表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
8/25

第八話 道連

 流花るかは1人、山道を足早に登っていた。今は一刻も早く沙久楽の郷から遠ざかるべきだと考えていた。とはいえ、疲労もある。お腹も空いてきた。開けた所を見つけて休憩する事にした。敵に見つかり易いといえるが、敵を見つけ易いともいえる。それに流花は自分の武技は狭い場所には向かないと思っていた。ふと二人分の気配に気づいて流花は身を潜めた。戦わずに済むのであれば、それに越した事はない。だが見えてきた二人の姿を見ると流花はホッと胸を撫で下ろした。1人は赤いミニドレスに赤いエナメルのニーハイブーツ。赤いロングコートを纏って赤いつは広でグロリオサの花飾りついた帽子という出で立ち。こんな格好で堂々と外を歩く人物を流花は二人と知らない。

緋女ひめちゃ……!? 」

「流花お姉ちゃぁん! 」

 緋女に声を掛けようとしたのだが、その後ろに居たもう1つの気配の主が飛びついてきた。

「る、月奈るなちゃん!? 」

「なんも言わんと何処行きはるん? 」

 抱きついてきた月奈の頭を撫でながら流花は緋女の顔を窺った。

「へ?あ、いやいやいや。違う違う違う、そうじゃない。あたしが連れてきたんじゃない。途中で拾ったんだ。あの村で最初に話した子だし放ってもおけないだろ? 」

「緋女ちゃん、私まだ何も言ってないよ? 」

 流花が澄ました表情で悪戯っぽく問い掛けると緋女は少し紅潮して口を尖らせた。

「流花お姉ちゃん、お姉さんを苛めんといておくれやす。うちが勝手に追いかけて来たんや。」

 月奈に言われて慌てて流花も否定する。

「え? いやいや。苛めてないよ! ねぇ緋女ちゃん? 」

 流花は同意を求めるも緋女にとぼけられてしまった。

「そ、そうだ! 月奈ちゃん、1人で村を出て来ちゃったんでしょ? きっと鳥鳴さんとか心配してるよ? 」

「帰らなあきまへんか? 1人で帰るんかのぉ? 」

 月奈に寂しそうに俯かれてしまって流花も困ってしまった。月奈を送って沙久楽さくらの郷に戻れば、また華京が攻めて来るかもしれない。だからといって1人で帰すには危険過ぎる。むしろ、ここまでよく無事に辿り着いたものだ。

「まぁ、いいんじゃない。ここに来る道すがら聞いたけど名前以外の記憶が無いっていうじゃない。もしかしたら旅の途中で何か思い出すかもしれないし。」

 実際問題、現実的に考えて進むも戻るも危険な事に変わりはない。むしろ既に華京に目をつけられている分、沙久楽の郷に戻る方がリスクは高いといえる。

「じゃ、一緒に行こうか。」

「やったぁ! おおきに。」

 無邪気に喜ぶ月奈だったが、流花の顔色は晴れなかった。

「1つ約束。危なくなったら緋女お姉さんと一緒に逃げること。」

 月奈は不思議そうに首を傾げたが緋女は仕方ないという顔で頷いた。

「任せときな。あんたの武技解放に巻き込まれない所まで避難させるから。まぁ、その前に竜斗の奴がスッ飛んで来るだろうけどね。」

 ***

「ハクシュン! ……緋女の奴、またくだらない噂話してやがんな。」

 黒竜を片手に竜斗は二度寝を決め込んだ。

 ***

 流花たちは三人で行動する事にはしたが行くあてがある訳ではない。だからといって1つ所にじっとしている訳にもいかない。華京との国境付近では、いつ襲ってくるかも知れない。星都の中心では流花が『白桜姫はくおうき』を所持していると知られれば竜斗と同様に要監視対象とされるのは目に見えている。しかし川に落とされた時に荷物は無くしてしまったし自分だけなら野宿も已む無しと思っていたが緋女だけならともかく月奈もいる。偏狭の村を移動して日雇いで路銀を稼ぎ宿を取る事にした。流花は鳥鳴ちょうめいの手伝いをしていたのが功を奏して療養所の仕事がすぐに見つかった。しかし……

「お姉さん、他にお洋服ないの? 」

 月奈に聞かれて緋女も気拙そうに頭を掻いた。

「あるよ! あるんだけどねぇ…… 」

 緋女の荷物には真っ赤な衣裳しか入っていなかった。

「いいよ。療養所はお給料いいから緋女ちゃんは月奈ちゃんとお留守番してね。」

「あんた探して街を出る時に、まさかこんな逃避行になるとは思ってなくてさ。」

 運悪く、この村には日雇いで制服を貸し与えてくれるような仕事は無かった。緋女の真っ赤な服装は目立つし、この村ではあまりにも浮いていたため敬遠されてしまったのである。それに外を出歩くにも目立ちすぎるため、宿でおとなしくしている事にした。役人に目をつけられるのも避けたかったし華京の間諜が居ないとも限らない。

「流花さん、今日は助かったよ。なんなら、ずっと居てもらってもいいんだよ? 」

「すみません、まだ旅の途中なものですから。」

 流花は療養所の医師にすまなそうに頭を下げた。

「残念だなぁ。こんな優秀な助手は中々見つからないのに。余程いい先生に教わってきたんだろうね。」

 医師の言葉に流花は笑って誤魔化すしかなかった。ここで鳥鳴の名前を出して足取りが誰かに漏れる事は避けたかった。

「流花お姉ちゃん、お帰りなさい! 」

 宿に戻ると月奈は元気に出迎えてくれたが緋女は慣れない子供相手でぐったりしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ