お見送り
詩・短編を書いてみました
気に入っていただけるか分かりませんが
一生懸命に書いてみました(^_^)
1000文字以内で書いてあります
物語の断片や本の1ページのようなモノだと思いながら
暇なときにでも読んで
楽しんで頂けると幸いです(^_^)
見送られる者がいれば、見送る者もいる。
それはどちらも辛く苦しいもの…。
モザイクがかかった画面が少しずつ鮮明になるように、
自分の意識がハッキリしてくると、
僕は田舎の風景が漂うバス停の隣にいた。
何故ここにいるのかを考えては見たが、
どうも頭が動かない。
隣にあるバス停は所々が錆びていて、
木造の雨避けは朽ちかけていた。
あの雨避けは、
どれだけの時間が風化させたのだろうか。
気になった僕はそのバス停を覗いた。
すると、そこにはベンチに座る女性がいた。
女性は優しい雰囲気を漂わせ、
正直、
僕の好きなタイプ。
話がしたいなぁ…。
そんな事を思っていると女性と目が合った。
彼女は笑みを浮かべながら、
何も言わずに身体をベンチの端に動かし、
僕の座るスペースを空けてくれた。
「座りなさい」と言っているのだろうか?
僕は彼女に軽く会釈してベンチに座る。
………。
テレビの消音を押したような時間が少し流れ、
それに耐えきれなくなった僕は、
女性を横目でバレないように見た。
すると、
彼女はただ前を向いていた。
さっき見たのとは違う寂しげな顔で。
なんだろう…。
今、彼女と話さないといけない気がする。
しかし、
どうしても声を掛ける事が出来ない。
口を開こうとすると、
その度に心臓を握られるような恐怖が僕を抑えつける。
そうしているうちにバスが到着してしまった。
彼女は立ち上がる。
乗り込もうとする彼女の手を僕は思わず掴んだ。
それはとても冷たい手だった。
僕は首を横に振って必死に想いを伝えた。
行かないでくれ…!
しかし、
彼女は自分の手で僕の手をそっと包み込み優しく微笑む。
その触れたら崩れそうな微笑みは、
僕の口を閉じるのに十分だった。
僕は彼女の手をゆっくりと離して、
バスに乗る彼女を見送った。
窓側の座席から僕を見つめる彼女は僕に向けて口を動かした。
何を言っているかは分からない。
でも、
それは「ありがとう」と言っているように見えた。
動き出し離れていくバス。
僕はそれが見えなくなるまで見続けた。
今の僕にはもう、
それしか出来ない。
すると突然、
黒い布を被されたように視界が消えた。
次に目を覚ますと、
そこは病院のベッドだった。
手には冷たい感触があり、
誰かの手を握っている。
ゆっくりと隣を見ると、
そこには静かに眠る見送った彼女がいた。
そうか…。
僕は全てを思い出した。
その動かぬ手を強く握る。
冷たくなった手を暖めるように…。
あの時に離した後悔を刻み込むように……。