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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第二十四話 抑制

 流花るかの修行は困難を極めていた。普通、修行といえば能力を伸ばす為に行われる事が多いのだが、流花の場合、その能力を抑制しようというのだから通常の修行とはかなり趣を異にする。

「す、すいません…… 」

 流花としても周囲を吹き飛ばさずに自身の身を守れるようになりたいのだがどうも上手くゆかない。

「焦らすようで悪いけど気長にって時間も無いしね。とはいえ流花の場合、滝の水を糸程に細くしろって言ってるようなもんだから簡単にはいかないよねえ。」

 鳥鳴ちょうめいも難易度の高い事は承知していた。最悪、華京が攻め込んで来るまでに間に合わなければ従前通り竜斗を護衛につけるしかない。

「だいぶお困りのようですね? 」

 不意な声に振り向いて流花が驚いて声をあげた。

花椰菜かやなさん!? 」

「流花の知り合いかい? 」

 花椰菜とは初対面の鳥鳴が怪訝な顔をしていた。

沙久楽さくらの郷の療師、鳥鳴様ですね? 私は津葉樹つばきの郷の星務官の妹で花椰菜と申します。お噂は予々姉の緑麗りょくれいから伺っております。」

「緑麗……? ああ、お前さん、あのおっとりしたお嬢ちゃんの妹さんか。お姉ちゃんと、あんまりにも印象が違うんでピンとこなかったよ。その花椰菜ちゃんが何の用だい? 物見遊山って訳じゃないんだろ? 」

 鳥鳴からの問いに花椰菜は落ち着き払って頷いた。

「はい。姉の緑麗より我が夢蕾むらい家に伝わるこちらの装具をお届けするよう申し付かりました。」

 花椰菜が恭しく取り出した包みの中には見慣れない紋様の刻まれたアームガードが入っていた。

「なんか一部の弓使いたちが使ってるような装具だね。でも流花の武具は刀だよ? 」

「姉が申しますには腕に巻く装具なので、どのような武具であれ振るう邪魔にはならないだろうとの事です。」

 鳥鳴は装具を暫し眺めてから口を開いた。

「それで……夢蕾家の装具にはどんな効果があるんだい? わざわざ、ただの気休めを持ってきた訳でもないんだろ? 」

「流花さんの能力ちからそのものを抑える事は出来ませんが流れならば抑制出来るやもしれないと。言うなれば整流器のようなものとお考えください。」

 そこまで聞いて鳥鳴は装具を流花に渡した。

「都合よくこんなもんがあったもんだねぇ。まあ緑麗が妹に持参させたんだ、試す価値はあるだろうさ。流花、鍛冶師んとこ行って適当な武具借りといで! 」

「うちに適当な武具なんて物はありませんぜ。」

 そこには見事な弓と一振の短剣を携えた鍛冶師が立っていた。

「どうやら、わたくしの武具修理は終わったようだね。で、その短剣かい? 」

「おう。古武士こぶしの郷一番の名工が丹精込めて造り上げた一振だ。そっちがどこまで能力を抑えられるようになったかは知らないが、こいつで駄目ならお手上げだよ! 」

 流花は装具を装着して短剣を受け取ると外へと出た。普通ならば新しい武具の試しは修練場にて行う処だが、試すのは流花である。罷り間違えば古武士の郷が跡形も無くなりかねない。

「武技・桜吹雪チェリーブリザード! 」

 流花の掛け声と共に周囲に無数の薄紅色の光の刃が現れた。それから流花は更に集中力を高める。

「解放・一片の刃(ブレードペタル)! 」

 すると無数の薄紅色の刃のうち、一つだけが樹木の枝を切り落とした。そして流花が短剣を収めると残りの刃は霧散した。

「ふう……」

 少し疲れの見える流花だったが初回はこんなものだろう。

「なるほど、大砲の火薬を減らさずに沢山の短筒にして一丁だけ撃つって感じかい。ちょいと集中が必要なようだけど何とかいけそうだね。」

 その様子を見届けると花椰菜は一礼をした。

「どうやら、そっちもせわしいねえ。」

 鳥鳴に声を掛けられて花椰菜も小さく頷いた。

「ええ。流花さんたちが御見えになった時よりも更に海都の動きが不穏になってまいりました故に。それでは失礼いたします。」

 それを見送ってから鍛冶師は首を傾げた。

「海都って言ったら星都とは同盟国だろ? 動きが不穏って、どういうこったい? 」

「お前さんが気にする事はないよ。」

 鳥鳴も沙久楽さくらの郷の星務官である水明すいめいから海都の動向には注意を払うように言われていた。ただ水明の星術でも不穏な動きを見せるとしか出ておらず、鳥鳴の仙術でもハッキリした証拠は掴めていない。つまり今の状態では怪しいというだけで裏切るとは限らないのだ。そうであれば下手な混乱を招くような真似は避けたい。

「わたくしは一旦、沙久楽の郷に戻るけど…… 」

「わたしは別行動にします。わたしが行ったら郷の皆さんに御迷惑をお掛けしてしまいますから。」

 流花の決意を固めた表情を見て鳥鳴も納得するしかなかった。

「お前さんなら、そう言うだろうと思ったよ。向こうのお目当てがお前さんである以上、本命を陽動に使うみたいな真似はしたくないんだけどねえ。まあ華京の目を向けさせるには一番効果的なんだし……。どうせ、あんたらは流花と行くんだろ? しっかり守ってやるんだよ? 」

「大丈夫! あたしにはお母さんの形見の『紅孔雀』があるからね! 」

 緋女ひめの笑顔の中にも覚悟が見える。

「俺のやる事は変わらないさ。今までも、これからもな。」

 それだけ言うと竜斗は何処へともなく姿を消した。

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