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権力と猫  作者: 央美音
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突然の教皇

 偉大なる神へと祈りを捧げる為の拠点、教会。

 大陸中にある教会を維持させる為の組織としての教会代表が教皇。

 教会代表である歴代の教皇は、聖女の子孫から選ばれている。

 俺は、夢の中で聖女とドラゴンに会って卵を預かった。

 新しい種族を、この世界に迎える為の卵。

 俺が選ばれた理由は、絶対、誰にも言えない。

 夢から目覚めた俺を待っていたのは、険しい顔をしたサムディだった。

 俺の姿を見て速攻で担当医を連れてきた。

 どうも、俺の健康状態が微妙に違って見えるというのだ。

 恐らくだが、卵が影響している。卵と呼んではいるが、本当はドラゴンの力の塊だ。

 卵が俺の側にあるのなら、俺の身体に影響が出るのかもしれない。因みに担当医の診断は異常無し。

 それを聞いて安心した。健康なのは大事だからな。

 警戒中の慧眼冷静家令のサムディは一旦放置して妻と朝食をとる。今日の予定を聞きながら食後のお茶の最中に、教皇がここに現れたと聞いて咽せた。

 気軽に一人で現れた教皇とは、二人きりで会った。


「初めまして、卵、元気ですか?」


 教皇が、初対面の国王に対して言うセリフではないな。

 俺には卵の状態なんて分からないぞ。

 実は、俺も含めて誰にも卵が見えていないし気配も分からない。

 唯一、サムディだけが俺の健康状態の変化に気づいたぐらいだな。

 教皇は見えているのだろうか。


「私にも見えてませんよ。話を聞くに、卵は健康みたいですね。不健康だと周囲の人間は、体力を吸い取られるそうですから」


 なんだそれ怖いな。

 卵の健康を保つのはどうすれば良いんだ?


「分かりませんね。不健康にならないだけで良しと思っておけばいいのでは?」


 なんだかいい加減だな。

 それよりも事情は察しているが、何故教皇がここを訪れたのかを話してもらいたいのだが?


「察しているのなら別によいのでは、とは言いませんよ。聖女が、夢に出てきて貴方に卵を預けたと報告しに来たのです。教皇の私には、貴方に説明の義務があるのでね」


 ありがたい話である。聖女は預けた後は放置などと言っていたのに、いつも教皇に説明させているのだろうか。


「卵は、前世の貴方が望むものを孵します。それがどんなものかは、貴方でもわからない。あと、聖女が言ったことは半分くらいの真実だと思っていた方が、気楽ですよ」


 なんだか祖先でもある聖女に対して辛辣だな。しかし、半分くらいの真実か。猫のことか、前世持ちのことか、悩ましいな。


「だから、真剣に考えなくてよいのです。卵の預かり主の精神衛生も、卵には大事な栄養ですから」


 そうは言っても気にはなる。

 特に、前世持ちがこの世界に現れる理由が新しい種族を得る為とか、何でそんな方法にしたのか。

 というか卵の栄養補給の仕方。


「貴方、よくそれを聖女から聞き出せましたね。それ、教会の最重要機密の一つですよ。……方法を思いついて実行したのは神です。私達は知りませんし、貴方も知る必要はありませんよね」


 教皇の圧が強い。もう前世持ちに関することを詳しく聞こうとはしない。考えるだけにする。

 聖女とは普通に話していたのだがそうなのか。

 ドラゴンが意外と過保護とか、毎回聖女に付いてきて預け先に威圧かけるとか、最近は卵のことで偉大なる神に宥められているとか。

 

「……念の為に、防音をしておいて正解でしたね。思わず叫びそうになりましたよ。貴方、そうやって聖女相手に喋ったでしょう。彼女と普通に会話ができる人間って少ないんですよね。殆どが平伏した状態で、彼女の言葉を聞くだけですし」

  

 なるほど、俺が平伏の作法を知らなかったのが良かったみたいだな。国王やっていると必要ないからな。


「預かり主には、貴方の様に国王だった人間もいましたけどね。顔を見た瞬間、跪かれたそうですが」


 それは、聖女の後ろにいたドラゴンの威圧に屈したからなのでは? 

 俺だって、初めの方はドラゴンの威圧で目がいってたらしいよ。


「まあ、この話はもういいでしょう。前世持ちの事情は、内密にお願いしますね。騒乱は勘弁なので」


 まあ、俺は夢で聖女に会って色々聞いたなんて言っても信じる奴は少ないだろう、それに無闇矢鱈と話す俺ではないぞ。

 

「それはそうでしょうね。徐々に前世持ちが現れるようになった時代、教会本部には説明を求めて大陸中から国の要人達が集結し、当時の教皇に説明を求めたそうなんです。その時の状況を記した文書は、酷いものでした。結局、神のみわざの一言で黙らせたらしいですよ。私には、とても出来ないことなので、本当に内密にして下さいね」 


 力尽くとは恐ろしいな。国の要人なんて、一癖も二癖もある者達なのに、流石としか言いようがない。

 それで、卵の説明は終わったのか?


「何やら含みがありますね。勿論まだですよ。卵が孵ると新しい種族の頂点としての存在になりますが、貴方に権利などは発生しません。ただ側にいて育てるだけでよいのです。大陸中に新しい種族が定着するのは、きっと私達の死後のことです。集めて侍らすなんてことは出来ませんよ」


 いや、そんなことしないし。

 新しい種族の頂点か。卵から孵るやつらはみんな聖女達と同じ存在になるのか?


「貴方、相当失礼な事を言いますね。聖女達、神の遣いは神が直接創り出した存在ですよ。いくら種族の頂点と言ったところで、ドラゴンの力と前世の貴方の望みで呼ばれるものです。いわば貴方達の子供のような存在ですよ」


 教皇を怒らせてしまった。

 確かに、ドラゴンは過保護な親みたいだったな。

 そしてそのお相手は前世の俺なのか、なんだか複雑だな。


「とにかく、次に貴方と会うのは新たな生物が生まれた時です。ではさようなら」


 教皇、目の前で消えたぞ。これが教会の力か。

 そういえば防音をしたと言ってたな、それも教会の力だったのか。凄いな教皇と教会の力。

 さて、予定は多少変更になったが、サムディにこの後の予定を聞きに行くか。

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