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権力と猫  作者: 央美音


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21/25

ビヴァーライセ国のアレ

 晴れ渡る空の下でアレが処刑される。

 聖女を名乗る前世持ち、俺の国で女王になろうと意気揚々とビヴァーライセ国の王子と共に、閉じていたはずの門を開けてバーバラ国に入った途端、王子と共に捕縛されて王城まで連行された。

 

「私は聖女よ! そしてこの国の女王になるの! どうして私が処刑されるのよ!」 


 お前が、重罪人だからと言ったところでアレには届かない。

 俺が、アレの前に姿を見せるのを王太子と宰相と貴族達、そして妻が大反対したのだ。しかし、アレをこの目で見たかった俺は声をかけないことを条件にして、刑場の高い位置にいる王太子の後ろでこっそりとアレを見ている。


「私は正統なるバーバラ国の王位継承者なのよ! この国を統べる権利があるのは私だけ! どうして皆分かってくれないの! ねえ! 彼らはどうしたの! 私の到着を楽しみにしているって、手紙をくれた彼らは何処にいるのよ!」


 お前より先に刑を執行されたよ、お前を誘き寄せる為の手紙を書いた後でな。

 今この国を統べているのは俺で、次代は王太子が受け継ぐ、他にも継承権を持つ者達はいるが飾りにすぎない。前世持ちだろうが身分はビヴァーライセ国の平民、何故アレはあんな戯言を叫んでいるのだろうな。


「私は聖女よ! 神から選ばれた存在! この世界は、神が私にくれた私の世界! 世界の中心にあるこの国が私に最も相応しいのよ! 私が女王になるのは当然なんだから、感謝するのが当たり前でしょ! さっさとこの縄を外しなさい!」


 これだ。一応の決まりとして裁判にかけた時、アレは同じことを言ったらしい。

 確かに、聖女とアレは違う。聖女は偉大なる神の為の存在で、アレは前世でもただの人間だ。

 処刑台にいるのに、この世界は自分のものだと今でも信じている。アレの考える世界の中心というのも、俺が考えるものと違っていた。アレはただ大陸の中心にあたる領土を持っている国だからと、この国の女王になると決めたらしい。呆れ果てて、笑うのも難しい。アレが、世界の中心だと言っている場所は俺の国の最北端で森があるだけだ。

 

「ねえ! 王子は、私の王子様はどうしたの! 私と彼はここで世界一幸せな夫婦になるのよ! 貴方達もビヴァーライセの皆みたいに、私の力で怪我も病気だって治るのよ。治してあげるから、この縄を解いて私に跪きなさいよ!」


 聖女とされた原因である治癒に似た力はアレにはなかった。アレが対象に触れることで精神に干渉し、怪我や病気を治したと洗脳する力だった。力を使われた者の周りにまでそう思わせるのは強力だ。

 あの国の、上に立つ者達の死者数が増えていたのはこれのせいだろう。アレの力は使い方次第で、世界が滅びる危険な力だ。

 アレと共に来た王子がいたから、アレの力が洗脳だと分かった。

 聖女だと証明する為に、王子はアレに治療された怪我があると訴えた。怪我が治っているのなら調べても意味はないのだが、見せられた王子の腕には、放置したせいで傷跡が残るほどのひどい化膿をしていたそうだ。治療した医者がそう指摘してもアレと王子は強く否定した。あまりの拒絶反応に二人を診断した結果、洗脳されていることが分かった。使用者まで洗脳する力など恐ろしすぎる。

 王子が着ていた服には汚れが染みついており、あの国の状況は、思っていたより酷そうだと判断された。

 王子は、あと数日で合併症が原因で死亡する可能性があったらしい。良かったな王子、アレを連れてきたから命拾いしたぞ。

 死にかけの筈の王子が、平然とした姿で立っていることを脅威として、アレの処刑は早まった。

 そんな王子は国軍付きで送り返した。アレが死んだ後に、洗脳が解けるかは知らんが自国の後始末は自分達でやろうな。


「この国は魔王が支配しているんでしょ! 私が、支配の力に、怯えている貴方達を解放してあげる! 怖がらずに私のところに魔王を連れてきて! 必ず魔王を倒して私がこの国の女王になるの!」


 どうやら、この国に入る前に俺を退位させるより俺を殺して国を乗っ取ることに決めていたようだ。立派な侵略行為を声高々に訴えている。

 魔王が何かは知らんが、どうも俺はアレにとっては魔王という存在らしい。魔王とは何かとアレに聞いても、ただ、魔王は倒すべき存在で私だけが魔王を救えるのと叫ぶだけ。

 倒すべき存在を救うとは、おかしなことを言うものだと首を捻ったが、自分の行動は全て救いだと思っているアレを少しだけ恐ろしく感じた。


「聞いているわよ! この国の王は、全て金色の目をしていると! それが魔王である証拠よ! 喋りもしないで自分の声を頭の中に響かせて皆を洗脳しているのでしょう! 私が来たからにはもう大丈夫。魔王は私が必ず倒してみせる! そして、皆が安心して穏やかに過ごせる暮らしを約束するわ!」


 俺の目は全てが金色ではないぞ。白目は白いし目は黄色で、偉大なる神と同じ金色は瞳のところだけ。

 声だって昔死にかけた時に教会の力のおかげで、口に出して言いたいことが伝わるようになっただけだ。

 それにこの国は平穏だと反論したい、俺は民から慕われているんだぞ。

 アレは、ビヴァーライセ国でよく殺されなかったな。俺が生命狙われてる系国王でも、神の愛し子の象徴を貶める言動。偉大なる神の色を否定している。洗脳は思考能力もおかしくするのだろうか。


「皆! 聞いてちょうだい! 私は神によってこの世界に降り立った聖女! この国から私の力で世界を救いに導いていくのよ! 皆が従わないのは身分が低いからでしょう、昔も今も平民だけどそんなの関係ないわ! 皆が私を聖女と、女王だと認めてくれるだけで、私は至高の聖女として存在出来るの! 私は、この世界を平和に導いた後に、一生幸せな人生が待っている! さっさとこの縄を解きなさい!」

 

 本当に、アレは向こうの世界でどんな生き方をしていたのだろう。人の話を全く聞いていない。 

 今も自身の罪状が述べられている横で、堂々とアレが信じる主義主張をやめない。よく通る声と洗脳の力で生きてきたのだろうか。


「ねえ! そこの! 高い場所にいる貴方! 貴方は偉い人なのでしょう! なら貴方と結婚してあげる! 私が魔王を倒した後に一緒にこの国を治めましょう! 貴方がこの国を支配出来るのよ! とても素晴らしいことでしょう!」 


 どうやらアレは、重罪人の死刑執行の許可を出すのが王族だと知らないようだ。王太子だけが身に着ける衣装も知らないで、この国を乗っ取ろうとしたのか。平民でも知っている常識を持たないのに、よく女王になると叫べたな。こちらの常識が全て消し飛んだ前世持ちだったのか。

 後ろからでも分かる王太子の怒りは、腕を振り下ろすことで収まったようだ。

 あとでクロマルを撫でさせておこう。クロマルは皆に幸せを与える猫だからな。

 聖女は、アレに対して湧きあがる慈しみと排除の心の矛盾で笑うしかなかった。その苦しみは今終わったのだろうか。

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