中
軍事惑星と非軍事惑星については、さまざまな噂が付きまとっていた。それは、現実の物もあるし、非現実の物もあった。その中の一つ、空間移動について、両惑星が実験を繰り返しているという話があった。
軍事惑星では、その技術を使い、一気に敵国に軍を送り込み、戦争を自国に有利な形で終結させる事ができると思われていた。一方で、非軍事惑星では、他惑星に、一瞬で移動できたら、惑星間交易や旅行が飛躍的に便利になる事をもくろんでいた。
最初に、その技術を作ったのは、彼らではなく、宇宙文明であった。邂逅を果たしてから、数百年経った時には、すでに、彼らとこちらが持っていた文化・技術は、全て融合し、新しい文明を花開かせていた。宇宙文明の伝説の中に出てくる、他宇宙からの飛来については、非常に注目が浴びせられ、事実、他宇宙から戦艦が一隻来た事もあった。しかし、それは非常に不確定要素があまりにも多く、確固たる技術を作る事は、遥かに昔の宇宙文明でしかできなかったのだった。彼らは、その技術を編み出し、最初にいた宇宙から多くの宇宙に羽ばたいて行ったと言うが、ここにいる宇宙文明の末裔達は、その技術を失っていた。
そして、非軍事惑星が、全世界に瞬間異動装置を開発した事を発表。その翌日には、軍事惑星が、同様の装置を製造した事を発表し、実験が行われた。
その実験の内容と言うのは、両方の装置から、同時に人を送り、消えて、戻ってきたら、実験成功とするというものだった。それをするためには、1兆分の1という、超精密測定が必要とされた。しかし、その実験をする事は、国家の威信にかけて、成功させなければならない行事であり、また、それをするための人も、非常に重要なものだった。そして、非軍事惑星で選ばれたのは、生後1年のイフニ・ステーニュであり、軍事惑星で選ばれたのは、20歳になったばかりの、陸軍実験部隊隊員のクリンゲルン・サワイケだった。彼らは、同時にどこかへ飛ばされたが、二人とも帰ってくる事はなかった。
この実験から、数百年がさらに経過した時、両方の惑星において、ある、不思議な光が観測された。それは、時に明るく、時に暗くなりながらも、浮かんでいた。しかし、いかなる探査装置においても、感知ができなかった。その光は、全ての文明人に対して語りかけていた。
「この声を聞きしもの達よ。我は神なり。我の言う事は全て神の行為なり。我をして、我に従え。我と共に、発展の道を歩むべし」
その神の名前は、マギウス神といい、彼こそ、この世界に存在する全ての神を作った存在だと言うのだった。時の人類統一政府首脳は、こう語っていた。
「この人が、神である証拠などない!我らは、我らなりの発展がある。もしも、神であるというならば、その証拠を見せよ」
そして、その証拠として、とある力をあちこちの人に授けた。それが、現在で聞く「魔法」と言うものだった。この事が故に、魔法の事を神の力と言う人もいる。ただ、はっきり言えるのは、これから先、さまざまな魔法を使う人が現れて、さまざまな悪行・善行をするだろうという事だった。
非軍事惑星も軍事惑星も、この力を利用し、さまざまな技術革新を行った。そして、その結果、完全に自由に移動できる瞬間移動装置が開発され、さまざまな人・物・資金が、宇宙空間に出る事無しで、惑星間で取引できるようになった。だが、人々は、この時点で、この方式の欠点に気づいていなかった。
最初に綻びを見せたのは、軍事惑星だった。軍事惑星におけるこの方式では、一気に百人単位で移動をする事であった。だが、ある日、何かの手違いで、同時にこっちに来る分と別の惑星に送る分が合致した。その瞬間、機械が爆発を起こし、彼らは、一瞬で蒸発したように見えた。この事が契機となり、この航法は、忘れられるようになった。もしかしたら、宇宙文明も、この事故をきっかけとして、使用を中止したのかもしれない。彼らに残されたのは、木端となった機械と、膨大な慰謝料だった。資金繰りに困った軍事惑星は、国債を発行し始めた。国債を乱発した結果、スーパーインフレが起こり、1日で、お米1kgが300倍に跳ね上がった時もあった。惑星間経済は大混乱を起こし、それぞれの惑星同士で、資金繰りが悪化。完全に、経済は停止した。
その後、唯一好景気が続いていた非軍事惑星も、そのあおりを受け、徐々に景気は下がり始め、宇宙的な経済後退期に入った。この出口が見えない迷路に入った宇宙中の惑星は、鎖国と同様な手段を使い、ブロック経済を始めた。こうして、宇宙からは、宇宙船という存在が無くなりつつあった。その後、彼らは、一つの決断をする事になる。