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「ウサギって自分のURを共有しただけで他になにも共有してないですよね」
「そういえばそうだ。俺の最後の部屋の「記憶の欠片」はN以外持ってると言ってたな」
「話しが流れてしまってどのタイミングで言おうか迷っていたんです。気付いて戻してくれて良かったです。ありがとうございます。では共有しますね」
いや…これはあわよくばそのまま進もうとしていた
なにか都合の悪いことでもあるのだろうか
「犬のURですが、少し特殊で音声のみです」
大きな声で「ふざけるな!」と聞こえた直後銃声が響く
「…私と針鼠のURを見た後でもこれだけで犬が「魔女」だと言えますか」
もしかしてウサギは全員が冷静に判断出来るときを待っていたんじゃ…
ゲームが始まったばかりの混乱した状態でこれを共有していれば犬は間違いなく「魔女」として処刑されていただろう
もしウサギが「魔女」ならそんなことをする必要はない
でも、そう思わせることが狙いなら?
もう…本当に、なにを信じて良いのか…
「俺も思ったんだ。このゲームに参加してない人には「魔女」だと思える。誤解されるようになってる。つまり「魔女」の数は少ないはずだ。いても2人」
「今その話しをすると話しを逸らそうとしているように聞こえてしまいます」
「…あれは威嚇射撃でゲームマスターが撃ったものだ。言葉の直後に撃ったのなら振動で声が揺れるはずだ。だが俺の声ははっきりしてるだろ」
納得の声が次々と聞こえる
「では現時点では誰が「魔女」か分かりませんわね」
「でももうすぐ時間よ!どうするのよ!」
それは今ならなんの問題もない
残り時間は1分
でも次々と投票をしたことを知らせるマークが表示される
「どうしてよ。なにを判断材料にしたのよ」
答える者はない
「一番怪しいと思う人がいないのなら、一番邪魔な人を選択すれば良いんです」
「…偶然じゃなく勝ち残ってきたのね。全員冷血だわ」
…おや?
これは向こうに私の声が聞こえていないな
投票したら声が届かなくなるとは聞いていない
これから気を付けよう
『全員の投票が終了いたしました。結果を発表いたします』
結果は分かり切っている
分かっていないのは本人だけ
―――ねぇ?
『[蝶]900%、[ウサギ]100%。「魔女」は蝶です』
「なんでよ!」
「邪魔だからだろ」
やっぱり全員そういう思考
これまで生き残ってきた人たちと同じ思考ということは、私も生き残れるかな
「いい加減有害だという自覚をお持ちになって下さいませ」
「場を支配してるウサギが危険なのが分からないの?!」
それには同意
でもアンタは敵わないし邪魔だから消えて
じゃあ誰が敵うの?って言われたら…それは分からない
でも少なくとも敵わないどこか邪魔だから
それに大した「記憶の欠片」も集められないじゃない
「あの子が可哀想だなぁ。あの子なら少なくともこんな風には死ななかっただろうになぁ」
「だからいつまでも前のゲームのことをネチネチ言うんじゃないわよ!」
人生にリセットは存在しない
人生は選択の連続
滑稽で笑えてしまう
「どういう…かは分かりませんが、いつまでもネチネチ言いたくなるほど、好きだったんじゃないですかね。その気持ちに1mmも気付けないなんて酷いです」
蝶が熱い、と苦しむ声がヘッドフォンから聞こえる
外すことは出来るけれど、したくなかった
私だって蝶に投票したんだし、最期の生き様だから
「ホントに焼き殺されるんだねぇ」
静寂
「…オークションが始まらないということは誰かがなにかを譲渡されたかランダムで振り分けられたわけですね」
1巡目は概ね誰もが予想した通りだっただろう
死んだただひとりを除いて、ではあるけれど
予想外だったことは、思ったよりも捜査する場所がウサギばかりだったことくらい
これがどんな影響を与えるのか…
「ペンギン、ありがとう。やっぱりボクはキミが好きだよ」
「そう易々と「好き」という言葉を使ってはいざというときに価値が落ちますよ」
「今がいざというときだよ。例えキミが「魔女」でもボクはキミの味方をする。その覚悟があるよ」
誰もが…いや、少なくともスケボーとホルンは私が「魔女」でないことは分かり切っていた
それでもこの言葉を言ったのは「魔女」への挑戦状だろうか
お前に対抗出来るのは自分たちだ――と
―――――
拒否する
同盟を組むことを改めて確認する
受け入れる ←選択
―――――
「では私の部下ですね。言われるまま動くロボットのような部下ではなく、自分で考えて動く部下です。上司の責任は上司の責任。部下の責任は上司の責任。好きに暴れてかまいません。責任は私が取りましょう」
「かっこいいねぇ」
さぁ「魔女」ここからが本当の戦いの幕開けだ