超肉食聖女様と森の聖女
箸休めに、おにゃの子同士のキャッキャウフフをどうぞ。
チパチャパはぐるりと自分の物だった部屋を見渡した。
色々と旅行鞄へ詰め込んで部屋を出た時、最後にもう一度だけこの場所を見ておこうと思ったのだ。
高く曲線を描く天井も、聖都風で統一された調度品も、備え付けられた小物までが、全部初めてこの部屋に入った時と変わらない様子でそこにある。
そのどれもがあの時と同じ様に、綺麗に整えられてキラキラと輝いていた。
(こー・・・なんとなく、感慨深いモノがあるよねー。)
都合半年くらい、この部屋で過ごした。
初めてココを与えられた時は随分と感動したなぁ、とチパチャパは目を細めて思い返す。
なにせそれまでの7年間、殆どを戦地の野営テントで過ごしていたのだから。
この部屋が、まるで物語のお姫様が暮らす部屋の様に見えた。
夢心地でベッドに飛び込んで、一人くすくす笑ったのは良い思いだ。
他にも、意味もなく銀のティーセットを並べたりして悦に入っていた自分まで思い出しかけて、チパチャパはパタパタと記憶を振り払う。
いけない。おままごとは年齢的にアウトな行為だ。
例えその後に、年齢相応の展開を妄想して遊んでいたとしても。・・・当時の旦那役に関しては黙秘権を行使したい。
実際にその用途で部屋が使われた事は無いのだから、うん、セーフだ。
そうに違いない。
とまぁ、何だかんだで楽しい記憶も詰まったお部屋だった。
(結局、あんまり過ごしてあげられなかったけど、ありがと・・・それと、さよなら。)
最後に自分の夢の残滓が残るその部屋に微笑んで、感謝を伝える。
それから、チパチャパはパタンと扉を閉めると、旅行鞄に手を添えて、くるりと踵を返す。
もう、ここに戻って来る事はない。
前を向いたチパチャパは、その一歩を踏み出した。
結構時間が掛かったと見るべきか。
それとも、勇者様のお蔭で意外と短くて済んだと思うべきか。
父や母と話したあの日から数日が過ぎてしまっていたけれど、漸くデュカに会えると思えば足取りも自然と軽くなる。
謝る事も許されないかもしれない。想いを拒絶されるかもしれない。そもそも近づく事も出来ないかもしれない。それを考えると胸が苦しくなる。
でも、彼に本当に会えると思うだけで、凄く嬉しくて、心が高鳴ってしまうのだ。
幸せそうに鼻歌まで口遊んで、チパチャパは後宮の廊下を歩いて行った。
「あら・・・丁度よかったわ。海の聖女。」
ただ、上機嫌でいられた時間はけっこー短かった。
チパチャパはげんなりとした気分で、正面からやって来たその女性に目を向けた。
柔らかな微笑み湛えたを彼女を、チパチャパは良く知っている。何しろ、勇者様の聖女の一人なのだから。そりゃ当然、知っていた。
比較的、嫁達の中では付き合いのある方ではあったのだけれど。
チパチャパは、かなり彼女が苦手だった。
何というか、彼女は自由なのだ。自分以上に。
他人の間合いにずかずかと踏み込んで来て好き勝手に振る舞ったかと思うと、急に満足したのか何処かに行ってしまったりする。
兵士達にですら、「猫のように奔放な方だから。」と言われていたくらいだ。
(・・・なんで、寄りにもよってこのタイミングで出てくるかなぁ?)
丁度良いって言葉に呪われてるんじゃないかな、とか思いつつ、チパチャパは心の中でため息を吐いた。
勿論、表面上は取り繕ってにこやかに挨拶している。
「ごきげんよう。お久しぶりですね、ルーリスミシュ。」
「はい、ごきげんよう。忙しそうにしていたのは、貴女の方よ? お部屋尋ねても、いつもお留守ばかりでつまらなかったわ。」
ルーリスミシュは豊か過ぎる豊穣の証を肘で押し潰して、頬に手を当てながら退屈そうな顔で、囁くようにそう言った。
ワザとらしく、左腕で肘を支えて。
そんなに巨大な果実を見せびらかしたいのか?
左腕が殆ど胸に隠れて見えない。あまつさえ、「っんしょ。」とか納まりが悪そうに腕で位置を調整してくる。
その度にたゆんたゆんして、チパチャパの無垢な目を犯すのだ。
(ほんっと、何しに来た。)
チパチャパの中の人が、牙をむいて威嚇する。
チパチャパが彼女を苦手に思う主な原因の一つだ。
コイツは昔っから事ある毎に、その無駄にデカい乳をチパチャパの目の前で主張して来やがりくださる。
『貴女は良いわよね? 私、胸が邪魔で足元がよく見えないの。本当に嫌になるわ。』
とか、大した段差もない場所で躓いて、隣にいたちぱちゃぱの胸を見つつそう宣ってきたり。少しばかり気温が高い土地では、胸を持ちあげながら。
『暑い所って苦手なのよねぇ・・・胸の下が汗で気持ち悪くなるんですもの。』
とか。チラリとこっちを羨まし気に見てきた時は、本気で殴ろうかと思った。
せめて話す時は、顔を見ろ。胸じゃなくて。
チパチャパの巨乳嫌いを育てた張本人だ。
森の女神タプタァル様は何でこんな性悪を聖女に選んだのか、理解に苦しむ。
それでも、チパチャパは表面上は申し訳なさそうに彼女に答えた。
「ごめんなさいね? 少し整理しなくてはいけない事柄がありましたの。訪れていらしたなら、メイドに言付けして下されば、後で私からお伺いしましたのに。」
「あら。それだと面白くないでしょう?」
再び胸の位置を直しながら、ルーリスミシュは気怠そうに言った。
(そんなに座りが悪いなら、手ぇ下ろしなさいよ! この無駄乳がっ!)
チパチャパの熱い視線を受けて、ルーリスミシュは頬から手を離した。代わりに、両手で自分の胸を持ちあげて揺らしてみせる。
「ああ、これ? 仕方ないじゃない・・・重すぎて肩に紐が食い込んで痛いのよ。肩こりも酷いし、良い事なんてあまり無いわよ?
持ち上げたりしなくて済む貴女が、ちょっと羨ましいわ。」
軽く揺するだけでタプタプと波打つ胸を、チパチャパは殺意の篭った目で睨みつける。
「精々、男を誘惑するのに役立つくらいかしらね?」とか、つまらなそうに言ってのけるヤツの顔面を殴りたい。
それに、私だってブラくらいしている。無い訳ではないのだ。
捥ぐぞ無駄乳、と言いたい気持ちをグッと押さえて、チパチャパは血管をヒクつかせながら尋ねた。
「それで? 一体何の御用なのかしら? 私、今少し急いでいるのだけど?」
ルーリスミシュが呆れた顔をして胸を揺らす。だから、無駄にタプつかせるな、糞駄肉が。
「あら? 見て解らないの? 相変わらず察しが悪いのね。」
そう言われてチパチャパは、ルーリスミシュを上から下まで眺めてみた。
彼女の故郷の伝統衣装である貫頭衣をベースにした森の聖女の略装を着ている。動きやすさ重視のその姿は、魔王退治の旅の途中でも良く見たものだ。聖都に来てからも、残った聖女達は大抵その略装で過ごしている。
別段オカシイ所なんて見当たらないけどなぁと、彼女の足元にまで目をやると、旅行鞄らしきモノが目に付いた。
(・・・んー? 何、ルーリも里帰りでもすんの? 訪ねて来たのはその為のご挨拶? 私、そこまで仲良かった記憶ないんだけど。)
ああ、男漁りの旅の可能性もあるかな? とチパチャパは考えた。
何を隠そう、件の間男事件の当事者は、この森の聖女ルーリスミシュなのだから。もしかしら、あの男が飛ばされたという辺境に行くつもり・・・いやないか。
浮かんだ予想を、チパチャパは即座に否定した。
彼女は魔王退治の間も、騎士や兵士達相手に浮名を幾つも流していた。
けれど、一度一晩共にした相手にはまるっきり興味を失ってしまうらしく、次からは大変つれない態度を示していたのだ。それは見ているこっちが、相手を気の毒に思うくらいの豹変ぶりだった。
純真無垢なエウエリカなんて、柳眉を釣り上げて怒っていた。
「・・・貴女も里帰りするのかしら? ご挨拶にでもきたの?」
「する筈もないでしょう? なんで里に帰らないといけないのかしら。用があれば、向うから何か言ってくるでしょ。」
チパチャパの答えはお気に召さなかったようだ。
首を少し傾けて、タプタプ、タプタプ胸を更に揺らしてくる。・・・そろそろ、本当に殴っても許されるんじゃなかーか。
3つに増えた青筋をヒクヒクさせたチパチャパを見て飽きたのか。
ルーリスミシュは手を下ろした。
「まぁ、貴女本当に察しがわるいものね。それじゃぁ、特別に教えてあ・げ・る。
――貴女について行こうかしらって、準備したに決まっているでしょう?」
咄嗟にぶん殴らなかった自分を、チパチャパは褒めても良いと思った。
「はぁ?! 何言ってんの?! なんであんたがついてくる事になんのよ! 邪魔だから止めて欲しいんだけどっ!」
「声が大きいわ、それに言葉も崩れているわよ? 周りの人が吃驚しちゃう。」
「うっさい、そんなの今はどうでもいいのよっ!」
「はぁ・・・、同じ聖女として恥ずかしいわ、私。」
恥ずかしいのはこっちだ、駄肉!
また胸を押し上げてから頬に手を当てるルーリスミシュに、チパチャパは毛を逆立てて詰め寄った。
デュカにこんな尻軽女を会わせる訳にはいかない。
断固としてお断りである。大体、巨乳枠にはもうクパがいるのだ。二枠目とかあってたまるか。
チパチャパは厳しい視線で彼女を睨みつけた。
「言っとくけど、絶対にお断りだからね? わかったら、とっととそのままお部屋に戻ってくれる?」
「別に良いけれど・・・私、貴女の故郷が何処かもう知ってるわよ?
勝手に行くのも失礼かしらって、貴女にこうしてお話しを通しに来ただけですもの。」
「何で知ってんのよ?! 私、教えた覚えなんて無いわよ、あんたにっ!」
「前に里帰りした時に貴女、申請書に行き先書いていたでしょう?
記録を管理してる方とちょっと仲良くして差し上げたら、快く教えてくださったのよ? とても親切な方だったわ。」
チパチャパはその台詞を聞いて唖然とした。
ぎりぎりと歯を食いしばり、握り締めた拳が力の入れすぎでプルプルと震える。
言わずもがな、その腐れ神官に対する怒りでだ。
(・・・肉欲に溺れんなよ、駄神官がっ! なに勝手に人のマル秘情報とかさらっと流してくれちゃってんのよ! しかもこんな厄介な駄肉にっ!)
尚、聖女達の出身地というか生まれ故郷は、基本的には極秘扱いの情報になっている。色々とちょっかいを出されると政治的にも大変困った事になってしまう。
軽く調べればわかる事とはいえ、やはりそこもマナー的なモノで守られていたりする。
まぁ、一部の聖女達はその出自故に、調べるまでもなく知れ渡っていたりするけれど。
その場合は大抵、親が権力を持つ側なので問題ない。
(いやいや、落ち着け、落ち着くのよ、チパチャパ。)
ふぅ、と小さく息を吐いて気持ちを取り戻す。
まずい事にこの駄肉は、来るといったら絶対村にやって来る。
先ずは目的を聞く事にしよう。
嫌な予感しかしなかったが、チパチャパは念の為に理由を尋ねてみた。予感が外れる事を女神様にお祈りして。
「はー・・・それで? なんでうちの村に来たいのよ? 海しかないわよ?」
「それは勿論、貴女がご執心だっていう彼を見る為に決まっているでしょう?」
予感は外れなかった。チクショウ。
「貴女の好みじゃないと思うから、止めといたら? 時間の無駄よ?」
「嘘ね。だって、貴女凄くメンクイだもの。
旅の間もずっと、勇者様以外の男には見向きもしなかったじゃない? 結構よい男もいたのに。どうせ避妊してるのだからって、他の聖女達は陰でこっそりツマミ喰いしてたのにね?」
極力そっけない感じで行ってやったというのに、ルーリスミシュはにんまりとした笑顔を返してきた。
そんな爛れた一部の聖女達と一緒にしないで欲しい。
断じて同類じゃない。ふざけんな。
むしろその件では、チパチャパは被害者だった。
勇者様をも篭絡させてみせた海の聖女の衣装は、そういった方面でも無駄に絶大な効果を発揮してくれたのだ。
野営中に遠回しに誘われるのはまだしも、面と向かって「今晩いかがですか?」とか尋ねてくる馬鹿もいたんだ。
兵士達が、「見抜きするなら海のお方だよな。」と談笑してるのを耳に挟んだ時には、本気で鳥肌がたった。戦地に来る娼婦達の間で、うちの故郷の衣装が流行ったりした事まであるんだぞ、とチパチャパは憤る。
・・・まぁ、最後のに関しては。
他の煽情的な肌色率の高い伝統衣装を持つ聖女達も犠牲になった分、まだ我慢できたけど。
しかし、この様子だと諦めさせるのは無理そうだ。首輪をつけてた方がまだデュカに迷惑が掛からないかもしれない。
(あーっ! もーっもーっ! ほんっとに! ・・・デュカぁ、ごめんなさい。)
力なく項垂れた後、チパチャパはルーリスミシュの勝ち誇った顔を見た。
なんか獲物の匂いを嗅ぎつけた獣の顔だ、アレは。
ダメだ、コレはダメな顔だ・・・。
全力で首輪を引っ張らないと、デュカの危険が危ない。
「・・・わかったわよ。言っとくけど、村で男漁りしたら全力でぶちのめすから。」
「あら、それは残念。
海の国の男は体力あるって言うから、ちょっと楽しみにしてたのに・・・あらら、わかったわ。貴女の村ではヤらない、これでどうかしら?」
チパチャパの形相をみたルーリスミシュが、珍しく妥協案を提示してきた。
「良いわ、仕方ないからそれで妥協してあげる。絶対に、シないでよね?」
「はいはい、わかっているわ。
・・・それにしても、本当に楽しみ。貴女がそんなお顔までするなんて。」
愉悦を含んだ声でそう返事をして、ルーリスミシュは旅行鞄を手にゆっくりと歩き出す。体の向きを変える直前に彼女が見せた顔は、同性のチパチャパですらゾクゾクする程に妖しく艶やかだった。
チパチャパも慌てて旅行鞄を掴んで、ルーリスミシュを追いかけた。
「ちょっと?! デュカも村の男だかんね? ルーリ!」
「あら、違うわよ? だって目的の男なんですもの・・・約束の範囲外だわ。」
「あんた、マジでぶっ殺すわよ?」
「うふふ、怖いお顔。大丈夫よ、ちょっと味見するだけだから。貴女の大事な彼を盗ったりなんてしないわ。」
そう言ってふわりと微笑んだルーリスミシュは、威嚇するチパチャパを見て、思いついた様に空いている手で胸を持ちあげた。
ふにょふにょと形を変える胸を眺めつつ、彼女は呟いた。
「ねぇ・・・その彼にもコレは効果あるのかしら? 私は盗るつもりは無いのだけれど、コレに溺れる男性って多いのよねぇ。彼の方が私に本気になったら、その時はごめんなさいね?」
「捥いで欲しいってお願いなの? その駄肉を。なら、いつでもヤッてあげるけど。」
威嚇が明確な殺意に変わった。
視線で捥げるモノなら捥いでしまいたい。と、あらん限りの熱を集めてチパチャパはルーリスミシュの弾む胸を睨みつけた。
「痛いのは好きじゃないのよ、私。
それにいつも言っているでしょ? 男性を誘惑するくらいしか、本当に使い道がないのよコレ。肩こりとかも考えるとマイナスだと思うわ?」
「なら、半分でいいから寄越しなさいよ。その駄肉。」
「そうねぇ・・・半分だったら私も随分楽になるからあげても良いわよ? 方法がわかったら教えて頂戴ね? あ、痛いのは嫌よ?」
「ぐぎぎぎ。」とチパチャパは臍を噛む。
これだからこの女は苦手なのだ。
剣でスライムを斬るみたいに、何を言っても効果が無いのだから。・・・胸にスライムがあるからか? 死ねば良いのに。
狂えるチパチャパの怒気をどこ吹く風と受け流していたルーリスミシュが、唐突にチパチャパの胸をじっと見つめて来た。
今度、羨ましいとかほざいたら、本気で殴る。
心に決めたチパチャパに、彼女は少し首を傾げながら言い放つ。
「・・・でも、貴女の場合あげても無駄になっちゃうかもしれないわね?」
よし殺そう。
チパチャパは拳を振り上げた。
「元聖女仲間のよしみで、お墓に刻む言葉くらいは聞いてあげるわ、ルーリ。」
「そんな怖い事言わないで? ちょっと心配になっただけなの。
ほら、貴女って海の聖女なんですもの。 私の森がいくら豊かでも、貴女の抉れた胸は埋めきれないんじゃないかしらって。
だって、海って海面よりずっと深い所に大地があるのでしょう? ロクフォナとかじゃないとダメかもしれないわ。」
「よしわかった、死ね。」
「っきゃ。」
チパチャパの殺意を全部乗せた拳は、無慈悲にも避けられた。
代わりに反対側から可愛らしい悲鳴が聞こえてくる。
怒りのあまり周りを見ていなかったせいだろう。後宮とはいえ、メイド達はそれなりに通るのだ。反動で振り回した旅行鞄が、歩いていた誰かに当たってしまったらしい。
チパチャパは素早く仮面を被り、倒れたその女性に慌てて手を差し伸べた。
「すみません、私が不注意でしたわ。
お怪我はありませんか? ああでも、念の為に・・・≪治癒≫。その、本当に申し訳ありませんでしたわ。」
「いえ、私もよそ見をしていましたので。貴重な魔法まで使って頂いて、こちらこそありがとうございます。
・・・すみません、急ぎますので失礼しますね。」
起き上がったその女性は裾をパタパタと叩くと、ペコリとお辞儀をしてから急ぎ足で立ち去っていってしまう。
光の加減であまり良くは見えなかったが、綺麗な顔つきをした女性だった。
しかし。と、チパチャパは首を捻った。
「ねぇ、ルーリ?」
「何かしら?」
「あんな女性いたっけ? 後宮に。私、見覚え無いんだけど。」
「知らないわ。女性の顔になんて興味ないもの・・・でもそうね、布が市井で売られている安物みたいだし、新しいメイドあたりではないかしら?
急いでいるって口にしてらしたもの、パラフェアの所にでも行く途中だったんでしょ。」
確かに後宮じゃ珍しい類の服を着ていた。
庶民がお祭りで着る晴れ着のような感じの質素な飾りのついた服だ。それにこの辺りの人ではないのかもしれない。飾りや模様がちょっと独特だった。
あの模様はどっかで見たよーな。・・・誰かが身に着けていたモノだったか?
何処だっけ、と。微妙に引っかかりを覚えたチパチャパは、もう見えなくなってしまった彼女の後ろ姿を思い返して。
「それより、早く馬車に向かいましょう? 私、そろそろゆっくりしたいわ。」
「あー・・・そうね、少し時間に遅れてるような気もするし。
あ、ルーリ? あの御者怒らせたらダメだからね? 後で後悔するのは良いけど、私を巻き込まないでね。」
まぁいっか、と思考をぶん投げた。
今回も御者は前回もお世話になった彼女なのだ。あの時の帰り道は、なかなかに辛いモノがあった。
トイレ休憩ナシの二の舞だけは是非とも避けておきたい。
チパチャパは、やや急ぎ足でルーリスミシュと並んで廊下を歩いて行った。
折角なので、今回は名前だけ出て来た聖女様のご紹介でもしましょうか。
フォナさん。
豊穣の女神メフェラゥア様の聖女さんで、お名前はフォナソリア。
比較的大きな地の王国の第二王女様で、勇者様のお側にいつもべったりしている、チパチャパ曰く「正妻気取り」の一人ですね。
お父さんは王様ですからね、まぁ、嫁になった理由は察せる事でしょう。
尚、一部爛れた嫁の範囲には入っていません。当然です、自分の価値と役割をちゃんと理解している偉い娘さんなのですから!
ラナさん。
月の女神ケルァナイ様の聖女さんで、お名前はラナフォルス。
宵の国の辺境伯令嬢で、ご兄弟には兄と弟がいらっしゃいます。フォナと同じく、勇者様の側に侍るもう一人の「正妻気取り」さんです。
父親が勇者様の性格を気に入って「気にいった、娘をやろう!」と送り出されました。彼の嫁の中では数少ない、勇者様の力が目当てじゃない娘さんです。
こちらも、一部爛れた嫁の範囲外ですよ? 地位と教育は伊達ではないのです。
エウさん。
草原の女神キュクラトー様の聖女さんで、お名前はエウエリカ。
地の王国の一部地域、大平原地方にお住まいです。魔王討伐が終わって地元に帰り、まめに手紙で愛を交わしていた幼馴染の男性と無事にゴールインしてます。念願の赤ちゃんも授かって幸せ一杯みたいですよ?
ロクさん。
火山の女神ペレパラフ様の聖女様で、お名前はロクフィナ。ルーリが今回言ってましたね。
魔王退治が終わって、普通に地元の海陰の国に戻られました。勇者様の嫁では無い、ごく普通の聖女様です。
現在お婿さん募集中だとか。