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花竜の彷徨  作者: 凪沙 一人
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第二十一話 脱獄

「何をやっている!? 」

 兵士たちを振り払い月影の牢を牢番が鍵を開けようとしていた。

「か、体が勝手に……誰か止めてくれ! 」

 その時だった。月の明かりで伸びた月影の影と繋がっていた牢番の影を漆黒の刀が断ち切ったのは。その瞬間、牢内の月影の腕が流血した。

「な、なんで、あんさんが此処に居んのや!? 」

 月影の視線の先には漆黒の外套を纏い鍔広の帽子を深々と被った細身で長身の男が立っていた。

「俺も来たくて来た訳じゃねぇんだけどな。鳥鳴大先生に言われりゃ仕方ねぇ。その傷じゃ満足に戦えねぇだろ? 」

 竜斗の問い掛けに月影はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「面白うないのぉ。ホント面白うない! そやけどな…… そやけど、そう何度も捕まっとる訳にはいかんのや! こん命と引き替えに星都の牢獄に風穴開けさせてもらうで! 影骸響震シャドウ・クエイク!! 」

 月影の影が自身を包み込む。竜斗は本能的に危険を察知した。

「ちっ……武技解放!幽玄実抗ゴースト・リベリオン!! 」

 竜斗の刀から放たれた幽玄が盾となって月影を包み込んだ影が爆裂を防いだ。しかし竜斗と反対側の壁は月影が言った通り大きな穴が空いていた。

「黒ずくめ…… 竜斗、でしたね。次に会った時こそは倒させていただきます! 」

 それだけ言うと羅雪は朱羅と夜射丸を連れて月影の開けた穴から姿を消した。

「くそ、逃がすか! 」

「待ってください。」

 羅雪たちの後を追おうとした竜斗を水明が呼び止めた。

「あん? なんで見逃すんだ? 」

 竜斗としては羅雪たちを見逃すというのは腑に落ちなかった。

「今は脱獄犯を追うよりも君にとって優先すべき事があるんじゃないのかい? 」

「ちっ、そういう事か! じゃぁなっ! 」

 言うが早いか竜斗は即座に姿を消した。

「なかなかに、あの移動能力も反則だよねぇ。さてと……壁の穴が予想より少し大きいか。それに武具の奪回よりも脱出を優先したという事は、彼女らにも別の武具があるという事か。僕の星術は少し先まで分かるけど曖昧だし、鳥鳴さんの仙術じゃ精度は僕より高いけど直近の事しか分からないし……なかなか都合よくはいかないものですよね……陛下。」

 水明が声を掛けると物陰から星帝が姿を現した。

「なんだ、気づいてたのか。しっかし、派手に大穴空けられたな! 」

 星帝は月影の空けた大穴を眺め呆れたように言った。

「ここの牢は暫く使えませんね。」

「ああ。宰相、財相、法相の愚痴が聞こえてくるようだぜ。でもまあ俺様の目の前で、これだけ派手な脱獄劇を演じたんだ。外圧は掛けさせて貰うさ。」

 それを聞いて水明は苦笑した。

「なんだ水明。何か可笑しな事、言ったか? 」

「いえ、以前の陛下ならカチコミだと叫んでいそうだなと思いまして。」

「お前、俺をバカにしてんだろ? 」

 水明は苦笑したまま頭を振って否定する。

「いえいえ、陛下をバカにするなどと滅相もない。誉めているんですよ。」

 星帝は水明の態度に不服そうに口を開いた。

「お前、それがバカにしてるってんだ! ……でも、俺が星帝になっても、お前が昔のまま接してくれてるのは正直嬉しいんだ。ありがとよ。」

「それでは僕は沙久楽さくらの郷へ帰らせてもらいます。」

「ああ。華京とは国境の村だ。最悪、最前線になるかもしれねぇ。宜しく頼むぜ。」

「出来れば、その事態は避けて欲しいものです。あの牧歌的な郷が僕は好きなので。」

 水明は星帝に一礼をすると沙久楽の郷へと帰って行った。

「最前線か……沙久楽は水明が星務官でなけりゃ今頃は戦場どころか陥落してるだろうぜ。陽花はるかもそう思うだろ? 」

 星帝が警護に来ていた水明の姉で執星官である陽花に声を掛けると、陽花は少し顔を曇らせた。

「以前に華京が侵攻してきた時は武技を解放出来る者が六名は居ましたが、今では水明と雷庵らいあん殿の二人だけ。些か心許なく存じます。」

 陽花が危惧するのも無理はないのだが、星帝としては簡単に気休めを言うわけにもいかない。

「星都は華京みてぇに武技解放出来る奴を積極的に登用してる訳じゃねぇからな。正直、国中の武技解放者を全て確認してる訳じゃねぇ。前回の六人だって半分は国が把握してない連中だ。特に『白桜姫はくおうき』と『黒竜』の存在はでかかった。さっき『黒竜』の黒ずくめは居たみたいだが、『白桜姫』の娘は何処で何してんだ? 」

 いかに星帝の質問とはいえ、陽花は首を横に振るしかなかった。

「弟……水明の方では何か知っているようなのですが、何も話してくれません。」

「なら仕方ねぇさ。一応、沙久楽にゃ俺の方で頼りになる奴を一人、送っとく。」

「ありがとうございます。」

「なぁに、礼には及ばねぇ。星都を護るのは星帝としての俺の役目だからな! 」

 こうして陽花は執星官としての職務に戻り、星帝は謁見の間に引き替えの男を呼び出した。

「お久しゅうございます、陛下。」

 男は片膝を着き平伏した。

「そう畏まるなって。茜吏せんり、お前に頼みがある。」

「陛下の御命とあらば、何なりとお申し付けください。」

「水明と協力して沙久楽の郷を護ってくれねぇか? 」

 星帝の言葉に茜吏は眉を顰めていた。

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