ドラゴンと聖女
ドラゴン。
それは生物の頂点にして偉大なる神の遣い。
聖女。
それは人間の頂点にして偉大なる神の遣い。
聖女は、人間の中で唯一ドラゴンと対等に話すことが出来る存在と言われている。
誰もがおとぎ話の存在だと思っているお二方が、いまおれのまえにいるなぜわかるのかときかれてもどらごんとせいじょだとわかるからとしかいえない
「あら、ちょっとイヤだわ、目がいってる。ほらドラちゃん、毎回威圧するのやめなさい」
ドラちゃん?!!!
え、聖女、ドラゴンをドラちゃん呼びしているのですか。そして、俺は何かドラゴンに威圧されるようなことを?
そうだ平伏、平伏しないといけないよな。ドラゴンと聖女の前で立ってるだけなんてダメだろう。立場が違うんだからそうだ平伏。平伏のやり方をサムディにきいておけば。
「ああ、いいのよ、そのままで。私達もあまり時間がとれないし、このままだと話を始める前に貴方の夢が終わっちゃう」
俺の夢ですか? 確か、俺は避暑地の屋敷に泊まっていた。そしてあの屋敷にこんなに広くて真っ白な部屋などなかった。なるほど、夢か。
「そう、貴方の夢。私達がなぜ貴方に会いに来たかというと」
聖女、その光の魂は何でしょうか。まさか、俺は偉大なる神から宣告でも受けるのでしょうか。いきなり厳罰処分とかいう展開は流石に厳しいですぞ、聖女。
「やーねー、違うわよ。これは、ここにいるドラゴンから生まれた力の塊、卵よ」
卵ですか。……これはもしや、前にサムディが言っていた親ドラゴンが託すとか守るとか育てるとかのアレですか。あれは聖女の話だったのでは?
「それよそれ。親ドラゴンなんて可愛い呼び方ね。ドラゴンはドラちゃんだけなのに。ああ、それでね、この卵は貴方が預かってね。ドラちゃんが久しぶりに卵を作ったの、前に預けに行った時もそうだったんだけどね、今回も絶対預け先について行くーってきかなくてね。困ったドラゴンよねー」
聖女、聖女よ。俺には何が何だか分かりません。ドラゴンはドラゴンだけなのに何故卵が出来るのですか。この卵を、俺にお預けいただくというのは大変名誉なことですが、育て方などの詳細を教えていただきたいし、ドラゴンは結構過保護なところがあるのですね。
「貴方、結構お喋りなのね。前の時なんて、ただずっと跪いてた人だったわよ。あれでも、何とかなったから、今回も何とかなるわよ」
まさかの説明拒否ですか。せめてこの卵についてだけでも、夢で預かった卵は現実ではどうなるのですか。身体の中に収まっていたり、卵をずっと抱えていないといけないとか、孵った後のこととかもそうですが、俺はいったいどうすればいいのですか。
「あのね、卵は、卵よ。貴方の近くにいるだけで育つわ。こちらも預けた後は放置だから知らないし。孵った後もちゃんと育ててあげてね。ドラちゃんも、一つくらいは育てたいってごねるけど、そればかりは出来ないって、毎回神が宥めてるのよ。預ける人につい威圧しちゃうのもわかるでしょう?」
なるほど、この卵がどうなるのかはわからないと、これはもう夢から覚めるしかないな。
ドラゴンは偉大なる神にごねているのか。そして毎回宥められるほど、偉大なる神の下で働きながらの子育ては難しいのだろうか。今の凛々しくも万能感が出ている姿からは想像出来ないな。
「あら、良かったわねドラちゃん。凛々しい姿だって、まあ、私達は万能じゃないからたくさんいるのよ」
たくさんいても忙しいとは神の国。いや、考えるな。今はこの卵のことだけで十分だろう。
聖女よ。この卵、必ず私が孵して、立派なドラゴンに育てて見せると。その、ドラゴンにもそう伝えて欲しいのだが。
「もう、ドラゴンはドラちゃんだけって言ったでしょ。貴方がこれから育てるのは、貴方の前世の魂が呼んでいるものよ。あと、ドラちゃんは初めから大丈夫だってわかってるわよ。預け先は私が厳選してますからね。それでもつい出ちゃうのよ、威圧」
前世の俺の魂が呼んでいるもの?
「そうよ、貴方が、最近気になりだした、誰も知らない生物。いるでしょう? それ、この卵が作られたからなの。他にも候補はいたけど、今回は貴方に預けることにしたわ」
それは、猫のことですか。猫は卵から生まれるものではなかったはずなのに、何故に猫。いや、猫が生まれるということは、あの夢が現実になるという。
待て待て、流石にこの卵から生まれた猫を、膝猫計画に利用するのはいかんだろ。
「別にいいわよ。高級な椅子に座り膝に猫を乗せてお酒の入ったグラスをグルグルすることくらい」
知られてる!!! 何故だ???
もう、ダメだ。退位の準備をしないと。
「だから、私が選んだって言ったでしょ。貴方が呼びたい生物と、そのコでやりたいことが、一番穏やかな願い事だった。卵から孵るコに平穏な暮らしをさせてくれる人だったから、貴方にしたの」
他の候補は、何を呼んで何を願っていたんだ。知るのが恐ろしい。
「前世の魂を持つ者が、新たな生物を呼ぶ為の卵を作ることが、ドラちゃんの仕事の一つ。前世の魂を持つ者の中から選別し、卵を預けることが、私の仕事の一つ。この世界で、新しい種族を作る手段の一つなの」
この世界に、何故かいる前世持ちの衝撃的な理由が判明した。