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超肉食聖女様と勇者様 その弐

 勇者様はソファーから立ち上がると、ゆっくりとチパチャパの側へ移動してきた。

 ガチガチと歯を鳴らして怯えるチパチャパの肩を、強く掴んで無理矢理彼の方へと顔を向けさせてくる。

 彼の瞳に愉悦の色が、見える気がした。


(やだっ、やだぁ・・・やぁっ! やめっ、止めてくださいっ・・・ぁ、あっ・・・。)


 勇者様の顔が触れるほどに寄せられて、チパチャパの心は泣き叫ぶ。

 なんでもしてみせる。そう思っていても、やはり実際にソレが足音をたてて近づいてくると、悲しくて苦しいものだった。(けが)されるのと(よご)れるのは違う、と心が引き裂かれるような痛みでチパチャパの体を絶望が(むしば)んでくる。


 きっとこれから自分(チパチャパ)が誰の所有物なのか、教え込まれてしまうのだ。フォナ達が好んで読んでいた物語の様に体に刻み込まれて、もう二度とデュカには会えなくなってしまうに違ない。

『勇者様も男の方っていうコトですよね?』能天気なメイドの声が聞こえる。


(ごめん、ごめんなさい、デュカ・・・私、わたし、ほんとに・・・バカだった。)


 ホロリと一滴(ひとしずく)、光を失った瞳から涙を零したチパチャパは、心の中でデュカに縋り付いてひたすら謝っていた。

 この体だけで彼の欲望(いかり)を収めよう。絶対にデュカには被害が行かない様にすると覚悟を決める。チパチャパは勇者様を受け入れる為に目を閉じ、顎をやや上に持ち上げた。

 村を出る時に残したと思ってた、数少ない捧げモノも彼の為ならば諦めよう。

 肩に置かれた手に力を込められて、チパチャパの心が血の涙を流し出す。


(デュカ・・・大好き。いつまでも、ずっと元気でいてね・・・。)


 荒い息遣いが聞こえて、チパチャパはそっと心の中のデュカに口づけた。


「やっぱり! ね、そこまで好きになった彼ってどんな人になっていた? 僕にも教えてくれない? 君に真実の恋を教えてくれた人の事を!」


 最後の時を泣きながら待っていたチパチャパは、その乙女みたいな勇者様の声を聞いて、「あれ?」と首を(かし)げた。

 薄目を開けると、興味津々(きょうみしんしん)といった面持ちの勇者様がドアップで見えた。


「やっぱり、エウみたいに『おかえり! 待ちくたびれた。』とか言われた? あぁ、でも君と僕の話はあの国が大々的に広めていたんだっけ? ・・・それならアレかな、『勇者様との事は聞いているけど、それでもお前を待っていたよ。』とか? そんな事言われたりしたの?」


 ナチュラルに勇者様が心を抉ってくる。

 さっきとは別の痛みが襲って来たけど、代わりにさっきまでの悲壮な覚悟も涙も全部引っ込んでしまった。

 チパチャパは肩から力を抜いて、へにょりと笑った。


「言われたかったですけど、言って貰えませんでしたよ。

 ・・・それより、お咎めにならないんですか? 私は貴方の嫁という事になっているんですけど?」

「あー、うん。そうだね、先ずそこから話さないといけないよね。」


 勇者様がバツが悪そうに、顔を歪ませる。

 チパチャパの肩の置いていた手を離し少し距離をとると、彼は居住まいを正した。


「チパチャパ、僕はその事で君も、彼も咎めるつもりはないよ。

 ――むしろ、謝らくてはいけないのは僕の方だろうし。」

「そんな事は・・・。」

「あるんだよ、きっとね。・・・聞いてくれるかな? チパチャパ。」


 勇者様は悲しそうに、それでも真摯な目でチパチャパを制した。


「僕は、君に・・・ううん、君達に向けている僕の感情が、愛情なのかそれとも、只の責任感からくる感情(モノ)なのか、僕自身にも解らないんだ。

 どういった状況であれ、僕が君達から大切な純潔(モノ)を受け取ってしまったのだからと、そういった想いが、僕の中には確かにあるんだよ? その後悔(おもい)はどれだけ拭おうとしても、拭いきれないんだ。」


 勇者様の顔が(うれ)いを帯びたモノへと変化する。


「ごめんね、チパチャパ。君は多分それを悟っていたんだろうね? いや、君だけじゃないかな? きっと他の(みんな)もそうなんだろうね。」


 苦しそうに吐き出したその言葉は、勇者様自身をも(さいな)むようで(つら)そうだった。

 逆に、チパチャパは身の置き所がなくて、(わず)に身じろいだ。


 聖女達は皆、勇者様の心が自分達に向いてない事なんて、とっくの昔に承知していたりする。以前はチパチャパもその内の一人だったから、良く解っていた。

 その上で、(ほとん)ど気にかけずに彼に(まと)わり付いていたのだ。


 無論、誰もが勇者様の心の中の一番を狙っていた。けれど、それは勇者様に振り向いて欲しいとか、そんな乙女チックな想いからではない。『自分が一番深く、彼にその存在を刻み付けたい。』という大変身勝手な欲望から来ている欲求(モノ)だった。

 そこでは勇者様(かれ)の気持ちなんて、一ミリも考慮される事なんて無い。

 デュカに再会して村に戻らなければ、たぶん、チパチャパは今も、そんな風に思い続けていた。


(・・・今は解ります。振り向いて欲しいもん、私もデュカに。)


 ちゃんと見て欲しい。ちゃんと愛して欲しい。

 自分だけを見てなんて言わないから、心の片隅で良いから、ちゃんと私も心の中(ソコ)に置いて欲しい。そして叶う事ならば、私が一番心の中(ソコ)で大きくありたい。

 チパチャパも、そう想える様になっていた。


 ほぅっ、と唇を触り、吐息を漏らしたチパチャパに、勇者様がにっこりと微笑んだ。


「だからね、チパチャパ。僕は君に、そんな風に想える相手が出来た事が、凄く嬉しいんだよ? 僕ではきっと、本当の愛(ソレ)を君に与えてあげれないから。」

「――勇者様、今まで本当に申し訳ありませんでした。」


 チパチャパは両手を床に揃えて、深々と彼にお辞儀をして謝っていた。

 怯えとかからではない。今まで(ないがし)ろにしていた彼の心に、自分がどれ程酷い事をして来たのかを知っての行動だ。心がそうしろと命じたままに、そうしていた。

 ちゃんと愛していなかったのは、チパチャパも同じなのだから。


「ああ、それは止めて欲しいかな。それより、君が好きになったっていう彼の話を、色々と聞かせて欲しいかな?」

「はい、勇者様。」


 困ったような勇者様の声に(うながさ)れて、チパチャパは体を起こすと故郷の村であったことを勇者様に話し始めた。デュカが凄く素敵に成長してた事や、村が吃驚する程変わっていた事なんかを、主観を込めて色々と。

 勇者様は話しを聞いて時々、「へー。」とか「無茶するね?」とか「そんなになってるんだ。」とか、楽しそうに相槌を打っていた。


「でも、デュカったら全然、私の気持ちに気が付いてくれないんですよ? 私、結構頑張ってアピールしたつもりなのに。」

「あはは、凄い子だね? でもそっか・・・チパチャパはこれからなんだね。」

「ええ、これからなんです。今度は全力で行きますから!」

「ふふっ、頑張って。」


 勇者様に新しく()れ直して貰ったコヒをズズッと(すす)って、チパチャパは決意を新にする。その様子を眺めて、勇者様が柔らかく微笑んだ。


「いいなぁ・・・僕も、そんな風に想えたら良かったのに。」

「・・・え?」


 ここではない何処か遠くを見つめて、ポツリと勇者様は呟いた。

 思わず勇者様をみつめたチパチャパに、気が付いた勇者様が(はかな)げに笑う。


「そうだね、君ばっかりだと不公平だよね? 少し、昔話をしてみようか。」


 両手でカップを握りしめ、勇者様は切なそうに、悲しそうに、(まぶた)を閉じた。


「ほんとはね。 僕はたった一人の女の子を、守りたかっただけなんだよ? 12年前のあの日――。」




 ◇◇◇




 勇者様、その頃はまだそんな風には呼ばれていなかった。

 セクトゥスの故郷はその日丁度収穫を終えて、お祝いをしている真っ最中だった。

 セクトゥスも2才年下の隣の家の娘ラルゥシャと一緒に、そのお祭りを楽しんでいた。少しおしゃまな彼女(ラルゥシャ)はその日もセクトゥスにべったりと張り付いて、近寄って来る他の女の子達をけん制したりして。

 それが、セクトゥスも結構嬉しかったのを覚えている。


 ――ゴォアァアアァアアアアッ!!


 お昼を過ぎたあたりで、近くには居ないはずの魔獣が村を襲ってくるまでは、セクトゥスは本当に幸せだったのだ。

 村はずれから雪崩の様に襲い掛かって来た魔獣の群れは、遠くに立つ魔族によって統率されていた。軍隊の様に村を追い詰めた魔獣達が、逃げ場を失って怯え惑う村人達を一人、また一人と殺し、(なぶ)り、セクトゥス達の目の前で生きたまま(むさぼ)り喰らい始める。

 その狂宴を茫然としたまま眺めてたセクトゥスは、ラルゥシャの助けを求める声で目が覚めた。


「セクッ! いやぁぁぁっ! 助けてっ! セクゥっっ!!」

「っ! このっ、ラルを離してっ!」


 狼の様な頭をした魔族がラルゥシャを捕まえて、連れ去ろうとしている。

 そう認識した時、セクトゥスはその魔族に掴みかかっていた。けれども、当時のセクトゥスはまだ13才になったばかりのひ弱な子供でしかなかった。

 当然、魔族はセクトゥスを片手で殴り飛ばした。


「いやぁぁっっ!! セクッ! セクゥっ!!」


 毬みたいに地面をバウンドして跳ね飛んでいくセクトゥスを見て、魔族の腕の中でラルゥシャが暴れる。跳んでいくセクトゥスの様子を楽し気な濁った嗤い声をあげて眺めていた魔族が、(わずら)わしそうに彼女を殴打した。

 殴られる度に彼女(ラルゥシャ)から、悲痛な悲鳴が上がる。

 魔族は悲鳴(ソレ)を聞いて一層楽しそうに口を歪ませて嗤い、さらに彼女を殴った。楽器の様にリズムをつけて心底愉快そうに彼女を殴り続けた。

 幼い彼女(ラルゥシャ)の悲鳴がセクトゥスの耳に木霊(こだま)する。


(ラルッ・・・ラルッ! 今、助けに!)


 地面に転がったままセクトゥスはソレを見ていた。

 彼女(ラルゥシャ)を助けに行きたいのに、手足が少しも動かない。目を向ければ、変な方向にねじ曲がった自分の手足が見えた。それでも、セクトゥスはズリズリと這いずる様にラルゥシャの元へと向かっていった。


(女神様! 世界をお創りなられたミシャラミウ様! どうか、お願いです。僕の全部を貴女に差し出します。命だって、なんだって! だから、だからラルゥシャを助ける力を僕に下さいっ! あの子を僕に助けさせてくださいっ!!)


 這い寄りながら、セクトゥスは必死に祈りを捧げた。

 ラルゥシャを助けられるならば、壊れた手足が前に進む度に酷い激痛を与えて来ても(いと)わない。やがて魔族が、近寄るセクトゥスに気が付いてラルゥシャを殴るのを止めた。

 その顔は、「面白い玩具があるな?」と(いびつ)に歪んでいた。

 ニヤニヤと嗤い、重い足音を響かせて魔族が近寄ってくる。

 その腕の先には頭を鷲掴みにされて、ダラリと力なく垂れるラルゥシャが力を失った瞳で虚空を見つめて揺れていた。


(ラルッ! しっかりして! 大丈夫、今僕が助けるからっ! 必ず助けるからっ!!)


 歯を食いしばって涙するセクトゥスの頭の中で声が響いた。


『人の子よ。良いでしょう、貴方に力を授けましょう。その代わりに・・・。』


 そこから先の記憶は曖昧(あいまい)だ。

 目も(くら)む様な光に包まれて手足が治ったと思ったら、見た事もない剣を手にその魔族に斬りかかっていた。そこまでしか覚えていない。

 そして、気が付いたらラルゥシャを抱きかかえ、死体で埋め尽くされた村の広場に座り込んでいた。


「・・・そうだ、ラルッ! 傷の手当しないとっ!」


 セクトゥスは慌てて腕の中のラルゥシャに目を向けた。

 不思議な事に、彼女には傷一つなく、すやすやと安らかな寝息を立てていた。時折甘えるように、セクトゥスの胸へと顔を擦りつけて。

 ほっとしたのもつかの間、セクトゥスの頭にさっきの声が(よみがえ)る。


『その代わりに、貴方が世界を救いなさい。必ず、魔王を倒すのです。いいですね?』


 右手に握った見慣れぬ剣が明滅して、手の甲に(わず)に痛みが走った。

 そこには神殿で良く見た女神ミシャラミウの紋章が薄く光りを放っている。(しばら)くすると、その紋章は吸い込まれるように手の中へと消えてしまったけれど。

 セクトゥスは何故か、まだそこにある、と感じていた。これは契約なのだ、と心のどこかで冷静な自分が教えてくれている。ラルゥシャを助けて貰った代償なのだと。


 それから。

 目を覚ましたラルゥシャを隣村の伯父さんに預けてセクトゥスは魔王を倒す旅にでる事を決めた。


「なんでっ! セクっ、嫌だよ?! ダメだよ! 死んじゃうよ! お願いだから、私の側にいてよぉ・・・。」


 別れの日、ラルゥシャがセクトゥスに縋りついて泣いていた。

 セクトゥスだって(つら)かった。本当は行きたくなんてない。これが今生(こんじょう)の別れになるかもしれなかったし、何より、魔王を倒すのにどれだけの年月がかかるのか解らない。

 けれど、手の中の紋章がソレを許してくれそうになかった。

 決心が鈍る度に、鈍い痛みと共にあの声が頭の中で囁くのだ。『魔王を倒しなさい、それが貴方の役目です。』と繰り返し。


 ラルゥシャの泣き声が胸に刺さって痛くて苦しい。

 その痛みを誤魔化すようにセクトゥスは、愛しい彼女(ラルゥシャ)に顔を寄せて、生まれて初めての口づけをした。

 出来る事なら、ずっとそうして居たかった。

 後ろ髪を引かれながらも、セクトゥスはゆっくりと唇を離し、「ごめんね。」と囁いて泣き濡れる彼女(ラルゥシャ)の元から旅立った。




 ◇◇◇




 勇者様は、唇に指を当てて懐かしむ様に話していた。


「だから、君の彼(デュカくん)の事は良く覚えていたんだ。彼の姿が、あの日のラルに重なって見えたから。」


 そう言って、勇者様はまた優しく微笑む。

 話を聞いていたチパチャパは、涙が溢れて止まない。彼のその微笑みもぼやけて見えた。

 勇者(セクトゥス)様は今すぐにでも、ラルゥシャの元に帰してあげるべきだ。

 もう魔王は倒して、女神様との約束は果たしたのだから。


「お帰りには、ならないのですか?」


 涙声で尋ねたチパチャパに、勇者様はゆっくりと首を横に振って応えた。


「あれからもう、12年も経っているんだよ? あの時彼女(ラルゥシャ)はまだ11才だったけれど。何時までも待たせておけないよ。

 ・・・7年前に、手紙を送ったんだ。僕の事は忘れて、幸せになってくださいって。」


()き遅れになったら可哀想だしね。」と勇者様は笑顔だったけれど、チパチャパには彼が泣いている様に見えた。一体どれ程の、(つら)く苦痛を伴う決断だったのか。

 チパチャパの目から追加で涙が零れていく。

 勇者様はそれを悲しそうに眺めてから、コヒを口元に運び窓の外を見た。


「きっと今頃は、素敵な旦那様と一緒になって、幸せに暮らしてるんじゃないかな? 子供も何人かいたりして、幼い頃の彼女(ラルゥシャ)みたいに周りや彼女を困らせたりしているんだよ。」

「もしかしたら、待っているかもしれないですよ?」


 チパチャパは思わず口に出していた。

 それは、彼女の願望だった。今まで酷い事をしていたけれど、彼には幸せになって欲しい。世の中、自分や彼の周りにいる聖女(よめ)達の様な女性ばかりではないはずだ。

 その女性(ラルゥシャ)はきっと一途に勇者(セクトゥス)様を待っているに違いない。

 そうでなくては彼が報われない。そんな世界を今のチパチャパは認めたくない。


 窓の外を眺めたまま、勇者様は自重気味に笑った。


「ふふっ、ありがと。でも、君も知ってるでしょ? 農村でそんな我儘なんて通らないって。僕も彼女(ラルゥシャ)も焼け出されて世話になる(ほう)だったんだよ?」

「でもっ・・・。」


 反論しようとして、チパチャパは言葉に詰まった。

 わかっていた。それが、どれ程か細い希望なのかを。

 愛する夫をなくした女性ですら、若ければ周りの年寄り達がすぐに、次を半ば強制的に(あてが)ってくる。生きていく為という側面も確かにそこにはあるけれど、新たに子供を産むという期待も寄せられているのだ。

 村みたいな小さな共同体では全体の数が減ると、村の生活自体が脅かされる可能性だってあるのだから。

 そんな中、幼い恋心だけでは村の大人達に(あがら)い続けるのはとても難しい事だろう。


「彼女が幸せなら、僕はそれで充分だよ。今もあの空の下で、彼女が楽しく笑って暮らしているなら、それだけで僕が魔王を倒した価値は十分あったんだ。」


 想いを振り切るように、勇者様は空に向かって微笑みかけた。

 涙の痕が薄っすらと彼の目の脇に残っていたとしても。彼は、それでも幸せだと言い切ってみせた。

 そうして(しばら)くの間、空を眺めていた勇者様は唐突に言葉を切りだしてきた。


「ねぇ、チパチャパ?」

「はい。」

「行っておいで? 彼の所に、そして君の想いをぶつけてくると良いよ。

 色々大変だろうけど。それでも、そうしないと君は、きっと僕みたいに前へ進めなくなっちゃうと思うから。大丈夫、君が懇意にしていた貴族とか商人とかそういう人達は、僕が何とかしてあげるよ。」

「っ。」


 目を見開いたチパチャパが見つめる中で、勇者様はゆっくりと立ち上がる。

 空になったカップをテーブルの上に戻して、勇者様が部屋を静かに出ていった。去り際、扉に手を掛けた時に、彼は一度だけ振り返り。


「そうだ。僕ね、物語はハッピーエンドが好きなんだ。

 ダメだったらまた戻って来れば良いけれど、出来る事なら次に会う時は彼も一緒で。そして、僕に紹介してくれると嬉しいな。」


 チパチャパに綺麗な優しい笑顔を見せた。

 さて、待望の勇者様の名誉回復のお時間です。

 いえ、皆さん、多分解っていらっしゃると思いますけれどもね?

 前回といい今回冒頭といい、疑いを招く記され方をした勇者様ですが、勿論それは、チパチャパからそう見えたってだけです、ええ。


 そして実は、勇者様、恋バナとか大好きなのです。

 ただちょっと、その。歴戦の戦士である勇者様が前のめりになったり、友達を尋問する女子高生気分になったりすると、思いが物理になったりしてしまうだけなんです。ワクワクすることくらいは勇者様に許してあげてください。

 前回のラストや今回の冒頭では、「あれ、なんか勘違いされてる?」とは思いつつも、本音を聞き出すにはむしろ丁度良い? と脳内会議でゴーサインを出してました。可愛らしいオトメン心なんです。

 ちなみに、勇者様の愛読書は純愛だったり別れたけどよりを戻した話だったりします。


 裏話についても色々誤解があるんですよ?

 先ず、件の聖女様は放置プレイされたので、勇者様が男を熱心に忠告している間に部屋を自分で出て行きました。そして、勇者様は聖女様が部屋からいなくなったので、ちょっと男の本音を聞いてみようかな、とか思った訳です。もし本当に好きだったりしたら、協力してあげようと、善意から。

 それの時の尋問が、扉の隙間からみてたメイド達にはああ見えただけの事なんです。


 それに、その男も勇者様のピュアラブ嗜好に汚染、もとい、清らかさに感化されて自ら危険地帯へと志願していきました。縋りついたのも、勇者様を崇めていたんですよ?

「自分がこんなに醜い存在だったなんて、鍛え直さなければならない。真の愛を見つける為に。」

 とまぁ、よくある悪徳貴族の息子さんが覚醒するかんじで。

 現在は、現地の世話焼きの娘さんと良い雰囲気だそうです。



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