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忘れられたジニア  作者: ゆうま
29/30

3-9

「第4回戦、モニタで見ていたよ」


「そうですか」


「それだけ?」


「はい。取り繕っても事実は変わりません」


笑って変わっていないと言ってくれるだろう


「そうだね」


期待とは裏腹に、自分は関係ないですと言わんばかりに珈琲を飲んだ


「第5回戦以降の勝利おめでとう。タイトルはなんだったの?」


「綾辻?今日予定あるって言ってなかったか?」


「まさか彼女と会う約束…?!」


「ノブまさか俺を置いてリア充に!?」


騒がしい


「まるで自分は関係ないですって言わんばかりに無表情で珈琲を飲むこの子が僕の彼女だと思う?」


「もっちーにピッタリじゃん」


「キミもなにか言ってよ」


そうか、名前を呼ばないのは私が今どんな名前なのか分からないからか

ということは思わず名前を呼んだ最初は割と本気で驚いていたのか


「こんにちは、金井茉莉です。あやちゃんには交際を申し込みに来ました」


「あやちゃんって…また綽名が増えたよ」


「気にするとこそこ?!」


戸羽さんの友達にしてはうるさい

でもあやちゃんの友達ならなんだか納得


「ああ…そっか。金井さん、からかわないで」


「本気です。その名前を持った時点で貴方は私に呪われたんです」


「どういう意味かな」


「そのままです、綾辻信元」


お友達が耳に顔を寄せる


「可愛いけど、呪いとか大丈夫かよ」


「大丈夫だよ。なんとなく意味は分かる」


「なんかの隠語か?」


「そうだよ。なにのかは教えられないけど」


私に向き直る


「了承しよう。なんて呼べば良いかな」


「茉莉」


「じゃあそうしよう。ということで僕は今みんなが嫌いなリア充になった。感想はあるかな」


「爆発しろ!」


「裏切者ー!」


大きな声で言い放つと去って行く


「馬鹿だなぁ、もっちーはなにも変わらないのに。放っておけないから行くよ。あいくんはもっちーの話し聞いてあげてよ」


「ああ、頼んだ」


「ごめんね、金井さん。良かったらまた」


「はい」


友達を見送ると残ったひとりの友達は戸羽さんの隣にどかりと座る


―――――

タイトルの確認をする

戸羽の友人と話す ←選択

―――――


「偶然呼び止めるところを見聞きした」


「旧姓だよ。珍しいことじゃない」


「じゃあ聞くが、お前は何故「金井さん」の名前を呼ばない」


「勘が鋭いのは良いことですが、それが不幸を引き寄せる場合もあります。これ以上踏み込まない方が身のためです」


「どういう意味だ」


睨まれても困る


「藍郷くんだから大丈夫だと思うから本当のことを話すよ」


こういう人だから危ない

だけど私の人生には関わりのない人だし、戸羽さんに任せよう


「僕は戸羽一家殺人事件の生き残り。メディアの目を避けるために新しい姓名を手に入れた。ただそれだけだよ。言葉にすれば…ただそれだけ」


「そうか。辛いことを聞いて悪い」


「いいや、別に良いんだ。例え目の前に犯人がいようと僕は犯人を殴ろうとすら思わないからね」


「傷害罪で起訴でもされてこれ以上人生滅茶苦茶にされてたまるかってことか?」


へぇ、なんでって言わないどころか理由まで言っちゃうんだ


「そうだよ。復讐に意味はない。蘇るならまだしもって言う人もいるけど、僕は蘇るとしてもしないよ」


「こんなヤツで本当に良いのか」


「だって――今更蘇ってもらっても困るだけだからね。ですね。人の話しは最後まで聞いて下さい」


「お前ら…付き合うの止めとけ」


ある意味お似合いだ、とでも言われるのかと思ったのに


「破滅するぞ」


「良いじゃないですか。ねぇあやちゃん、私ずっとずっと、あやちゃんに殺してほしかった。でも出来なくなっちゃった。戸羽さんがあやちゃんになってくれるなら大歓迎だよ。私と一緒に破滅しよう」


「破滅はしなくない。僕は案外今の暮らしを気に入っているんだ。こうなることを分かってこの名前にしたなら運営は最低だね。残念だけど僕は金井さんを殺すつもりはないよ」


「お前ら頭おかしいのか。破滅とか殺すとかそんなこと、そんな無表情で淡々と話すなんて」


「心外です。他者にはそう見えるかもしれませんが、私は精一杯の笑顔です」


「え…が、お…?」


どうして怯えたような顔をするの


「綾辻、もう俺たちに近づくな」


「付き合わなくても?」


「ああ、そうだ」


「それはショックだよ。僕は今の生活を案外気に入っているのに」


「俺だってこんなこと言いたくて言ってんじゃない!だけどお前…!」


言葉を飲み込んで顔を逸らす


「分かっているよ。ごめんね、嫌なを役させることになる」


「早く行け」


その声は震えていて、瞳からは涙が溢れた


この両者の気持ちを私は一生分かることはないのだろう

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