今の俺と日本の俺
今の俺には、日本の俺の記憶がある。多分前世、間の生きた記憶がないし、証明なんて出来ないし必要もないな。
俺が五十歳の誕生祝いの日に、前世持ちになったことは国民のほとんどが知っている。周辺諸国も大抵知っている。
前世持ちという存在は秘匿するものではない、この世界では結構な数が認知されているからだ。
今もどこぞの国の高位貴族の子供達、その中には王族もいるらしいが、集団で前世持ちになったことが原因の騒動が起きているとのこと。
朝食の時、いつも国内外の情報をまとめたものをサムディから報告される。新しい前世持ちのことも、この時に知ることが多い。
サムディの情報は、小さなものから大きなものまで様々だ。聞いていて面白いことばかりではないが、重宝している。自主的に情報収集するサムディは勤勉だ。
その後に、執務室で宰相からも前世持ちの話を聞いたが内容に差はない。立場的に宰相が一歩出遅れるのは仕方がない。頑張れ宰相、情報をサムディより早く勝ち取れるようになるのだ。
どの国も前世持ちが現れたとして、大抵が自国の利益となるか厄災となるか、警戒しつつ注視する程度でしかない。他にやることが沢山あるしな。
俺が前世持ちになったと知っても、元から生命狙われてる系国王なのであまり気にされてない。
主だった行動などは変わってないからな。俺に対する警戒レベルは常に強だ。
……今、会議室で俺は猛烈に怒っている。
地図上では隣国だが、国境となる渓谷が交流を妨げている国で名はプリュセ国。渓谷に橋を掛けるほどの経費と人材を、確保するほどの利益があるかといわれたら、不要だと判断するような国。
そして、集団前世持ち騒動があった国。
そんな国が、前世持ち全員を俺の国に勝手に追放するというやらかしをしたのだ。礼儀というものを知らんのかプリュセ国。
普通、追放するならするで、追放先の国と話し合いが先決だろう。いきなり大人数を送ってくるな。
俺が前世持ちと言うだけで、八人、それも十代の若者たちを前触れも何もなく、この国に放り出そうとしたのだ。しかも、複数の兵士付きという情報だ。監視役として同行しているのだろうが、警戒度は跳ね上がる。
第一、プリュセ国と俺の国の間には、プリュセ国と友好関係のビヴァーライセ国がある、追放するならそっちだろう。
調べによると、どうやらビヴァーライセ国に追放するだけじゃ安心出来なかった国王が、国交もろくにないが前世持ちの国王がいるのなら、決して悪いようにはならないだろうと軽く考えて行動した結果が、これだ。
いや、激怒してますよ。いっそのこと、プリュセ国による侵略行為に対する報復として宣戦布告でもするか。都合の良いことにあちらの王族もいるしな。元がついてようと関係ない。
「陛下、プリュセ国に抗議と報復は勿論すべきことですが、ビヴァーライセ国にも、何らかの対処を検討するべきです」
そうだな宰相。あっさり他国の人間を、前世持ちの、元はつくが王族と貴族の子供、見張り役の兵士をこちら側に通そうとするとは、平和ボケでもしているのか、あの国は要警戒だな。
あの国担当の外交官にも、話を聞かないといかないな、査問会でも開くか。宰相に命じてすぐに始められるように準備させておこう。
問題の八人は、ビヴァーライセ国との国境にある砦で保護という名の監禁中、見張り役の兵士も同様だ。易々と国に入らせる訳にはいかない。
「プリュセ国は、前世持ちが出やすい国のようです。その中でも癖の強い前世持ちのせいで、何度か国が混乱したと記録にはあります。ただ、同時期に複数人の前世持ちが現れたのは、前例のないことだったようです。今回八人という人数に加え、全員が癖の強い前世持ちだったようで、国が滅亡するのではないかという恐れを抱いた国王の独断という話です」
独断で、自分の子供含めた高位貴族の子供を追放か。意外と貴族たちも納得して追放していそうだな。
それくらいプリュセ国が前世持ちに受けた損害の記録はひどかった。俺や他の国でも対処できないと判断する騒動がいくつかあった。プリュセ国に多少同情する気は起きたが、それとこれとは話が別だ。
どうも、前世持ちと言ってもいくらかタイプがあるようだ。
俺のように、前世の俺の記憶はあるが、どこか客観的に見ているタイプ。魂はそのままだか、新たな世界の知識や常識、経験を覚えた感じだ。
プリュセ国の前世持ち達は、俺とは違って前世の記憶を、主観的に見ているタイプのようだ。前世の魂が今までの魂を消し去っている感じがする。
だから、今の記憶より前世の記憶の方に重きを置いている。全員がこのタイプだったことが、プリュセ国の不幸の始まりだな。他のタイプのことは知らん。
集団で前世持ちになっただけのことはある、時代は多少違うが、全員が同じ出身国だった。前世の俺が知らない国の名前だな。今の世界にも存在しない国だ。確認の為に宰相にも聞いたが、覚えがないそうだ。
今の年齢は全員十九歳。前世の歳は十代後半が五人と、二十代前半の三人。どちらも全員若いな。俺とは話が合わないだろう。五十うん歳と三十前後だぞ。前世でいた世界も多分違うしな。
それに、全員がこの世界を、前世と比べて下に見ている。聴き取り調査の資料を見て感じたのだ。
前世の知識や常識を押し付けようと行動して、国の中枢を混乱させた結果が追放刑。そして、俺を怒らせた。
まあ、他国へ勝手に厄介者、それも複数押し付けてくるような、非常識を怒らない国なんてないけどな。
うん、無理、仲間意識芽生えない。対面しようものなら不敬罪で首落としそう。
もしや、それが狙いかプリュセ国。
まあ、さっさと帰ってもらうか。バーバラ国軍付きでな。