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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第六話 開花

 緋女ひめは改まって流花るかに向き直った。

「それで、どうするの? 」

「え? 」

 一瞬、流花には緋女の質問の意味がわからなかった。

「だからぁ。あたしは竜斗にあんたを逃がしてやってくれって言われて来たの! 逃げるの逃げないの? 」

「もしかして緋女ちゃん、この結界解けるの? 」

「うんにゃ」

 何故か自信満々に緋女は首を振った。

「誰が張ったか知んないけど、こいつを解くとなったら一苦労じゃ済まないだろうね。けど…… 」

「けど? 」

 流花は二の句を待った。

「この結界、あたしは出入り自由な訳じゃん。なら、あたしがそっち行って空間に穴開けて、あんたを出してから、あたしは普通に出てくればいいじゃん! 仙術で造った結界なら時には武技より術技よ。」

 そして緋女は言った通りに流花を結界の外へと出してしまった。

「緋女ちゃん、ありがとう! 」

「で、も一度訊くけど逃げるの逃げないの? 」

「結界から出してくれてありがとう。でも、せっかくだけど、わたし逃げない。逃げる訳にいかないの! 」

 それを聞いて緋女が笑いだした。

「ハハッ! そうそう、それでこそ、あたしの知ってる流花だよ。自分の為に誰かが犠牲になるなんて、まっぴらだよね。んじゃ、行こうか! 」

 緋女の態度に流花は戸惑っていた。

「行こうかって…… 緋女ちゃん? 」

「あたしは、あんたが突然居なくなった後も、ずっと友達のつもりだった。だから竜斗の奴もあたしに声を掛けてきたんだろうしね。」

「緋女ちゃん、つもりじゃなくて友達だよ? 」

「そか……そだね。んじゃ行こうか。」

「うん! 」

 流花は緋女と一緒に村の入り口へと走り出した。

 ***

 星都へと赴いた水明は星帝の私室に居た。

「では星帝陛下は書簡を出された覚えが無いと? 」

「あぁ。不思議な事に確かに俺の筆跡だが、俺は書いちゃいねぇ。それより水明、このまま星都に帰って来ねぇか? あんな辺境の村の星務官で収まる器じゃないだろ? 星都に帰って来りゃ、すぐにでも執星官にしてやるし、なんなら…… 」

 しかし水明は最後まで聞かずに席を立った。

「おい、水明! 」

「そのお話しは何度も御断りした筈ですよ。それより書簡が偽物であれば長居は無用です。華京の奸計である可能性が高いですからね。」

 星帝が止めるのもきかず水明は沙久楽の郷へと帰っていった。

「陛下、あのような振る舞いを許しておいて宜しいのですか? 他の者に示しがつきませんぞ! 」

「構わねぇよ。言いたい奴には言わせておけ。水明は俺がこの国で一番評価している男だ。」

 星帝は水明の後ろ姿を笑顔で見送った。

 ***

「おいおい鳥鳴さんよぉ。これじゃジリ貧だぜぇ? 」

 雷庵がぼやくのも無理はなかった。数の上では一個師団相手に二人では押しきられるのも時間の問題だろう。かといって先に武技解放を行えば華京に沙久楽攻めの口実を与えかねない。

「数で圧倒すれば武技を解放するかと思ったがしぶといな。ならば望み通りこちらから武技を解放してやろう。そして一瞬でこの村の終わりだ。武技解放!気焔万丈フル・ファイア! 」

「武具顕現!白桜開花チェリー・ブロッサム! 」

 焔獄が気焔万丈を放つと同時に白い桜が宙空に舞い、その威力を受け止めた。そして散った花弁は集束して一本の刀となって少女の手に収まった。

「流花!? 結界は? まさか…… 」

 鳥鳴は流花が武技解放したら療院どころか、この村のある丘ごと無くなると言っていたのを思い出していた。

「オバさん、そんな訳ないじゃん。流花用の結界だもん、流花でなきゃ何とか出来る作りだったでしょ? 」

 鳥鳴の表情が引き攣った。この真っ赤な装束の少女、緋女が鳥鳴の仙術結界を破った事……ではなくオバさん呼ばわりした事にだが。

「まるで赤い竜斗みたいな格好だねぇ。お前さん、誰だい? いや、そんな事は後でいい。非常時だ、流花の知り合いなら手を貸して貰えるかい? 」

「もちろん! 」

 緋女は二つ返事で頷いた。一方で焔獄は……いや、第三師団『炎華ほのか』全員が同様していた。

「し、師団長! 流花は決して白桜姫はくおうきを抜かないんじゃなかったんですか!? 」

 同様する団員たちに追い討ちを掛けるように天から漆黒の抜き身の刀が降ってきた。そして竜斗が舞い降りてきた。

「黒い龍の刃紋!? こいつが第一師団長を退けたって男!? 師団長、撤退を……撤退を! 」

 慌てふためく『炎華』の団員を無視するように竜斗が口を開いた。

「緋女ぇ! 頼んだ事と違うじゃねぇか! なんで流花がここに居る? なんで白桜姫を抜いている? 」

 だが緋女も涼しい顔で平然と答える。

「そりゃ、ろくでなしのあんたの頼みより親友の頼みの方を優先するに決まってるでしょ。」

 それを聞いて竜斗も察した。流花がここに居るのは流花の意思である事を。竜斗が『炎華』の真っ只中に舞い降りたのには理由があった。流花に武技を解放させない為である。それでも白桜姫を見せられ、光凛こうりんを退けた竜斗が現れた事で『炎華』の団員たちは戦意を喪失していた。中には勝手に逃げ出す兵もいた。

「も、戻れ! 戦え! 第三師団『炎華』の意地を見せるのだ! 」

 笛吹けど踊り踊らず……もはや焔獄がいかに鼓舞しようとも逃げ出す兵士を止められない。だが逃げる兵士の前に1つの人影が現れた。

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