第5話 イヴの従者ー前編
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イヴとミラは喧騒の中心から離れ、神々が普段過ごす町ーメギセントーの道を歩いていた。大創造神からの許可も貰い、あの場に残る必要がなくなったからだ。
そんなわけで、イヴとミラは歩いていたのだが…
「イヴ様。なぜすぐにあの場を離れたのですか?」
ミラは、自分の教育係となったイヴには関係上敬意を払う必要があると考え、イヴのことを敬称付きで呼んでいた。
「……あの場に残る理由はもう無かったろう。大創造神から許可も得たからな」
「それだけが理由では無いでしょう?イヴ様のあの場を離れる速さは普通ではありませんでした」
イヴはあのあと、何かハッと思い出したかと思えば、『おい、ここを離れるぞ!』と言ってミラの腕を掴み、走り出したのだ。訳の分からなかったミラは、なされるがままに引きずられていったのだが…。当然、納得するはずもなく。
「……お前の観察力にはほとほと呆れるほどだな」
「褒め言葉として受け取りましょう。で、何故です?」
「……あの場には沢山の神がいただろう。神様っていうのは、自分の存在を固定する為には多くの者に覚えてもらう必要がある。ようは、神にとっては『信仰』が必要不可欠なんだ。
まあ、そんな理由で性格までもが個性的な奴が多くてなあ。そんな神が沢山いれば、面倒事も当然起こるわけで。……それにーー」
ーピッ
「……えっ」
イヴが言葉を続けようとした途端、何かがイヴの頬を掠めていった。そのまま地面に刺さったそれは、金の装飾がなされた銀のナイフだった。
「……イヴ様、やっと見つけましたよ…」
2人の元に、誰かが歩み寄ってきた。
その者は、短い銀髪に琥珀色の切れ長の目をした女性だった。背丈はミラより20センチほど高い。
背中に白い大きな翼があるところから、おそらく神様なのだろう。翼と同じ色のスーツ姿の彼女は、真っ直ぐイヴに向かって歩み寄ってきた。
「よ、よくここが分かったな…」
「ええ、イヴ様の髪は綺麗な水色の長髪ですから。そこに可愛らしい天使もいたので、すぐに分かりましたよ」
「…そ、そうなのか…」
「…ところでイヴ様、新たに生まれた天使様を連れているということは…また、やらかしましたね?」
「……なっ!」
「……また?」
彼女とイヴのやり取りに、状況を読み込めていないミラは戸惑うしかない。
そんな中、ミラの戸惑った様子に気づいたのか、彼女はミラの方に身体を向け、突然跪いてきた。
「…ミラ様、この度は我が主イヴ様が失礼を致しました。申し訳ございません。
本来ならば、主の行き過ぎた行動は従者である私が止めるべきなのですが…上手く逃げられてしまいまして」
「…従者?あなたが?」
「…ああ、自己紹介がまだでしたね。
私の名前はユエ、地球の創造神イヴ様の従者でございます」
イヴに従者がいるとは…。
ミラの第一印象では、そこまで人望があるとは思えなかった。
確かにイヴは水色の長髪にユエと同じ琥珀色の瞳という綺麗な容姿だが、口調と性格、そして好戦的なところから、人望があるとは思えなかったのだ。
ーしかし…
「…なっ、ユエ!
これは別に私が独断で行ったことではない!誤解を招く言い方をするな!」
「いつも勝手に相手に勝負を挑んで無茶な要望をしているのはどこの誰ですか?
おおかた、面白そうという理由でミラ様に勝負を挑み、教育係の権利を奪ったのでしょう」
「今回は違うぞ!
しっかりと手順は踏んだ!」
「貴方にとっての『しっかりとした手順』と普通の方々の『しっかりとした手順』が違うから申し上げているのです。そのせいで何度我ら従者が面倒事に巻き込まれたことか…」
「うっ…!」
どうやら、自分のイヴに抱いていた印象はあながち間違ってはいなかったそうだ。
ユエの言い方からして、イヴの突然の行動は、日常茶飯事なのだろう。
しかし、いつまでもこうしていては埒が明かない。仕方なく、ミラは2人の言い合いを止めることにした。
「…ユエさん、今回は私が先生の選定基準を決闘に決めたのです。確かにイヴ様は強かったですが、そのお陰で色々と学ぶ事が出来ました。
あまり、イヴ様を責めないでください」
その言葉にユエは目を見開き、訝しげにイヴを見る。その視線にイヴはタジタジだ。主としての威厳は存在しないのか、疑問に思ってしまう。
「……はあ…本当ですか?」
「…ほ、ほんとうだ!」
ユエがイヴを半目で睨むこと30秒。
「…はあ…分かりました、イヴ様にあらぬ疑いをかけたことは謝ります」
「フッ、次からは気を付けるんだな!」
「…しかし。貴方が目立つ行動をとったことは事実です。
私は言いましたよね?『目立つ行動は避けてください』と。
ただでさえ貴方は目立つ容姿をしているのですから、それ以上目立ってしまえば面倒事になるのは確実。そう何回も言ったのに貴方は……」
「そ、それは……」
「罰として、今日のイヴ様の夜ご飯はなしです。しっかりと反省してください。イヴ様の分は、ミラ様に食べて頂きましょう。どっちみち、今日から私たちと暮らすのですから。それで宜しいでしょうか、ミラ様」
「…え、は、はい!」
「そ、そんなあ〜…ユエ〜」
そんなやり取りにミラは唖然とするしかない。先程ミラと戦ったイヴとは似ても似つかない光景だった。そして3人は、イヴが普段過ごす家へと帰路についたのだった。
ーユエさんに逆らってはいけない
それがユエに抱いたミラの第一印象だった。