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閑話 シャロンのドレス開発

 それはある日、マダムチェルシーがシャロンに提案をしてきたことから始まった。


「シャロンちゃん、私と一緒にコラボして、シャロンちゃんに似合うドレスを沢山作りましょうよ!貴女には才能とセンスがある。新しい形のドレスを増やすのよ!きっと、そこから流行が生まれるわ!」


 そうしてシャロンは、しょっちゅうマダムチェルシーのアトリエに行き、ドレスの開発に携わることになったのである。



「シャロンちゃんの場合は、ゴテゴテしたのよりシンプルな方が似合うわよね」

「でも、あんまりシンプルすぎて、遊び心に欠けるものも寂しくて…………あ、そうだ。バックスタイルに思い切り注力するのは、どうですか?」

「なるほど。前から見るとシンプルだけど、後ろから見るとパッと印象が華やぐみたいな感じね。それだと、こういうのとか……こういうのとか……」

「良いですね。クールに見えるのに、後ろには大きいリボンが付いてたりとかどうでしょう?おっきなフリルとか!」


 こうして生まれたのが、バックスタイル型ドレスである。


「おお!綺麗な赤だな。君によく似合う!」


 出来上がったドレスを見て、リオンは顔を輝かせた。


「ふっふっふ。これはね、後ろに秘密があってね……」


 前から見ると、シンプルなAラインの赤いドレスだ。しかし、シャロンはくるりと振り向いた。


「すごい!」


 リオンは大きな声を上げた。

 後ろを振り向くと、大ぶりのフリルが二重になって広がっているのだ。フリルは思い切り大きくし、甘さも大人っぽさもある絶妙なラインを狙った。腰の位置には、大きな赤いリボン。そして、背中は挑戦的にぱっくり開いていた。前と後ろで全く印象の違うドレスである。


「面白いでしょ?これなら私にも似合うかなって」

「良い!すごく良いよ!……けど……」

「けど?」

「夜会で着る時は、ショールを羽織ってくれると、嬉しい……」


 リオンはぱっくり開いたシャロンの背中を見つめ、顔を赤くして言った。マダムチェルシーはとてもニヤニヤしている。

 

「あらら。リオンちゃん、ヤキモチ妬いちゃうわね♪」

「ふふ。リオン、わかったわ」


 このドレスは、夜会でシャロンを二度見する人を沢山生み出し、大変注目を集めた。滑り出しは上々である。


 

「今度はね、面白い生地が手に入ったから、シャロンちゃんにどうかなと思って!」


 またあくる日、マダムチェルシーが持ってきたのは変わった布だった。クールなブルーグレーの色なのだが、不思議とキラキラして見える。シャロンが手に取ってみると、見る角度によって薄ピンクにも光って見える生地だった。


「偏光生地ですね。面白い!」

「元の色がクールだから、シャロンちゃんに似合いそうだし、ゴージャスなドレスになると思うわ!微量の魔力を含む、草の繊維が含まれてるのよ」

「良いですね!形は、シンプルなスレンダータインでどうでしょうか?コンパクトなラインの方が、大袈裟にならないし映える気がします」

「良いわね!上のビスチェ部分は、刺繍をして豪華にしましょうか」


 こうして生まれたのが、偏光生地型ドレスである。


「すごい。シャロン、大人っぽいけど……見る角度によって可愛らしくも見える!」


 リオンはシャロンの周りをくるくる回って確かめ、はしゃいだ。大型犬みたいで可愛い。


「不思議な生地でしょ。縦のラインが強調されるスレンダーなドレスだから、派手すぎなくて丁度良いでしょ?」

「ああ。生地の綺麗さが活かされてるな」

「上のビスチェ部分は、銀糸で刺繍してみたのよ。スパンコールも縫い込んだから、かなりゴーシャスなドレスね♪」


 このドレスを夜会に着ていくと、人々は色々な場所に動いて、不思議そうにシャロンのドレスを見つめていた。スレンダーなラインのドレスが流行るきっかけにもなったのである。



「今度は、中性的なドレスに挑戦してみたいわね」


 またあくる日、マダムは重々しく切り出した。これは大変難しい議題である。シャロンは提案した。


「黒、とかはどうですか」

「黒か……喪服を想起させるから、難しいのよねえ」

「思い切ったアクセントの色を入れるのは、どうですか?例えば……プリーツが入っていて、その部分だけ綺麗なコバルトブルーになっているとか……」

「それは良いかも!!ブルーとかレッドとか……黒に対して、強烈な色がいいわね。プリーツの数は少なめで、前と後ろに2ラインずつぐらいでどうかしら?」

「良いと思います。プリーツの部分ははっきり見えるように。あと、同色のコサージュなどで胸にアクセントを入れたいですね」

「デザインが湧いてくるわあ!!これとか。これとかどうかしら!!」


 マダムチェルシーがさささっとラフ画を描き、その日は大変盛り上がった。


 こうして生まれたのが、色付きプリーツ型ドレスである。


「黒だけど、暗くない!鮮烈なドレスだな」


 出来上がったドレスを見たリオンは、感心して言った。

 真っ黒なドレスだが、大きく入ったプリーツの部分は爽やかな青になっている。胸には大きな青薔薇のコサージュをつけた。背中はまた大きく開いているデザインだ。喪服っぽさなどはほとんどなく、かなり現代的なデザインである。


「良いでしょ?これなら、白いドレスとかもできると思うの」

「楽しいわよね〜!!胸のコサージュが効いてて、統一感があるわあ」


 これを夜会に来て行った時は、「黒いドレスなんて」と顔を顰める人がいるかと思ったが……プリーツの色が鮮烈だったためか、それほど批判は受けなかった。「シャロン様、とても格好良いですわ!」と、ファンの女の子たちからは特に好評だったのだ。



 このようにしてシャロンとマダムチェルシーの二人は、次々とドレスを開発した。

 バックスタイル型、偏光生地型、色付きプリーツ型はどれも新しい流行となり、それらを一緒に組み合わせたり、変形させたりしたドレスも沢山生み出すこととなった。例えばバックスタイルに大きな色付きプリーツを付けて、同じ色の大きなリボンを付けたり。偏光生地を使った、スリムなラインのバックスタイル型ドレスなんかも作った。これまであまり作られなかった白や黒系のドレスを沢山生み出すきっかけにもなり、社交界の流行は大きく変わった。

 何より、王太子の婚約者であるシャロン――しかも、本人の女性人気が抜群に高いのである――が宣伝塔となることで、真似する人が後を立たなくなったのだ。


 発注も沢山入るので、ドレス作りは軌道に乗り、シャロンとマダムチェルシーは、打ち合わせでしょっちゅう顔を合わせるようになった。

 そしてついに、二人の共同名義のブランドを立ち上げるまでに至ったのである。


「見て見て!ブランドロゴが、できあがってきたのよ〜!!」

「わあ!クールで格好良いですね!!ブランドイメージにもぴったり!」


 ブランド名は「シャロン&チェルシー」。クールだが辛すぎない、大人の甘さがテーマ。スレンダーラインやマーメイドライン中心の、新しいドレスブランドである。どのドレスにも、新しい一工夫が入っているのが特徴だ。もっと軌道に乗ったら、ドレスだけでなく男性服も作りたいと思っている。

 マダムチェルシーは嬉しそうに言った。


「シャロンちゃんに出会えたことは、私の人生の宝だわ。貴女と話していると、インスピレーションがどんどん湧いてきて、若い頃の情熱が蘇るの!」

「マダム……ありがとうございます!私こそ、とても勉強になりますし、何よりとっても楽しいです!これからも、素敵な服を生み出しましょう!」

「ええ!頑張りましょうね!!」

 

 こうしてシャロンとマダムチェルシーは、世代を超えた友情……まるで戦友のような感覚を、共有することになったのである。

 マダム&チェルシーは斬新な流行を生み出し続け、社交界にも大きな影響を及ぼしていくことになるのだが――――これは、もう少し先の話である。

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