花魁の子
私は十五の時に家を出た。私の母は、夜の仕事をしている。
「ママはね、〈花魁〉っていう仕事をしているの。ママが奇麗だからできる、特別な仕事なのよ」
と、母は口癖のように言っていた。小学生の頃は、そんな母に憧れていたし、奇麗な母は私の自慢だった。けれども、今は理解している。母はただのソープ嬢だ。娼婦で売女だ。そんなもの特別な仕事でも何でもない。女でプライドがなければ誰でもやっていける仕事だ。何が〈花魁〉だ。目玉焼きの黄身が完熟だっただけで拗ねる花魁がどこにいる。そんな母親だ、父が出ていったのも無理がない。まあ、私に父の記憶なんてないのだけれども……
それでも、私は母のことは軽蔑していても憎んではいないし、嫌いではない。むしろ私よりも姉の方がその気持ちは強いだろう。姉と私は四つほど離れているが、喧嘩などはしたことがない。きっと、私のことなんて眼中になかったのだろう。姉の眼には嫌悪と、そしてほんの少しの嫉妬の色が、混ぜ合わさったような色づきで母ばかりを映していた。母と姉は衝突してばかりで、三人そろっての食事はもうほとんど記憶にない。
「もう嫌! あんたがいるぐらいなら私は出ていく!」
そう言って姉は二年前家を飛び出していった。
声をかける隙なんて与えてくれなかった。それ以来、母は私に甘える。私だけが生き甲斐であるような、そんな態度を示してくる。不愉快。だから私も家を出た。申し訳ないという気持ちがないわけではなかった。だから手紙だけは置いていった。キッチンの上に、まったくもって似つかわしくない白い紙が一枚ある。
はたして、その手紙に母が気付くのはいつになるだろうか。きっと三日、いや一週間はかかるのだろうな。




