3-5
「そっか、分かったよ。ウサギは自分の手で人を殺してない。それで良いんだね?」
多分勘違いしてると思う
ボクらはキミが実際に人を殺したかどうかを知らない
だけど考えてよ
このゲームには「魔女」が必ずいるという前提
投票によってボクら3人が処刑されることは決定した
参加者はウサギひとり
実際に人を殺したか殺してないかは関係ない
ゲームが終わる前に「生き残った自分が魔女」だと証明出来なければ、ゲームにはきっと負ける
ボクらは根本から間違えてたんだ
勝つのは「処刑されていない魔女」だけ
「ウサギ、正直に答えて。ウサギは自分の手で人を殺した?殺してない?」
お願い、正直に答えて
生き残れるのはキミだけなんだ
「殺してないって言っているじゃないですか」
ここまで言っても気付かないなんて
勝利を確信して思考が停止してるのかなぁ
ザンネン
「…分かった。さようなら」
「さようなら」
でも、すぐに
「またね」
ペンギンは地獄がないなんて言ってくれたけど、ボクはあると思うんだ
転生なんて信じてないよ
これは皮肉
さ、これを聞いてキミはどう思う?
「え…?」
ふっつーの反応だなぁ
つまんないの
『「魔女裁判」の決着がつきました』
安堵のため息が聞こえるってことは少しはドキドキしてたのかな
だったらもう少し押せば良かったかなぁ
んー…、多分、ウサギは自分の意見を変えることはなかっただろうなぁ
なんとなく、そんな気がする
あー、息がしにくくなってきた
一思いに殺してくれれば良いのに、残酷な殺し方だよねぇ
そうだ、眠れば良いんだ
「おやすみなさい」
言うべき相手が誰なのか、どこにいるのか
そんなものは分からない
ボクだって初めは愛されていたはずなんだ
使用人からだって、親からだって
高見を目指すためとか言って父さんがボクら家族を捨てたときからかな
捨てられるくらいにしか愛されてなかった
そして、不幸なことにボクは父親に良く似てた
母親は一文無しになった
当然使用人を雇う金はない
きっと母さんに売られたんだろう
いくらだったのかな
それで幸せになれるなら良いんだ
これでもボクは幸せだったんだから
幸せを求めて行動して、幸せになれるなら良いんだよ
『…おやすみなさい』
心を痛めてくれるんだ
なぁんだ、つまんないの
***
「ウサギ、正直に答えて。ウサギは自分の手で人を殺した?殺してない?」
お願い、正直に答えて
生き残れるのはキミだけなんだ
「ペンギンの言う通り…第4回戦で殺しました」
ウサギの声は震えてる
気付いてないの?
だったらどうして正直に言ったんだろう
震えてるってことは自慢するためや馬鹿にするためじゃない
なら、どうして
「そっかぁ。やっぱりウサギが「魔女」だったんだねぇ」
「さっき、投票の前に気付いていたんじゃないですか。それなのにどうしてですか」
「だってボクらは絶対に「魔女」じゃないからね」
訳も分からず次に進んで良いか分からない
気付いて
「…根本から間違えていたんですね」
「そうなんだ。失敗したよねぇ」
ボクは帰れないから別に良いんだけど、2人…いや、他の参加者には悪いことしたよね
もっと早く気付いてたら、これまでに死んだ蝶以外の5人とウサギが生き残るはずだった
「もっと早く気付いていれば…」
「仕方がないよ。今回は運営にしてやられたねぇ」
これはボク自身にも言ってること
「はい…」
「勝つのは「処刑されていない魔女」だけ…というわけですわね」
「だからゲームが終わる前に「自分が魔女である」と認めさせようとしたのか」
「せいか~い!ボクらもいつまでこうして話してられるか分からないからねぇ、そろそろヘッドフォンを外して良いよ」
「家庭科で出席日数ギリギリのときに調理実習が急遽入って教科担任に泣きついてたもんな」
「黒歴史をさらりと言いますね」
「はははっ、…ん?だが、お前の実家は紅茶店だろ。店の手伝いでなにをしていたのかは知らないが、平気だったのか」
「小さな火ですから、少々のことは我慢出来ます」
じゃあさっきの反応はなんだったんだろう
怖がってるように思えたけど
「さっきは妙に怖がっているように感じたが」
「…まるで現実で体験したかのように、はっきりと炎が見えた気が――」
まさか「やり直し」?
「するくらい追い詰められていたんですよ。この作戦が上手くいくかという不安、焼け死ぬ3組の人間。感情が分かりにくいと言われますが、ないわけではないので」
「そうか」
犬、もとい先生も違和感を覚えながらもなにも言わない
もう必要のないことだろうと思う
「じゃ、これくらいにしようか」
「そうですわね。良い旅を」
「ああ、じゃあな」
「さようなら。ありがとう」
最後の最後で敬語じゃないなんて、ウサギはホントに…するいなぁ




