“調律”
純白の剣を残して誰も居なくなった“この世界”。
そこに、“扉”からひとりの女が現れました。
彼女の首にひっかけられているのは、ヘッドホン。
目を引くのは、ポニーテールにした金色の髪。
金色を宙になびかせながら、彼女は歩きます。
彼女は、“物語”を“調律”していく存在。
【調律師】なのでした。
「
ぅオイちょっと待てや!!!!
え?なに?なに今の地の文!?
なんでアタシの意識と乖離してんの!?
ってか色々バラしすぎじゃない?
いいの?いいのコレ???
」
彼女はある場所を目指し歩きます。
“物語”の終着点である、隣国のお城です。
それは、この“世界”にも“調律”を施すため。
「
言ってることは正しいけども……
イチイチ解説されるとこっ恥ずかしいわね。
そういう絵本的“世界”なのは理解したけど。
」
彼女は朽ちた城に入ります。
風化した血が染みついた謁見の間。
その真ん中に、彼女の目当ての者は在りました。
「
終いにゃすべての登場人物を啜った【純白の剣】。
これ以上“この物語”の主人公たる存在も居ない。
今のは誤字ではないってことよ。
さて、話じゃあ「呆気なく抜けた」っていうけど、
どうかな……。
」
彼女は剣の柄を握ります。
彼女と登場人物との接触――“調律”のはじまりです。
しかし【純白の剣】には、語らう口も利く耳もついていないのでした。
問答無用で繰り出される怨念があふれ出し――――――
いや、やめましょう。コレではどうしようもない。
「
ッはぁ!ビックリしたぁ!!
まさか攻撃してくるなんて……
まったく、ちゃんとしてほしいわ……。
そういうドッキリほんと要らないから!
」
驚いて離してしまった手を、今一度【純白の剣】の柄へ伸ばし、握ります。
もうなにも起こりません。呆気なく剣は抜けました。
「
ん、ちょっと軽いかな……?
アタシでも振り回せ……はしないか。
アタシの役割じゃないしね。
いい?手当たり次第に怨念撒き散らしちゃダメよ?
……これからお誂え向きの相手の所に
連れてってあげるから。
」
それは不変のまま、
振るわれる世界を変遷していきました。
そして、“この物語の世界”からは、
誰も居なくなったのでした。