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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第二十三話 名工

 流花るかの護身武具の作製に手擦っている鍛冶師に竜斗が尋ねた。

「何をそんなに手間取ってんだ?」

「この娘っ子の能力ちからが強過ぎて生半可な武具だともたないんだよ……。」

 すると竜斗が頭を掻いた。

「ああ……なるほどな。ずっと俺が『白桜姫はくおうき』を使わないようにさせてきたから加減って奴を知らないんだよな。」

「加減……? えっ、能力って調整出来るんですか!? 」

 驚きの声をあげた流花るかだったが以外な大声に逆に竜斗と鍛冶師が驚かされてしまった。

「お、おう。ただ、武具に対する加減は出来るが武技に対しては加減利かないんだけどな。」

「それで護身用に別の武具って事だったんですね」

 それを聞いていた鍛冶師が半ば呆れていた。

「竜斗、手前ぇそんな事も教えずに、こんな規格外の娘っ子の武具を造れって言ってきたのか? 」

「えっ、あっ、すまねぇ。まさか知らねぇとは思ってなくて……」

「はぁ……。今が山一つ消し飛ばすとして半分でも街ぐらい壊滅だろ? それを護身用となると一割の一割、つまり百分の一以下に制御出来るようにならないとならないんだぞ。」

 実際には、そんな単純な数値計算ではないのだが、そのくらい自在に制御出来なくては護身用武具など造れないという事らしい。

「竜斗さん、わたしに制御の仕方を教えてください! 」

 流花としても『白桜姫』を使わずに自分の身を守れるならとは思っていたので、その為に必要ならばと竜斗に願い出たのだが。

「ああ……悪い。無理だ。」

 あっさりと拒否されてしまった。

「どうしてですか? わたしには制御出来ないって事ですか? 」

 食い下がる流花を見て竜斗は頭を掻いた。

「えっと、そういう事じゃねぇんだ。俺の武技は相手の攻撃が強力なら強力に、貧弱なら弱く発動するから、制御の必要がねぇんだ。」

「つまり竜斗さんも制御出来ないんですか!? 」

「んまぁ、そういう事だ。」

 それを聞いて流花は項垂れてしまった。わざわざ護身用武具を造って貰う為に古武士こぶしの郷まで来たというのに、これではどうにもならない。

「あぁあ、せめて鳥鳴ちょうめい先生が居てくれたら…… 」

「呼んだかい? 」

 流花の嘆きを聞きつけたかのように鳥鳴が現れた。

「うげっ! 大先生も神出鬼没だな。」

「お前さんに言われたかないよ。」

 鳥鳴は少し引きぎみの竜斗をたしなめた。

「流花、元気そうじゃん! 」

 不意にした声の方を向いて流花も笑顔を取り戻した。

「緋女ちゃん! って事はお母さんの形見を…… 」

「ああ、手に入れたよ。」

 そう言って緋女は深紅の扇子を取り出して見せた。

「これが、お母さんの形見の『紅孔雀』。まだ完璧には使いこなせてないんだけどね。」

 緋女はそう言って肩を竦めた。

「でまあ、わたくしの武具修理のついでに流花と緋女に修行させてやろうと思ってね。」

「ははは……」

 流花も鳥鳴の仙術は心得ているので、この展開には慣れている。

「でも武具の修理って壊しちゃったんですか? 」

 流花の『白桜姫』は都度、顕現させるので武具が壊れるという概念が当たらないのだが、他の武具ではあり得るのかと尋ねた。

「わたくしの本来の武具は長いことしまってあったからね。保守を兼ねてさ。どうやら本格的に構えなきゃならなそうだしね。」

 鳥鳴が言うのであれば、事はそう遠くない未来に起きると思っていいのだろう。そう考えると流花や緋女の修行時間はそう長くは取れない。鳥鳴曰く流花と緋女が身に付けなければならない能力制御は真逆らしい。つまり流花は新しい護身用武具の為に能力を抑える制御、緋女は『紅孔雀』の威力を最大限に発揮する為に今の能力の限界を越える、かつ暴走させない制御。時間がないので分担する事になり、自然と自分でも抑える制御の出来ない竜斗が緋女を、今まで自分の能力を抑えて本来の武具ではない武具を扱っていた鳥鳴が流花の修行の面倒を見る事になった。一方で鍛冶師も頭を抱えていた。

「この鳥鳴さんとやらが持ち込んだ弓なんだが、なんて代物なんだよ。こいつを直せる材料は、今はこの郷には無いぞ…… 」

 すると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「このような事もあろうかと、こちらをお持ちしました。」

「こんな事もあるんじゃないかと、これを持ってきたよ。」

 鍛冶師以外はこのほぼ同時に同じような事を言う2人を知っていた。

心狐こころこちゃん、狸晏りあんちゃん! 」

 それは確かに山奥の村で出会った二人だった。

「白狐様の御命により、こちらをお持ちしました。」

「白狐様のおつかいで、これを持ってきましたよ!」

 それを受け取ると鍛冶師が目を輝かせた。

「こいつは魂鋼たまはがねじゃないか!それも、かなりの上物だ。これなら鳥鳴さんとやらの武具の補修に十分使える! 助かったぜ、おチビさんたち。」

「チビではのうて心狐でございます。」

「チビじゃなくて狸晏だってばさぁ!」

 不満そうな二人を尻目に鍛冶師は作業に向かった。

「さあ古武士一の名工の腕の見せ所だっ! 」

 鍛冶師は一昼夜を掛けて鳥鳴の武具を鍛え直した。竜斗と緋女の修行も順調に進んでいた。だが流花の方はと言えば鳥鳴も悩んでいるのだった。

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