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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第四話 流花

 鳥鳴の療院では傷の癒えた流花るかが甲斐甲斐しく働いていた。鳥鳴に世話になっているとか治療費が払えないとか幾つか理由はあった。しかし最大の理由は……

「鳥鳴先生、そろそろ外に出させて貰えませんか? 」

 流花が作り笑顔で尋ねるが答えはいつも決まっていた。

「せっかく助けてやった命を狙われてるのがわかってて外には出せないねぇ。」

 鳥鳴の療院には仙術で特殊な結界張られており、流花だけが外に出られず軟禁状態に近かった。と言っても療院は鳥鳴の住居を兼ねているので不便はなかった。欲しい物もある程度は鳥鳴が用意してくれる。もちろんツケとは言われているが。怪我も治り外にも出られない。結果として流花はやることもないので自分から鳥鳴の手伝いを申し出た。

「だいぶ元気になったようだし精神的にも安定しているようだから訊くけど、華京かきょうが狙うお前さんの得物ってなんだい? それと竜斗の奴とはどんな関係だい? 」

 華京が流花を狙う理由は攻めてきた光凛こうりんが言っていたので理解したが、大国である華京が第一師団長を送り込んでまで奪おうとする流花の得物に興味があった。

「竜斗さんは押し掛け警護人ボディガード? みたいな感じで……わたしには恩があるとか仰るんですけど身に覚えがなくて…… 」

「恩? まぁあいつも治療費踏み倒したくせに変に義理堅いとこがあるからね。で、得物は? 」

「それは……その…… 」

 流花は口籠って俯いてしまった。

「まぁいいや。別に尋問している訳でもないし、わたくしは役人でもない。嫌なら無理に答える事はないさ。」

「あ、いえ……嫌とかじゃなくて…… 」

「じゃあ、なんだい? 」

「深入りすると鳥鳴先生も狙われてしまうかもしれません。わたしが此処にいるだけでも鳥鳴先生やこの村に御迷惑を掛けてしまいます。華京が本気を出してきたらいくさになってしまうかもしれません。だからこそわたしを出してください! 」

 流花が懇願するも、やはり鳥鳴は首を振る。

「何度も言わせないでくれる? わたくしは、お前さんを死なせる為に治した訳じゃないの。どうしてもこの療院出たかったら武技でも解放すりゃいいだろ。出来るんだろ? 療院ごと結界を壊すくらいは。」

「そんな事、出来ません! 私が武技解放したら療院どころか、この村のある丘ごと無くなっちゃいます!! 」

 それを聞いた鳥鳴がクスクスと笑い始めた。それを見た流花が眉をひそめた。

「あの……笑い事じゃないんですけど……」

「いや、すまない。別にお前さんの言うことを疑った訳じゃないんだ。どんな恩義があるかは知らないがお前さんに、それをさせない為にあの竜斗りゅうとが奮闘しているのかと思うと可笑しくてね。まぁ、あいつも金は無いけど、少しはいいとこあるんだなってね。素直に言やぁ協力してやるのに変なところでシャイなんだから。」

 半ば呆れたように鳥鳴が言う。だが、それを聞いた流花は益々眉を顰ませる。

「あのぉ……鳥鳴先生。私の話し聞いてます? この村を守る為には私を追い出すのが一番なんですってば! 」

 すると鳥鳴の表情が険しくなった。

「お前さんこそ人の話しを聞いてたかい? わたくしはお前さんを死なせるために治した訳じゃないんだ。村と患者の命を天秤に掛けるような真似はしないよ。まぁ、わたくしと星務官様に任せておきなよ。」

 結局、この日も流花は療院の外へは出して貰えなかった。だが数日後、流花は鳥鳴に声を掛けられた。

「流花、往診に行くけど来るかい? 」

「え? あっ、はい! 行きます! でも……いいんですか? 」

「あぁ。いい加減、お前さんも息が詰まるだろ? もちろん逃げようとしても無駄だからね。」

 仙術なのか見張りが居るのかは、わからないが鳥鳴の手の内から逃げるのは諦めていた。それこそ武技を解放すれば容易いが世話になっている沙久楽さくらの村を壊滅させる気にはなれなかった。鳥鳴の道具箱を持つと久しぶりの外出に流花も楽しそうに出掛けた。往診先に向かう途中、1人の少女が声をかけてきた。

「鳥鳴先生~! 」

「おぉ、月奈るなか。その後、具合はどうだい? 」

 すると月奈は顎に人差し指を当てて首を傾げた。

「うぅ~ん、体はなんともないけど名前しか思い出せへん。そっちのお姉ちゃん、どちらはん? 」

 小さな村だ。川で拾われた少女の噂くらいは広まっているだろうが療院から一歩も出して貰えなかったので顔は鳥鳴、水明、発見した子供たちと一部の通院患者ぐらいしか知られていなかった。

「このは流花。療院の手伝いをして貰っている。」

「流花お姉ちゃんいいはるんね。うちは月奈いいます。なんか名前、似てますなぁ。流花お姉ちゃんも療師になりはるん? 」

「え? わたしは才能無いから、お手伝いだけかな。」

「そないですかぁ。これからも仲良くしておくれやす! 」

 月奈は丁寧に頭を下げると手を振って去っていった。

「月奈ちゃんって記憶喪失なんですか? 」

 何の気なしに流花は鳥鳴に訊ねたが鳥鳴の顔が少し曇る。

「そう……だねぇ。帰るよ! 」

「え? 往診は? 」

「わたくしは月奈の様子を診に来たんだよ。用が済んだから帰る。」

 それを聞いて流花が頬を膨らませる。

「鳥鳴先生、じゃあ、この道具箱はなんだったんですか!? 」

「え? そりゃ、そういうのがあった方が往診っぽいだろ? この村には療師はわたくししか居ないんだ。患者が待ってるといけないから早く帰るよ! 」

 流花は訳もわからず足早に療院に向かう鳥鳴の後を追った。


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