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権力と猫  作者: 央美音
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馬車でのひととき

 この世界に猫いなかったので、膝猫計画は頓挫した。悲しいがよくあることだ。国王やっていると、こういうことはよく報告されたりもするしな。

 お疲れのサムディに、数日程度の休暇を取らせる為には、俺もきちんと休まなければいけないので、旅に出ることにした。最近碌なことがなかったしな。

 平和なひとときというのは中々訪れるものではない。俺の場合は、今のように作りだすことで得られるのだ。俺と妻、サムディの休暇中に王太子に任せられる程度には国内外の動きも穏やかだ。任せられない事態が起きれば、サムディが知らせに来るだろうし、宰相も動く。だから平和だと、馬車の窓から外を眺める。


 あ、鳥だな。

 妻とサムディを連れて馬車移動中の俺は、大変退屈している。サムディは別の馬車だし、妻は外の景色に夢中で俺を構ってくれない。

 俺が出掛ける時は、いつも馬車の列が長くなるし速度も出ないから、道が舗装されていてもいなくても結構揺れる。そんな馬車の中で優雅に本や書類を読むのは辛い。もう、歳だしな。

 今、馬車は完全に止まっている。時々あることだ。

 こういう時、前世の俺がよく乗っていたバスとか電車があればと思ってしまう。

 あれ、どうやって動かしているんだろうな。前世の俺はわからないらしい。飛行機とかいうやつは特にそう。何故、空を飛んでいるんだ。

 移動手段に種類があるのはわかるが、どれも動く仕組みがわかっていない。運賃が高いとか知っていたところで何になる。


「あなた、退屈してますの? 贅沢ですわね、私は今トキメキというものを感じてますのに」


 それは動悸の、いや、そうだな。妻は俺より外に出る機会なんてないからな。こんな景色でも妻が楽しめているのは良いことだな。

 

「あなた、あそこのあれ、わかりますか? あれは何をしているのかしら」


 馬車の窓は小さいので、妻と頬がつくほどの距離で外を見る。妻が見ていたものは、なんてことのないものだった。

 ああ、あれはね、ここをこうやった後にこうするとな、こうなるんだ。


「まあ、すごい」


 そうなんだよ、あれはサムディが結構得意にしているから、見せてもらうと良い。


「そうなのですか、サムディが」


 そう、サムディは基本的なことは何でもやる奴でな。そこから自分が得意なものを見つけて納得できるまでやるんだ。その後に、苦手なものまでやるものだから、みんなが驚いたものだよ。あの超絶努力家家令のサムディのようには、よほどのことがなければやれるものじゃないな。


「サムディといえば。あなた、どうしてサムディは別の馬車何ですの。私、三人で乗るものとばかり思ってましたのに」


 おや、それだとサムディは休めないじゃないか。

 旅をする意味がなくなるだろう? 

 だから馬車移動中は緊急時か休憩以外では、外に出ないよう命じておいた。今ごろ、サムディは何をしていることやら。

 今回の我儘は、本当にサムディが無茶をさせたようだからな。サムディの休暇中は俺も休めるし、下の者達も休める者は休める。君とも旅が出来ている、良いことづくしだろう。


「まあ、あなたったら、あ、あれはすごいわ」


 妻が外に夢中になってしまった。

 猫探しは、かなりサムディが負担をかけたようで、今回のサムディの休暇に付いて来れた者達は少ない。許容範囲内だが、流石に少なすぎだぞ、どんだけ無茶をさせたんだサムディ。俺の猫に対する渇望がこんなことになるなんてな。恐ろしいな猫。

 ……俺の、高級な椅子に座り膝に猫を乗せてお酒の入ったグラスをグルグルする夢は、もう、叶わない。

 猫だけいない状態でやると、ただ酒呑んでるダンディだもんな。猫は必要なんだよ、あれ。


「あなた、あれ、わかります? あれ」


 妻よ、あれではわからんよ。あー、あれか。あれはここにこういった物を挟んでこうひねった後、この部分をな。


「なるほど、よく出来てますわね。あなたは結構いろんなことを知っていますし、馬車が止まっている時でも中々楽しめますから、良い旅になってますわ」


 それは褒められているのか? 

 まあ、妻に喜んでもらえるのは嬉しいものだ。ありがとうサムディ、お前に見せられたものが役に立つ日が、こんな風にやって来るとは思ってもみなかった。

 あの時、見て覚えたところで役に立つのかなどと言っていた過去の俺は反省しておけ。

 それにしても、馬車の動く気配が無いな。少し遅すぎないか。何か読めたな、この時間。

 あの生態図集、サムディに預けたのは失敗だったか。あれがあれば、馬車が止まった時だけ読めばと思ったが、それだと妻が退屈してしまうかもしれんな。今は楽しそうだが、俺があれに夢中になるは面白くないと王宮で妻に言われたからな。仕方がないのだあれは何度読み返してもよいものだ特に大陸最西端の国にある


「あなた、馬車が動きますわ」


 おっと、少し考え込んでいたから少し体が揺れてしまった。外もやっと落ち着いたようだし、しばらくは馬車の旅は順調だろう。

 俺が外に出るとよく襲撃があるが、今回の制圧は遅すぎないか。誰が隊の制圧指揮をとったのか確かめておくか。

 今のところサムディからは何もなし。やはり平和だな。

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