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オブリガードの嘲笑



「アルフォンソ、ちゃんと、集中してちょうだい。」

「ローズベル殿下、」

「お姉さまには、誰も近づけないように、ちゃんと差配してあるから。」


アルフォンソは、その言葉に安心すると同時に、一人ぼっちのリコリスが心配になる。誰もそばに居ないことにリコリスは、確かに慣れていた。

でも、それは望んで慣れたわけではない。そんな状態に、追い込まれたからだ。

そして、今、自分がその状況に追い込んでいるかと思うと、罪悪感にさいなまれる。


「お姉さまが、素直にアルフォンソのエスコートを受けるとは思ってなかったわ。」

「どうしてですか。」

「だって、お姉さま、ずっと、アルフォンソを拒否していたでしょ?あなたが、何をしたかは知らないけれど。」


器用に踊り、微笑みながら、ローズベルはアルフォンソの過去をほじくり返した。時折、感じるニコライの視線は、無視している。

リコリスに意識されている男なんて、アルフォンソにとっては敵でしかない。先ほどだって、少しの会話で、リコリスはニコライに心を奪われていた。

そんな事実さえ、アルフォンソは許せなかった。

やっと、自分の手の内に、落ちてきたと思ったリコリスが、他の男に心を預けているなんて分かりたくなどない。


「舞踏会って、退屈よね。」

「王妃陛下の主催ですよ。そのようなことをおっしゃってはいけません。」


思わず昔からのくせで、ローズベルを嗜めてしまった。自分は、もうそんな立場にない。

アルフォンソは、口をついて出た言葉を、謝罪で上書きした。


「良いのよ。本当は、お披露目会にするつもりだったんですって。」

「婚約のですか。」

「そう。婚約と、私が次期女王になる予定ですって。でも、ニコライ様が準備しきれなかったから。お姉さまの仕事が、ニコライ様の思っていた量よりも膨大だったのですって。」


ローズベルの言葉の続きを、アルフォンソは、黙って聞いていた。


「お姉さまの代わりなんて、私にできるのかしら。」


ローズベルの唇から不意に漏れた言葉に、アルフォンソは、驚いていた。ローズベルは、いつも、何があっても微笑みを浮かべ、嬉しそうに耳に心地いい言葉を選び、誰かの望む言葉ばかりを口にしていた。

そのローズベルが、誰かのためでもなく、ただ自分の弱さを見せたことに驚いたのだ。

彼女の変な明るさも、優しさも、本来の自分を塗りつぶした仮面であることを、アルフォンソは知っていた。

そんな彼女が、自分本来の弱さを見せたことに、少し安心する。妹のように親近感を抱いていたローズベルの、その不安定さは、近くで見ていたアルフォンソには危なくて見ていられなかったからだ。


「なに、その顔。」

「いえ。あなたが、そんな風に弱音を吐くのを、初めて聞きました。」

「私だって変わったのよ。私にはもう、お姉さまだけじゃない。ニコライ様だっているんだから。」


微笑んでいて。

そんな自身の言葉が、ローズベルを変えたことを、リコリスは知っているだろうか。


「唯一を、見つけられたのですね。」


ニコライに出会って、ローズベルは変わった。道化師であることを、自分に課し続けた少女は、確かに変わった。

ニコライとローズベルの恋を燃え上がらせたのは間違いなく、アルフォンソ自身のためだった。

そこに罪悪感がないと言えば嘘になる。だが、せめて、迷子の少女が道を見つけたのなら。

くるりと回った少女の広がったスカートが、アルフォンソの視界の中でいつまでも揺らめいているように見えた。

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