけど、少なくともドゥアルデストに対していい感情は持っていない」


「それはわかりましたが、何で決闘を受けたのですか?納得がいきません」


 ローズがしびれを切らした。

 僕はお茶を再び口に運んでから、答える。


「ドゥアルデストが蠍神(スコルピウス)の信者であることが確信できたんで、最初にあの話をする必要があった。

 奴からの決闘を受ける流れになれば、あの場での暗殺あるいは襲撃の可能性をゼロにできるし、それまでは確実に時間を稼げると考えたんだ」


「意味が分かりません」


「ローズ、落ち着いてよ。ちゃんと説明するから。

 奴も蠍神の司祭の手下で、あの場にいた最大の目的は、僕の暗殺じゃないかと予想できる。だが、ローズや他にも目がある。彼は最低僕と、ガルスガ族長を殺す必要があるからね。彼一人、あるいは一人二人協力者がいたとして、それは実行に移せない。

 だから、最低でも陽動が必要になる。あるいはあの場を急襲できる戦力が。

 ローズ、あの場に接近してくるスコーロウは確認してないよね?」


「ええ、戦場での混乱状態ならともかく、あれだけ静かでしたら接近すれば透明化していても気づくでしょう」


「うん、僕もそう思うよ。つまり、何かのタイミングで、ゴーサインを出すのは彼の役目だろう。

 だけど、あのタイミングで決闘を受けると言えば、ゴーサインは出さないだろうと思ったんだよ。

 彼に言わせれば小賢しいエルフに戦士である自分が負けるわけがない。そして決闘で僕を殺せば、彼は大手柄を上げることになる。

 しかも可愛いお嫁さんのオマケつきとくれば、食いつくでしょう」


「誰が可愛いお嫁さんですか!あんな馬鹿男など、やれと言ってくれれば自分で首を刎ねます!」


 少し赤い顔をして強い口調でローズが怒りをぶつけてきた。

 そんなに興奮しなくてもいいのに。


「とにかく、これで敵が仕掛けてくるタイミングを指定できたんだ。これはとても大きいことだと思う」


「なるほどな。いつ来るかわからん奇襲よりは準備していれば対処の方法もある、というわけか」


 デニスがそう口にし、僕はうなずく。


「さらに、奇襲をかけようとしている敵に、奇襲がかけられれば、面白いとは思いませんか?」


 一同が息をのむ。


「先ほどガルスガ族長に状況の説明とこれからの予想。そしてお願いを伝えてあります。

 おそらく彼はその指示に従ってくれるでしょう。上手く行けばクァルテレンダ族とは戦わずに済みます。

 となると敵は潜伏していると予想されるスコーロウの司祭連中となります。

 ラストチャンスの戦闘を考えれば、スコーロウが50はないでしょう。

 現実的な数として10~20、それにドロウの手下を加えて最大50程度と予想しています。

 この戦力なら聖炎と我々の力をもってすれば互角以上に戦えます。

 先手を打てればワンサイドゲームもあり得るでしょう」


 ここまで説明してから、僕はティーカップを口に運ぶ。

 一同は静かなままだった。


「あれ?なにか僕の読みは間違ってますでしょうか?

 ご意見があれば遠慮なくおっしゃってください」


 エウリシュアが真っ先に口を開いた。


「つくづく思うよ、お前と戦うようなことにはなりたくない」


「そうだな。まるで勝てる気がしない」


 デニスがそれに続いた。


「そうでもないと思いますよ。これは向こうが、奇策を用いようとした結果です。

 ついでに、一挙両得。そんなにうまい手がある訳がありません。それが上手くいくと信じた時点で、彼らは勝てないんですよ。

 戦いは意外とシンプルです。セオリーどおりに戦うことが勝利への確実な手なんです」


 周囲を見渡し、一息入れてから僕は続けた。


「これで勝てるとは思っていません。向こうがこちらの想定を超える可能性だって十分にあります。

 勝つにしても楽勝にはならないと思ってください。

 その上でこれから子細を指示します」


 一同が再び息を呑む。


「まず聖炎の方々には聖戦士(パラディン)6名、聖職者(クレリック)2名の8名編成の隊を2つ編成していただきます。

 部隊の司令官はエウリシュアとソウザにお願いします。

 デニスには残りの兵力を率いていただき、状況に応じた判断をしていただくことになります。

 こちらが優勢であればそのまま動かないで。劣勢ではあるものの、セーブポイントには害が及ばないと判断したら生存率の高いもので編成した部隊を支援のために投入してください。それ以外の場合は、非戦闘員も含めて、全員で撤退をお願いします」


 デニスはこの指示に納得できていないようであったが、これは合理的な判断だと僕は思うので、スルーする。


「コマリとザックは僕の決闘に同行してください。ローズには一番働いてもらわなければなりません。

 今夜中にスコーロウの宿営地を探し出して、敵の戦力を確認してもらいたい。

 その上で戻り休息の後に、決闘の時刻に合わせて攻撃を仕掛けてくるスコーロウに先手を打って攻撃をお願いします。

 単独での行動で、極めて危険です。特に先制攻撃の際は常に下がりながら足を絶対に留めないでください。

 敵が攻撃を始めれば透明化は解けます。そうしたらエウリシュア隊がと突撃を敢行してください。

 ローズはエウリシュア隊と入れ替わり、状況を判断して、敵の数が想定した数に近いなら、そうですね、スコーロウが15体くらいいるようなら、すぐに合図をしてソウザ隊も急行してください。そうでなければローズは探索と撃破サーチアンドデストロイに移行して、別動隊を探してください。

 見つけ次第にソウザ隊はそちらに急行。ローズは状況を見て最も手薄な場所に移動して支援してください」


 一気に説明して、一同を見渡す。

 そして今一度問い直す。


「一見完璧に見えるかもしれませんが、この作戦が綱渡りであることは忘れないでください。

 所詮、僕の頭の中の空論です。もちろん、かなりの確度はあると僕は思っていますが、想定通りに事が運ぶとは限りません。

 そのことは頭の片隅に置いておいてください。僕からは以上ですが、何か質問があればお願いします」


 デニスが真っ先に手を上げる。

 僕は彼に発現を促した。


聖炎(ホーリーフレイム)側の人員配置に関して、貴殿が口出しするのはいささか筋違いだ。

 攻撃隊と撤退部隊の編成は私に一任してもらいたい」


「あなたはそう言うと思っていましたよ。もちろん部隊の構成はお願いしますが、部隊長の人選の変更は認める訳にはいきません。

 この作戦を成功させるための配置だと考えています。

 あなたが言いたいことは理解しますが、あなたはギヴェオン猊下に対して報告を行う義務を背負っているでしょう?

 損な役回りだとは思いますが、全うしてください」


 僕は彼のセリフを引用して伝えた。

 もちろん、聖炎の部隊長の配置を決めるのは越権行為だと思うし、そこはデニスの言う通りではある。

 だが、作戦立案と実行の責任は僕が負うことになるので、必要なら僕にも権利があるはずだ。


「こんなところで、仕返しされるとはな」


 デニスが少し歯がゆそうにつぶやく。


「まだ撤収部隊の指揮と決まったわけではありません。状況を判断するのが最大の役目であることを忘れないでください」


 僕はデニスに握手を求めた。

 彼は僕の手を力強く握ってくれた。


「まだ何か起こると決まったわけじゃありません。何事もなく終わって、僕の考えすぎでした、ごめんなさい、って言えるのがベストだと思ってますよ」


 僕はそう付け加えて、打ち合わせは終わった。




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