権力
バーバラ国の国王アイリ五世となる前、俺はとても弱かった。
図太く生きている生命狙われている系国王の俺でも弱い時はあった。
俺が生まれた時、父上からは認知されなかった。自分の子供ではないと、俺を産んで疲れ果てていた正妃である母上に告げたらしい。父上は、側室の子供を次の王にしたかったと聞いている。
母上の怒りは凄まじく、私の夫は死んだと王城内の神殿に単身で乗り込み、結婚証明書を破り捨て、まだ目も開けていない俺を連れて実家である公爵家に戻った。
その時に、公爵家からの援助全てを引き上げることを高々と宣言して実行に移してもいる。それが出来る権力を母上は持っていたし、公爵家もそれを許す寛容さというものがあった。
この時の母上は、高笑いをしながら俺に乳をやっていたらしい。王城で手配した乳母は連れてこなかったので、乳母はこの時いなかった。
状況が一変したのは、俺の目を公爵家の皆が見た時だ。俺は、初代国王と同じ目をしていた。実りが囲むは偉大なる神の色を宿す瞳、そう伝えられている初代国王の特徴的な目を持った俺。
母上は、公爵家も初代国王の血筋なのだから公爵家の血が強く出たのだと妙な理屈をこねていたが、結局母上と俺は王城に戻ることになった。神の愛し子である俺を安全に育てるには王城が一番だと、説得されたそうだ。
俺の目を見た父上と側室は、殺気も隠さずに俺を必ず殺すと目がいっていたらしい。母上からの話によると、それから俺への暗殺が始まったそうだ。安全とは一体と、この話を聞いた俺は思った。
この時にサムディと出会った。この時の俺には記憶がないが、サムディはこの頃から有能少年護衛のサムディとして活躍していた。
母上と俺が戻ってきても、公爵家からの援助が戻ることはなく、たかが公爵家一つの援助などと嘲笑っていた父上が、その援助で自分の権力が保たれていたことに気づいたのは王城での発言力が弱くなった頃らしい。
この頃の父上はまだ王太子として活動していた。俺を認知せず、母上に死人扱いされた王太子を、祖父である国王はどう扱うべきか悩んでいたらしい。
いっそ父上を飛ばして成人した俺を次の王にする話もあったが、周りが反対したことでこの話はたち消えた。
側室と父上の親戚との不義密通が発覚したのもこの頃だ。父上の側室になった後の出会いで、側室が生んだ子供の父親が、本当に俺の父上なのかが分からなかった。父上達の容姿が似ていたのが原因だった。側室と父上の親戚は不義密通の罪で処刑され、子供はこの時二人いたそうだが、どちらも側室の実家に送り出された道中で事故死している。
父上の憎しみはさらに俺に向けられることになった。理不尽だと思ったし、実際に父上にも伝えたことがある。父上からはうめき声の返答しかなかったのが残念だった。最初で最期の会話だったのにな。
俺は父上に認知されていないので、立場が危うい存在だった。母上の権力と、神の愛し子の象徴と、この時の王族の特徴でもある明るい茶髪が俺の命綱だった。それでも俺は生命を常に狙われていたが、これはもう諦めるしかなかった。
俺の目を見て憎しみを抱くのは父上だけではなかった。他国の一部からも何故か恨みを買った。どうも俺が神の愛し子の上に、他国とはいえ初代国王と同じ目だというのが気に食わなかったと聞いている。
成人した俺は、この時国王になっていた父上の臣下から外遊を命じられた。いまだに俺を認知せず、会話もしない父上に貴族達は呆れていた。拒否しても良かったのだが、折角の機会だからとサムディと護衛を連れて国を出た。
良い国もあったし、死にかけるほど酷い対応をされた国もあった。
事前に、その国の礼儀でも俺には出来ない事があると伝えていたのに、俺が礼儀を無視して相手を侮辱したことにされた。
そのことを理由にして、傲慢に振る舞う神の愛し子である俺を、偉大なる神に代わって退治するという無茶な理屈で俺を殺そうとした。その場にサムディ達がいなかったことも死にかけた原因でもある。
なんとかその場を逃げ出して、サムディ達に救出された俺は、教会の力で生き延びることができた。喉の損傷が酷く、傷が癒えても声が出せなくなった俺を哀れんで、治癒を施してくれた方が俺に変わった声を出せる力を授けてくれた。その方は、元々俺が持っていた神のお力ですなどと謙遜していた。この力を使いこなすのは結構な月日が必要だったが、俺はまた皆と話すことが出来るようになってとても嬉しかった。
死にかけた国で安全が確保できる保証もないのであの方にはまともなお礼も出来ないまま国を出てしまった。
俺達が国を出た後で、俺を殺しかけた男とその周りで食中毒が流行り、死ぬまで苦しんでいたそうだ。俺はその時に何も出来なかったことが悔しかった。
外遊を終えてバーバラ国に戻った俺に待っていたのは、妻との出会いだった。
妻を一目見た時からこの人だと分かった。妻は、公爵家の親戚の令嬢で俺の婚約者として紹介された。妻と出会わせてくれたことに偉大なる神に感謝した。
しかし、俺は教会の力のおかげで、傷跡は残ってはいないが変わった声の出し方をするようになった男だ。俺のような男など妻には相応しくないと思っていた。
この時の妻も自身が俺に相応しくないと思っていたらしい。神の愛し子で、偉大なる神の力を宿した訳ありの王子に、何の力も持たない自分が隣に立つなど烏滸がましいのではないかと悩んでいたそうだ。
少し誤解している妻にはきちんと、この声は教会の力のおかげだと主張しておいた。
そして、何とか彼女を俺の妻に迎えたいという熱意が伝わったことで、俺と妻は無事に婚約することができた。
問題は国王になった父上だ。何故か俺と妻との婚約に口を出してくるのだ。直接ではなく臣下を使うのが小物だわと母上は高笑いをしていた。
いきなり俺を認知すると言い出した父上に母上はこれ幸いと認知の書類を神殿に出した。俺を見ながら、私の夫は死んでいるが息子の父親は生きているのよと、優しく微笑んでくれた。
父上が、認知したことで俺の活動範囲が広がった。宰相とは、この時からの付き合いだ。認知前より父上が婚約を反対してくるのには辟易していた。
母上の権力のおかげで父上は臣下を使って口出しだけしか出来ないことが分かっていたので、この頃の俺は自分の権力の弱さによく落ち込んでいた。
まあ、父上など無視して盛大な結婚式を挙げたのは良い思い出だ。
「あなたは生きる為に、沢山の努力と根性で困難を乗り越えてきましたわ。アイリ五世として即位された時、その後ろ姿を一番近くで見ていたことは、今でもわたくしの誇りですの。あなたとの子供を産んだ時、私はあなたの心からの笑顔を初めて見た気がしましたのよ。おかしいでしょう、その前にも沢山見ているのに、何故か毎回あなたの笑顔を見るたびにそう思ってしまいますの。あら、あなた、どうなされたのですか。クロマルちゃんをいきなり顔に貼り付けるなんて。ふふ、クロマルちゃんびっくりしていますわよ」




