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第4話 セシル

疲れたぁ


 「おいおい、あの人に文句言っちゃやばいって…」


 セシルが声を上げたとき、俺のすぐ横に立ってた男がつぶやいた。

 ちょうどいい。ちょっとこいつに聞いてみるか。


 「あのすみません。実は最近この街に来た者でして…あの肥満の方はどちらなんですか?」


 「しぃーー!肥満とか言ったのがあの人にバレちゃいけねぇからもう少し声を下げてくれよ。」


 ふむ。どうやら男の反応を見る限り、本当に偉い人っぽいな。


 「すいません。で、あの人は誰なんですか?」


 「あの人はな、ここら辺の商人たちのまとめ役のヴァレスさんっていって、この市場で一番偉い人みたいなもんなんだよ。物を売るにも、あの人の組合に場所を借りてからじゃないといけねぇんだ。つまり、俺ら市場で稼いで食ってる奴らからしたらあの人に嫌われるってことは飯食っていけなくなるってことなんだよ。」


 「なるほど…」


 そうだったのか。どこぞの貴族かなんかだと思ったけど、商人のお偉いさんだったのね。

 でもって、この男の反応や、周りの人たちの反応を見るに、ヴァレスがどんな横暴なことしても楯突けないと…。


 「これって、ギルドが何か介入してくれたりしないんですか?」


 「ギルドは個人契約間の問題には口出せねぇんだよ。俺たちゃ、ここで店開くときにあの人と契約書を交わしてるからギルドに頼りたくても頼れねぇんだ。あっここでの話は内緒で頼むぜ?あの人の気に障ったら俺の首が飛んじまうかもしれねぇからな…」


 「わかってますよ。誰にも言いませんって」


 てことはこの状況であのセシルに味方する人はいないわけか。

 まぁ俺も少し成り行きを見守ろう。

 

 「なんだぁ?テメェはこのガキの知り合いか?」


 ヴァレスがセシルに対して高圧的に接してくる。

 けれど、セシルは臆することなく言葉を返す。


 「そうです。ですからその子に暴力を振るうのはやめてください。その子が何かあなたに何かしてしまったなら私が弁償しますから。」


 「はぁぁぁぁ。あのなぁ、テメェあんまり物事しらねぇみてぇだから教えといてやるよ。親のいねぇ孤児はな。教会に入るか1人で生きていくしかねぇんだ。教会に行った奴らはギルドの身分証明書を発行してもらえるから人として扱われるが、こいつらは保証人がいねぇから法律上”人”としては扱われてねぇんだよ。テメェがこの町でこいつらと仲良くなったかどうかはしらねぇが、こいつの起こしたトラブルの責任はこいつ自身が解決しねぇとなんねぇ。しかもこいつらは人じゃねぇから何してもいいんだよ。」


 ヴァレスが勝ち誇ったようにセシルを見る。

 なるほどね。ギルドの身分証明書って人権そのものみたいな物なのか。

 あっぶねー。

 俺最初に知り合った人があの野菜屋のおっさんでよかったわ。


 「いいえ違います。彼らは人です。」


 セシルがヴァレスから目を離さずに言葉を発する。


 「わからねぇ頭の悪いガキだなぁ。だからこいつらはギルドの身分証明書を持ってな…」


 「私が保証人となって今朝、彼らにギルドの身分証明書を発行しました。なので彼らは今、私の身内に当たります。そして彼らの起こしたトラブルの責任は、この街にいる間、私に発生します。だから彼らに対して暴力を振るうのは規則違反です。」


 「なっ!」


 周りもざわめきだす。

 俺も驚いた。話を聞く限りだと彼女が保証人になるメリットはどこにもないように思える。

 

 「テメェ正気か。なんのメリットがあって…いや、待てよ。その服装…確かこの辺りにあのシスターが来てるって噂が…」


 「申し遅れました。私がヴィーナス教のシスター、セシル=エスメルです。」


 セシルが優雅に一礼する。

 はぁぁ、見てて惚れ惚れする〜

 ちょっとした動作もきちんとしていてそれが童顔と相まってギャップ萌えするぅ。

 はっ!いけないいけない…。

 ヴァレスとセシルの成り行きをしっかり見なくては。


 「お、お前が噂の…」


 ヴァレスがほんの少したじろいだ。

 その隙を見逃さずセシルが話を続ける。


 「見たところ、そちらの子が私の作った炊き出しのスープを溢してしまったときにお召し物が汚れてしまわれたんですね。私が弁償いたします。できればギルドの方に来ていただけると嬉しいのですが…」


 「ギ、ギルドにだと……ぐっ。構わん!所詮何着もある服のうちの一つだ。今回だけ見逃してやる。クソがッ」


 ヴァレスという男は吐き捨てるようにいうとその場から離れていった。


 「すげぇや嬢ちゃん!あのヴァレスさんを言い負かすなんて!見ててスカッとしたぜ」


 ヴァレスが完全にその場からいなくなると成り行きを見守ってた人たちがワッと騒ぎ出した。

 各々セシルに賛辞の言葉を送っている。


 「いえ、当たり前のことをしただけです。私はただ、女神ヴィーナス様の教えに従っただけで…」


 セシルは謙遜するが、周りはより一層騒がしくなってしまった。

 うーむ。よほどここの人たちはヴァレスに鬱憤が溜まってたんだな。

 あれ?にしてもなんでヴァレスはギルドに行かなかったんだ?

 俺は近くにいた女性に聞いてみた。すると


 「あぁ、ヴァレスさんは裏取引やってるって噂があるからね。何か後ろめたいことがあって、ギルドに行けなかったんでしょ。」


 とのことだった。なるほどねぇ〜。

 少しして騒ぎが落ち着いた頃、俺は炊き出しの後片付けをセシルに近づいた。

 もちろん旅の経験とかを聞くためだよ?口説こうとかそういうのじゃないから!


 「あの!ちょっと話があるんだけどいいかな」


 「あっえっと…あなたは?」


 「あぁごめん。俺の名前はヒロ。実はこれから旅をしようと思ってるんだけど、エスメルさんが旅を結構してるって聞いたからちょっと話を聞きたくて。」


 「あっそうなんですね!わかりました。もう少ししたら片付けも終わりますから、少し待っててください。」


 「あっそれなら俺も手伝おうか?」


 「あっいえ、もう終わりますから大丈夫ですよ。」


 うーん…近くで見るともっと可愛い。

 彼女の髪は白髪だ。銀色と呼ばなくもないが、銀ほど色がついていない。

 そのショートカットの髪がふわっと彼女が動く度になびいてすごく絵になる。

 肌の色も白いし、全体的に白い子だ。

 清楚って感じだな。

 

 「はぁー…好き…」


 「えっ?」


 「あっ…いや、なんでもない。ちょっとねあはは」


 やっべー。無意識に声に出てた。やばいやばい。この子を見れば見るほど自分のものにしたくなる。

 自分でもヤバいってのは分かってるんだけど、18年も童貞だった上に女子と話したことのない俺が、いきなり自分のドストライクの美少女とお話しするって状況なんだぜ?

 そりゃ色々感情がおかしくもなるよなぁ?

 しばらくすると片付けが終わったのか、彼女がこちらに小走りで戻ってきた。


 「お待たせしました。それじゃあどこか座ってお話しできるところで話しましょうか」


 そんなこんなで俺たちはギルドに隣接してる食堂に向かっていった。


   食堂に着いた俺とセシルは適当な食べ物を注文してお互いの自己紹介なんかをした。


 セシル=エスメル。16歳。出身国はトパーズ共和国。

 トパーズ共和国は今俺たちのいる東海大陸の南にある国だ。

 父と母は彼女が幼い頃に他界。教会に拾われシスターとなったそうだ。

 信仰しているのはヴィーナス教。ヴィーナス教っていうのはこの世界に沢山ある宗教の一つで地球でいうキリスト教に近いかもしれない。でも細部はかなり違うし、聖職者にも結婚が許されている。

 彼女は教会でシスターを続けていたらしいのだが、12歳の時教会を出て1人で旅に出たらしい。

 理由は経済的なもの。彼女の住んでいた地域の教会が資金不足で養える子の数に限界が出てきていたため、教会への負担を減らすために自立したそうで…。

 それ以降はいろんな地域を巡りながらヴィーナス様の教えを広めつつ、その地域の貧しい子供達に自分の名義で身分証明書を発行しており、毎月彼らに少しだがお金をあげているらしい。

 一見すると彼女に利益なんてなさそうなものだが、子供たちは身分証明書をもらうことでギルドの依頼をこなすことができ、その成功報酬の一部を彼女がもらうことで、そのお金を使ってまた新しい子たちに身分証明書を発行したり色々しているらしい。

 そして彼らが成人に達したら保証人として彼女がお金を寄付することもなくなり、また、彼らも彼女にお金を払う必要がなくなるから彼らは晴れて1人で生きていくというわけだ。

 うん。なかなか合理的な人助けだ。現実的で好感が持てる。

 そしてそれを12歳で始めたというのが驚愕だ。小学6年生の子がこれを4年間続けてきたというのが彼女が有名人になった理由かな?


 「にしてもすごいね。エスメルさんは…俺が12歳の時なんてずっと遊んでたのに」


 「いえ、そんな…大したことじゃありませんよ。私なんて…それよりヒロさんのお話の方がすごくて。あっそれと私のことはセシルで構いません。少しの間ですが仲良くしていただけると嬉しいです。」


 「あっそう?それなら俺と話す時もっと砕けた感じに話してくれていいよ。じゃあセシル、こちらもよろしく。」


 ちなみに俺はセシルに設定じゃない本当の身の上を話した。

 ん?なんでそんな危険なことしたのかって?

 馬鹿野郎!こんな可愛くて優しくて、思いやりのある子が

俺の秘密を言いふらしたりするわけないだろ!

 すみません。本当は好きな子に嘘をつきたくなかっただけです。

 興味を持って欲しかったんです。許してください。なんでも(ry


 「あっそうだ。セシルってあの子達に炊き出しやってたよね?」


 「はい。あの子たちには無償で、一般の方には少しだけ販売もしてますよ。」


 「食材に困ってたりしない?」


 「あー実は少し困ってまして…共和国と違ってここの食材は少しお値段が高いので…」


 「だったらさ。ちょうど見てもらいたいものがあって…」


ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーー

ーー


 「ほ、ほんとにこれ全部もらってもいいんですか?」


 セシルは俺の部屋にある大量の野菜を見ながら確認をしてくる。


 「ああ、もちろん。俺だけだとこんなに処理できないしね。だからといって処分しちゃうのも勿体無いし、セシルがうまく使えるなら使って欲しいんだ。」


 ふふふ、好きな子の困りごとを解決。これはイメージアップでは?

 少なくともこれで俺のことを忘れられることはないだろう。


 「本当にありがとうございます。ヒロさんと会えてよかったです。」


 そう言ってセシルが俺の側に寄ってくる。

 ち、近い近い!あっいい匂いする……じゃなくて!

 彼女はいたって普通の顔でいる。多分彼女にとってこれは普通の距離感なんだろうな。

 俺からしたらたまったもんじゃない。

 手汗やばいし、息子が元気になってしまったらどうしてくれるんだ!

 そんな苦悩を知るはずのないセシルは俺の手を握って提案してくる。


 「でしたら!明日一緒に炊き出しのお手伝いをお願いできませんか?この食材はヒロさんのものですし、ヒロさんにも食べてもらいたいです。そのあと旅に必要なものを一緒に探しに行けますし…」


 あーいけませんお客様!そのように手を握っては!あーー息子がぁ!

 あー肌すべすべだぁ。なにこれ柔らかい…

 女の子ってこんなに柔らかいの…?

 というか彼女と一日中一緒に過ごせるなら俺が断るわけないじゃん!


 「手伝う手伝う!手伝わせてくれ!」


 「はい♪じゃあ明日からよろしくお願いします」


 屈託のない笑みで笑うその顔を見て、俺はこの子が旅についてきてくれたらいいのにってそんなことを思ったのだった。

もうちょっとセシルの会話の量を次回から増やしていきます♪

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