表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不変と変遷  作者: 運命を定める者
1/4

彩りの記憶

「剣」


それは他者を殺め無力化することを目的にした道具

斯様なものに宿る記憶が血に塗れぬことなどあり得ない


もしも穢れ無き剣が在るならば

それは振るわれたことの無い剣


振るわれぬ剣には何も無い

理由も 意義も 記憶さえ


しかし確かに其処に在る

その辺境の村の広場には、一本の剣が刺さっていました。

雨ざらしになってもサビひとつ付かない、純白の剣です。

村人たちは、言い伝えを守り、剣に触れようとはしませんでした。

その言い伝えとは、次のようなものでした。

「その剣は強大な力を秘めており、引き抜こうものなら何が起こるかわからない」

そう語られるようになった経緯は、漠然としていて掴み所がありません。

なぜこの剣があるのか、村の誰も知りませんでした。

しかしそれでも、村人たちはこの剣を大切に守っていました。

言い伝えと共に、剣を守ることも受け継いできたのです。

純白の剣は、引き抜かれることなく、村は、おだやかな時間を重ねていきました。


ある日、旅人が村を訪れました。

彼は、各地の伝承やおとぎ話などを調べあげ、まとめることを生業とする者でした。

村人たちは、彼に嬉々として広場の剣の話をします。

旅人は、この村で得た見聞をまとめると、村人たちにお手本のような笑顔とお礼を返して去っていきました。

帰国した旅人は、王様に隣国の見聞を報告します。

川や山といった地形の情報、どこにどのような村があるか、城下町の様子、王城の守りはいかほどか……。

彼の心は鈍く痛みます。

報告が終わると、旅人は王様から金貨がぎっしり詰まった袋を受け取りました。

そうして王様は会議室へ向かいます。部屋には将軍が待っていました。

旅人の姿は、会議室にはありませんでした。


旅人が村を訪れたその数ヶ月後。

村は炎と血で赤く染まりました。

大国である隣国が侵攻してきたのです。

生き残った村人のひとりが、広場の剣に手を伸ばします。

「強大な力」による復讐と、「何が起こるかわからな」くとも、もうどうでもいいという諦観を抱えて……。

真っ赤になった広場の真ん中で、それでも剣は純白の剣で在りました。

復讐者が力を込めると、呆気なく剣は抜けました。

そして、剣が刺さっていた穴から、かすかな邪気が流れ出て、一匹の魔物となりました。

復讐者は魔物に剣を振り下ろします。

剣は魔物に深々と突き刺さり、魔物は萎びて動かなくなりました。

「なるほど、言い伝え通りの力はあるらしい」

魔物すら屠る剣です。人間に使えばひとたまりもないでしょう。

復讐者はほくそ笑みます。「この剣で、俺は侵略者に復讐してやる」

剣を手にした復讐者を見て、隣国の兵士たちが集まってきます。

復讐者が剣を横薙ぎに一振りすると、血色の閃光が迸り、兵士たちは跡形もなく消し飛んでしまいました。

あまりに凄まじい力に、復讐者は呆然と余韻に浸ります。


それを打ち切ったのは、背後で蠢く気配。

魔物は生きていて、今にも復讐者に襲い掛かろうとしていました。

復讐者は再び剣を魔物に突き立てます。魔物は萎びて動かなくなりました。

しかし復讐者が剣を引き抜くと、暫くして魔物は元に戻って動き始めたのです。

剣を突き立て、魔物が萎びる。

剣を引き抜き、魔物が動く。

復讐者は一昼夜これを続け、気付きます。

片手で振るえていた剣が、いつの間にか両手でも重く感じるようになっていることに。


この剣が、血を啜っていることに。

そして、この魔物が不死身らしいことも。


復讐者は思い至ります。

血色の閃光は、啜った血を吐き出したものではないかと。

「だとすれば……」今の復讐者には、不死身の魔物が、無限の血を湛えた袋に見えました。

復讐者は、笑いが止まりません。

「強大な力」を手にした復讐者は歩き始め、魔物はその後ろをずるずるとついていきます。


純白の剣は鮮血で彩られました。

しかし、その彩りはすぐに吸い込まれて、白を赤に染めるには、足りませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ