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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第五話 襲撃

「はぁ!? 聞いてないよ? 」

 水明すいめいの執務室に呼ばれた鳥鳴ちょうめいが声を荒げた。

「うん。今、初めて言ったからね。」

 平然と答える水明だが、鳥鳴は納得がいかないようだ。

「なんで療師のわたくしが星務官せいむかん様の留守を頼まれなきゃならないんですか!? 」

 事の発端は星都せいとから水明に届いた一通の書状だった。星都を統べる星帝せいていが自ら星務官クラスの官僚に書簡を出す事など滅多にない。それほど華京かきょうとの今回の件について気にしているのだろう。直接、水明に会って話しを聞きたいという。だからといって役人でもない鳥鳴が留守を任されるというのは合点がいかなかった。

「ここの役人は文官ばかりで、また光凛みたいなのが攻めてきたら何も出来ないからね。」

「わたくしは療師ですよ? それなら雷庵らいあんにやらせればいいじゃないですか! 」

「ホントにそう思う? 」

「え?……いえ…… 」

 鳥鳴は水明に逆に質問をされて口籠ってしまった。何も考えずに相手を殲滅するのであれば、むしろ雷庵の方が適任だろう。しかし星都と華京との関係性を鑑みて駆け引きが必要となれば雷庵は適任者とは言い難い。

「頼りにしてますよ、鳥鳴さん。」

「あぁ~ わかりました。やります、やらせて頂きます。星務官様に頼られたんじゃ仕方ないですもんねぇ。」

 なんとも複雑な心境で水明が不在の間の沙久楽の郷を鳥鳴は引き受けた。もちろん、面倒な事務処理は本業の文官任せである。それを聞いて安心して水明は星都へと出発した。しかし翌日、朝から鳥鳴の表情は優れなかった。

「どうかしたんですか? 」

 流花が心配そうに鳥鳴の顔を覗き込んだ。

「ちょっと出掛けて来るから留守は頼んだよ。」

 そう言い残して鳥鳴は出掛けていった。そして村の入り口まで来ると大きく息を吐いた。

「はぁ…… 星務官様の行動なんて普通、広報もされないんだけどね。妙にタイミング良すぎるんだよ。いいかい、先に手を出すんじゃないよ! 」

 鳥鳴が声をかけた先には雷庵が居た。

「おうよ。ワイは空気を読める男だかんの。ガッハッハ! 」

 豪快に笑う雷庵を不安に見てから鳥鳴は村の外へと歩を進めた。視線の先には花炎クレマチスの紋章の旗を掲げた一団が迫っていた。

「なんて相性の悪い…… っていうか敢えてわたくしと相性の悪い相手を送り込んで来たと考えていいんだろうね。」

 鳥鳴はゆっくりと一団の前に進み出た。

「お待ちっ! ここは星都領、沙久楽の郷だ。それ以上軍勢を進めると侵犯行為だよ? 」

 すると一団を率いていた男が前に出てきた。

「安心しろ。まもなくここは焼け野原になる。つまり侵攻を受けた村など存在しなくなる。星務官が不在の間に起きた事など無かった事になる。」

 男の言葉に鳥鳴の表情が厳しくなる。

「つまり、お前さんたちは星務官様の不在を狙ってきた臆病者って事かい? 」

 今度は鳥鳴の言葉に男が表情を険しくした。

「口の利き方に気をつけろ。我ら第三師団『炎華ほのか』は臆病者ではない。軍属故に命令に忠実なのだ!」

「いいのかい? て事は沙久楽攻めは、お前さんの単独判断じゃなく華京のトップの意思…… つまり星都に宣戦布告したようなもんだよ? 」

「死人に口無し。今の話しも貴様らを始末すれば証人は居なくなる。この焔獄えんごく様の武技によって全ては灰に帰すのだ! 」

 ***

 この出来事は当然、村の中でも騒ぎになっていた。役所でも指示を仰ぐべき水明が不在とあって統率も取れず右往左往している。

「流花お姉ちゃん、集会所に避難しよう! 」

 療院に月奈が駆け込んできた。

「わたしはいいから、月奈ちゃんは先に逃げて! 」

「でも…… 」

 月奈は流花を連れ出そうとするが療院には鳥鳴の張った結界がある。ある意味、療院にいた方が村人も安全なのかもしれないが鳥鳴たちが突破されれば集中砲火の的になるのは火を見るよりも明らかなので療院に避難させる訳にもいかなかった。

「お嬢ちゃん。流花お姉ちゃんには、このお姉さんがついているからお逃げなさない。」

 突然、声を掛けられて月奈は驚いた。

「お姉さん誰? 」

 月奈には見覚えのない顔だった。いや、正確には帽子のつばで顔は見えていない。ただ、聞いたことのない声と見たこともない赤いミニドレスに赤いエナメルのニーハイブーツ。赤いロングコートを纏って赤いつは広でグロリオサの花飾りついた帽子という出で立ち。明らかに沙久楽の郷の人間ではない。

「お姉さんは流花お姉ちゃんのお友だちだよ。だから先にお逃げなさい。」

「う……うん。流花お姉ちゃん、先に行ってるね!」

 月奈は何度も振り返りながら集会所の方へ走っていった。

「どなたか知りませんが、ありがとうございました。あなたも早く逃げてください。」

 すると赤ずくめの女性は少しガッカリしていた。

「はぁ…… お姉さんは流花お姉ちゃんのお友だち…… だと思ってたんだけどなぁ…… 」

 そう言って女性は帽子のつばを上げた。

「え? 緋女ひめちゃん!? どうして??? 」

 流花は帽子の下の顔を見て驚きを隠せなかった。

「どうしてじゃないわよ。突然居なくなるし、竜斗の奴にいきなり、あんたがピンチだから逃がしてやってくれとか言われるわ。」

 緋女は若干呆れてもいるようだった。

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