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ショートショート2月~

ぶち壊す人

作者: たかさば

ちょっと閲覧注意

女性は、非常に短気な人だった。




気長に物事を見つめるという事を、しない人であった。


完成させる事よりも、時間を守ることを重要視する人であった。


無理だと思ったら、すぐに気持ちを切り替える人であった。




できないことに対し、早々に見切りをつけることを得意としていた。




いつも時間に追われていて、いつも時間に余裕を持たねば安心できないようだった。




十時の待ち合わせがあれば、九時に現場に到着して相手を待った。


締め切り日三日前には作業を完了することを決めていた。


やらねばならないことが多すぎて、自分のやりたいことを知る時間を得ることができなかった。


時間に追われる女性は、常に先の事を考えて行動をしていた。


先の事を考えずにはいられなかったようだ。




まだ起きていないことを心配し、これから起きるかもしれない出来事を憂う。


常に悪い予想ばかりして、常に最悪の事態を想定して、常に一人で焦っていた。




その焦りを、不安を、一人で持て余していたのだろう。




追いつめられると、女性はいつも、破壊行動に走っていた。




焼き魚を生焼けのままひっくり返そうとして身が崩れてしまった時。


菜箸で魚を激しく突き刺してぼろぼろにした後、アミごとゴミ箱に捨てた。




手提げ袋を縫っていてサイズ間違いが判明した時。


作りかけの袋をビリビリに引き裂いた後、まち針がついたままゴミ箱に捨てた。




同居する家族が近々来客があるから片づけをしろと言った時。


新品の服も古い服も、選別することなくタンスごとゴミ業者に回収してもらった。




どうせ時間までにできないのだから、できないものを完成させる必要はないと思っていたようだ。


どうせ時間までにできないのだから、ゼロに戻せばいいと思っていたようだ。


どうせ時間までにできないのだから、無駄な時間を取らせた憎い存在を消し去りたいと思っていたようだ。




自分の行動を、全てぶち壊して収束させることで満足していたのだ。




女性は、コツコツと何かをする姿を見るのが、非常に気に入らないようだった。


物事は、さっとやりたいことを決めて、その日のうちに完了する、それが一番だと思っていたようだった。


迷うくらいなら、すべてやめてしまえばいい、そう思っていたようだった。




ぶち壊すことが決まっているのに、何かをすることが、ばかばかしかったのだ。




女性は、次第に破壊行動を押さえることができなくなっていった。


女性自身の行動のみならず、周りの行動に対しても、ぶち壊しを望むようになったのだ。




女性の家族が、破壊行動に振り回されるようになった。




いつも完成を待たずに、女性が破壊した。


いつも努力が実る前に、女性が破壊した。


いつも未来を願えないよう、女性が破壊した。




女性が徹底的に破壊した結果、家族はバラバラになった。




「どうせこうなると思ってたんだ!」




ぶち壊したいと願った女性は、孤独を予想していたのだ。


ぶち壊したいと願っていた女性は、孤独を甘んじて受け入れたのだ。




やがて、女性は自分の身を破壊し始めるようになった。




頭が痛くてたまらないといっては、木づちで頭をぼこぼこと殴る。


足が痛くてかなわんといっては、杖で足をぼこぼこと叩く。


目が悪くなり不便で仕方がないといって、目玉を殴りつけた。




女性が片目の視力を無くしたころ、毎日誰かが訪れるようになった。




「あーあ、つまらない人生だった。」


「あーあ、生きていても面白くない。」


「あーあ、あんたもこうなるよ。」


「あーあ、無駄な人生なんか生きるんじゃなかった。」




毎日、誰かが、女性の世話をする。




「もっとうまいもんを食わせろ!」


「もっと優しく肩を揉め!」


「もっと気の利いたことが言えないのか!」


「もっと私を讃えろ!」




毎日、誰かが、女性の、世話を、する。




「あんたなんか産むんじゃなかった。」


「あんたなんか失敗作だ。」


「あんたなんか幸せになれるわけない。」


「あんたなんか価値がない。」




母親の、世話をする、誰か。




「ふん、何もできない役立たずが!」




女性はオムツを片付ける誰かに向かって暴言を吐いた。




「手際が悪いねえ、無駄が多い!」




女性は床を拭き清める誰かに向かって暴言を吐いた。




「ぐずぐずするな!」




女性はネット注文をしている誰かに向かって暴言を吐いた。




女性は、ずいぶん、苛立っていた。


女性は、ずいぶん、我慢をしていた。






「本当に、腹が立つ。」






衝動を、抑えきれなくなった・・・女性は。






全てを、ぶち壊したくて、たまらない。


全てを、ぶち壊したくて、たまらない。


全てを、ぶち壊したくて、たまらない。








「本当に、腹が立つ・・・ね!!!」








ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・




―――ああ、全てをぶち壊すのは、こんなにも気持ちがいい。




ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・




―――ああ、全てがぶち壊されてゆく、この、満足感。




ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・




―――ああ、ぶち壊して、本当に、良かった。




ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・


ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・




ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・






ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・








ざしゅ、ざくっ、ぶしゅ、ぶしゃっ・・・












目を見開いたままの女性が、滴る赤の中で、息絶えた。














目を、開けていた・・・女性は、滴る紅の中で、ゆっくりと、目を、閉じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ〜あ、やっちまった。 キレやすい人は怖いですね〜。 何するかわからないですから。当たり前のようにぶち壊してるならねー。まぁ、そのうち。って感じもしますけど
[良い点] わぁい。これはひどい。 [気になる点] こわいなー。こういう人。実際いるんだろうなー。 [一言] ざっくぶしゅ。擬音の使い方よ。うめえ
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