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偽りの仮面

長い長いパーティーは、リコリスにとって苦痛でしかない。公務という予定を正式に入れたにも関わらず、やっぱり、ローズベルの一言で苦痛なパーティーへの参加を余儀なくされた。ここでも、ローズベルとの差を歴然と見せ付けられる。

ローズベルは騎士のエスコート。自分にはエスコート役すらつかない。

誰も彼も本気でリコリスのエスコート役のことなんか頭から吹き飛んでいて、直前になって、全員で慌てていた。


「平気ですわ。」


いつものことだもの。そんな風に小首をかしげて、一人で入室した。悲しくなんてない。たとえ、貴族に笑われても、下を向いたりなんかしない。

20歳の娘にとって、淑女としての扱いを受けないことは、何とも言えない屈辱だけど、自分の価値はそんなところにはない。そう、リコリスは胸を張って今なら言える。

ローズベルのファーストダンスを見守りながら、リコリスはそっとため息を押し殺した。

騎士とのファーストダンス。お似合いの二人の美しいファーストダンス。

リコリスは、パーティーでファーストダンスを踊ったこともなければ、義務的に頼まれる以外のダンスを申し込まれたことがない。

ダンスは嫌いではなかった。でも、すっかり、嫌いなもののひとつになっている。

アルフォンソがちらりとこちらに目線を寄越した気がして、リコリスはすぐに目をそらした。こんな惨めな自分をアルフォンソに見られたくない。


「姫。お飲み物はいかがで?」

「テオドール。」


気を使ったように現れたテオドール。本来なら父のそばに侍っている彼が、リコリスの下に来るのは、父の気遣いではないことを知っている。テオドール自身が退屈して、逃げてきたのだろう。


「もう、パーティーに飽きてしまったの?今日は、王国の至宝の生誕祭よ。あなたも、楽しめばいいのに。」

「一番、楽しくなさそうな、あなたがよく言います。公務も取りやめ、エスコートもなし、ただ座っているだけなんて、あなたには苦痛でしょうに。」


そうね、苦痛だわ。そうは言えなくて、リコリスは、とても楽しいわといって笑う。


「あの子は、年々、美しくなっていくわ。誰もがあの子に恋焦がれる。」

「神々しい女神のような美しさ。愛らしい笑顔が私の心を揺さぶります。」


テオドールの真剣な声音に、リコリスは、顔を上げてテオドールを見た。


「って、多くの人間が言うと思いますが。」


自分はそうではないのだろうか。テオドールは可笑しそうに笑っている。


「私は、姫が好きですよ。」

「ありがとう。慰めでも嬉しいわ。」

「上辺だけではないあなたが、私は一番美しいと思います。国民の多くがあなたを愛している。」


そうだ。それだけが、リコリスの救いだった。いつかその地位は、簡単にローズベルに奪われるとしても、リコリスは今この瞬間だけでも国民に愛されていたかった。誰かに、愛して欲しかった。


「今だけ、この瞬間だけ、国民は私を愛してくれる。贅沢は言わないわ。この瞬間だけでも十分。それだけで、生まれた意味がある。」


困った子だ、そういうようにテオドールは笑って、離れていった。きっと、誰もいなければ、彼の大きな手がリコリスのなんの面白みもないブルネットをかき混ぜるようになでてくれただろう。


「あ、主役がこちらに来ますよ。微笑んで。」

「私は、いつでもちゃんと笑ってるわよ。」

「私には泣いているように見えますがね。上手に出来たら、明日ご褒美をあげましょう。」


子ども扱いは苦手だ。誰も、子供としてリコリスを扱ってくれなかったから。でも、テオドールのそんな冗談だけは笑うことができる。上手に笑える気がしてくる。




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