10 魔法対抗戦
学園の一大イベント、魔法対抗戦がやってきた。組み分け表を眺めるシャロンの横で、アーシャが震えている。
「ウィルバート様、一体どういうつもりなのかしら。まさか、私と組むだなんて」
「彼が誘いに来た時は、教室中がざわついたよね」
先日、リオンの護衛騎士ウィルバートが突然教室に来て、アーシャに言ったのだ。「貴女に興味があります。対抗戦、僕と組んでください」と。妙な迫力があり、とても断れる雰囲気ではなかった。アーシャは人見知りなのに、渋々受けたのである。
「この間、私がきつい言い方をしたのを恨んでるのかしら?怖いわ……。私、魔法オタクだけど戦闘能力は低いのに……足を引っ張ったら殺されそう……」
「それは大袈裟よ。ウィルバート様は強いから、対抗戦自体はかなり有利になるし。今日の結果は成績にも影響するから、ラッキーだと思うしかないんじゃない?」
「うう。まあそれはそうだけど……。あっ、来た!!」
リオンとウィルバートが一緒にやってきた。アーシャはサッとシャロンの後ろに隠れる。
「シャロン!今日は宜しくな!」
「うん!」
リオンがニコッと微笑んで爽やかに言い、シャロンも笑顔で頷いた。その横では生真面目に「宜しくお願いします」と言うウィルバートに対し、アーシャがたじろいでいる。
怯えるアーシャが助けを求めるような目をしてきたが、見ないふりをして、シャロンたちは分かれた。一度決まってしまった組み分けは、もうどうにもしてあげられない。頑張れアーシャ、と心の中で念じておく。
「それにしても、すごく大規模ね。初めて見るから、びっくりしちゃった」
「ああ。民衆も見学に来るし、お祭りみたいなものだからな。騎士団や冒険者ギルドのスカウトも大勢いるし、重要な催しだよ」
学園中が国旗で彩られ、コロシアムには人が詰めかけている。コロシアムの中央には魔法で動く特大映写機があり、ライブビューイングで戦いを楽しめる仕組みだ。通りには露店が所狭しと立ち並び、食べ物や飲み物が売られていた。確かにお祭り騒ぎである。
「作戦会議をしようか。基本的なルールは、頭に入ってるか?」
「うん。試合は、学年別。頭に風船をつけて、それを割った数を競う……」
風船を割った数は、胸のバッジに数字で浮き出る仕組みだ。ただし、風船を割られると持っていた数字ごと総取りされる。だから、沢山数字を持つ者ほど狙われやすくなる点に注意が必要だ。
風船が割られても、リタイアとはならない。魔法でできた風船は、一定時間経つと復活するのだ。ただし、戦意を失った者は自己申告でリタイアできる。
戦いは二時間。終了した時点で、ペアで持っている数字の総数を競う。順位順に成績がプラスされる上、優勝者にはトロフィーと賞品が授与されるのだ。
「シャロンがクナイを自在に操れるようになったのは、先日確認できた。だから君には、相手の風船を割ることだけに集中して欲しい。君の繊細なコントロールは、この戦いの鍵になる」
「私は防御とか、考えなくて良いの?」
「ああ。相手への派手な攻撃と防御は、まとめて俺が担当する。俺は防御向きの土魔法に適性がないけど、防御は主に幻覚魔法を使って行う」
「なるほど。分かった、任せるね」
「任された。相手の風船を割ったら、すぐに退避だ。二人とも風魔法の速度増幅を使って、素早く移動する」
「はぐれてしまった時の合流地点は、決めておいた方がいいね」
「ああ。これが山の地図だ」
それから二人は、綿密に打ち合わせをした。話し込むうち、集合の合図のホラ貝が鳴り響く。作戦会議タイムは終了だ。
「俺は優勝を狙ってる!精一杯頑張ろう、シャロン!」
「うん!分かった!」
♦︎♢♦︎
試合が始まると、リオンとシャロンのコンビは無双し続けていた。
「どういうことだ!何度攻撃しても、シャロン様に当たらない!」
「おい!殿下からまた攻撃が来るぞ!」
「うわあああー!!」
炎の竜の激しい攻撃を避けようとして、相手に大きな隙ができる。シャロンはここぞとばかりにクナイを操り、相手の風船を二つ割った。
「よし、退避だ」
「うん!」
素早く移動して、決められた地点でリオンと合流する。シャロンのバッジに刻まれた総数は、もう二十を超えていた。
「バッチリだ!」
「やった!」
二人でハイタッチする。そもそもリオンが格別に強いというのがあるのだが、二人のコンビネーションも抜群だった。
「幻覚魔法で、相手の攻撃は全然当たらないね」
「ああ。でも、ウィル辺りは対策してくるだろうけどな」
「もしも幻覚が通じなくなったら、打ち合わせ通り、私は土魔法の結界で自分の身だけ守るね?」
「それで良い。じゃあ、警戒しながら進もう」
シャロンたちは移動を始めた。一箇所に止まり続けていると、索敵魔法で捕まりやすくなるからだ。
しかし、ある場所でリオンが鋭く叫んだ。
「伏せろ!」
「!!」
咄嗟に伏せると、頭上を何かが掠めていった。何とか避けられたが、その途端、体に何か柔らかいものが当たってぱしゃんと弾けた。
「絵の具……?」
「水風船だ!来たぞ!」
顔を上げるとすぐそばに、瞬間移動で影が二つ現れた。ウィルバートとアーシャだ。アーシャは何故か生き生きとして、とてもいやらしい笑みを浮かべて言った。
「私特性のペイント弾はどう?これでもう、幻覚は通じないわよ〜!!」
魔法オタクが本領を発揮している。ただの絵の具ではなく、何らかのカラクリが仕掛けてあるのだろう。
「シャロン、打ち合わせ通りに!」
「わかった!」
シャロンは後ろに下がり、自分の防御に集中する。こういう場合はリオンが戦い、相手に隙ができたらすぐに退避すると決めている。それにすぐ後ろは崖になっており、逃げ場がなかった。シャロンだけ先に退避することも不可能だ。
「リオン様、覚悟!」
「負けない!」
リオンとウィルバートの二人は、魔法を纏わせた剣で激しく打ち合った。魔法の強度が互角らしく、相殺される。ぎりぎりと刃と刃が拮抗した。リオンは隙を見て剣をいなし、身を翻してカウンターに転じようとしたが、それも防がれた。
「リオン様の手の内は存じています!」
「それはこっちも同じだ!」
リオンは激しく刃を打ち合いながら、翡翠色に輝く巨大な魔術陣を描いた。片手間にやるとは思えない高度な陣だ。
「発射」
「!!」
魔術陣が発動した途端、リオンから無数の水の刃が飛び出した。ウィルバートは距離を取って防御壁を展開するが、防ぎきれない。彼の身体中に小さく血が噴き出した。
「高圧の水!?くそっ、またえげつないものを生み出して……!」
「お前の対策をするのは、当たり前だろ!」
「全部蒸発させてやる!」
ウィルバートは離れた位置で、大型の魔術陣を描き始めた。リオンもシャロンを守るようにしながら、同時に無数の魔術陣を体に纏わせていく。
二人の魔法が、再び激突する――――そう思われた瞬間、異変は突然起きた。
「何だ!?」
真っ黒な結界が、ウィルたちとリオンたちを分断するように、瞬く間に展開された。見たこともない結界だ。高度のある障壁は円を描くようにして、リオンとシャロンを閉じ込めてしまった。二人は崖のそばで孤立してしまったのだ。
「闇魔術だ!国外の手の者だ!!」
結界の破壊を試みたリオンが、緊迫した声で叫んだ。強固な結界らしく、激しい魔法攻撃も全く通じない。リオンはシャロンを守るようにして、戦闘態勢を取った。
するとスッと音もなく、結界の中央に、居なかったはずの人物が二人現れた。どちらも面をつけている、鎧の男とローブの男だった。
シャロンたちは、いつの間にか――――絶体絶命の危機に、陥っていたのである。




