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大切な想い、目覚めて。




 大切な人。大好きな親友。二度と失いたくない友達にして、その枠から越えてしまった――愛してる女の子。

 柔らからい唇は極上の感触であり、離れたくない思いに私は捕われる。

 少しの勇気を込めて、重ねた唇から魔力をエルルへと流し込む。

 これで目が覚めるわけではない。足りない魔力を少しでも分け合いたいという、私の我が儘だ。


「エルル……」


 愛している。愛しすぎて、ずっと私の傍にいて欲しい。出来ることなら、エルルの一生を支えたい。支え続けたい。

 でもそれをエルルは望まない。エルルは森の中で暮らすことを望むだろう。

 そこまで追い込んでしまったのは私だ。私があの時エルルを守れなかったから。お父様にもっと反抗できれば。それだけの力があれば。


「……エルル?」


 もぞ、とエルルが動いたような気がして顔を上げる。眉間に皺を寄せ、エルルは「う、うぅ」とうなされながらゆっくりと目を開いた。


「エル、ル?」


「みりあ、ちゃん……?」


 至近距離で見つめ合う。

 目覚めた。エルルが、目覚めた。


「エルルよかった! 早く医者を――!?」


「……やだ」


 ぎゅ、とエルルの手が伸びてきて私の後ろ首に回される。力を入れれば振りほどけるけど、私がエルルを振り払う訳がない。

 どうしたのだろうか。瞳に光はしっかりと宿っているから、朦朧としているわけでもなさそうだし。


「ねえ、ミリアちゃん」


「なに、エルル?」


 とてつもなく近い距離で見つめ合っていると恥ずかしくなってくる。よく見ればエルルも頬を赤く染めている。

 エルルも、恥ずかしがってる?

 同じ思いを共有できたことに気付いて身体の奥から歓喜の声が湧いてくる。

 もっと、もっとエルルと共有したい。


「ボク、我が儘になっても良いの?」


 私を見つめる琥珀色の瞳が、私の心まで見透かそうとしてくる。

 エルルになら、見透かされてもいい。

 だから私は、ありったけの想いを込めて本心で語る。女王としては絶対に言ってはならない言葉。

 ……でも私は、言いたいのだ。だって私は、どんな手段を使ってでもエルルを守るために女王になったのだから。


「エルルはたくさん我が儘言っていいのよ。あなたはもっと欲しいものを欲しいと言っていいの。地位でも、お金でも。あなたが望むなら、私はこの国の全てを捧げてもいい」


「それは、困るね」


「ええ。エルルならそう言うと思ったわ」


 見つめ合いながら笑い合う。私の言葉はエルルに届いたのだろうか。

 エルルは私を逃がしてくれない。ぎゅっと力を込めてくるのに、エルルの視線は宙を彷徨う。


「……ボクは、やるべきことと、やりたいことを見つけたの」


「聞かせて?」


 エルルが自分の意思で、自分の言葉で話してくれる。それが嬉しくてたまらない。


「ボクは精霊を穢すあの人たちを、許せない。だから、彼らを止めるために戦う」


「……ええ」


 エルルがまた傷ついてしまう。また魔力が尽きてしまうかもしれない。

 でも、それがエルルの意思なら。


「そして……やりたいことは」


「なに? 私に出来ることならなんでも協力するわよ」


「えっと……ミリアちゃんじゃなきゃ、できないかな」


「私? それって――」


「……えいっ」


 ――頭が真っ白になった。至近距離にあったエルルの顔が、もっと近づいて私たちの距離はゼロになった。

 何が起きたか理解する前に、エルルが離れて寂しさを感じて。

 また、唇を重ねられた。今度はエルルに引き寄せられて、私が覆い被さるように。


「ん……ちゅ……はふぅ。みりあ、ちゃん」


「ん……えるる……えるる……っ」


 わからない。わからない。でも、心が満たされていく。暖かい思いが胸の中に広がっていく。

 唇を何度も重ね、息継ぎのために離れれば離れるのが惜しくて何度も重ねる。

 エルルの身体を抱きしめて、横向きに抱き合って何度も何度もキスをする。


 我慢が出来なくなって、手を突いてエルルを見下ろす。真っ赤になった顔。ほんのりと赤く染まっている頬。少しはだけたシャツ。


「エルル。私はあなたを愛してる。世界中の誰よりも」


「……ボクは、わからない。この感情が好きってものかはわからない」


 不安げな表情を浮かべたエルルが、「でも」と言葉を続けた。


「ミリアちゃんはボクの一番大切な友達だから。……なんでだろ。キス、したくなっちゃって」


「~~~~エルルっ!」


「ひゃ!? ミリアちゃ、そこは!」


 はだけたシャツの隙間から見えたエルルの鎖骨に吸い付いてそのまま彼女の肌を舐めて。

 顎へ舌を這わし、もう一度エルルとキスをする。エルルが身体に力を入れて、私はそっと舌を伸ばす。


「……こ、これいじょうは、だめ」


「ご、ごめんなさい」


 リンゴのように顔を真っ赤にしたエルルが力なく私を押した。

 ああ、でもなんだろう。心があたたかい。嬉しくて嬉しくて堪らない。

 エルルが受け入れてくれた。答えてくれた。ゴールではないけれど、それでも私は嬉しい。


「んー」


「ど、どうしたのエルル?」


「あー、いやさ。……ボクがミリアちゃんのお嫁さんなの?」


「……がふっ」


「ミリアちゃん!?」


 あーもう駄目だわ。可愛すぎる。嬉しそうに恥ずかしそうにそんなことを言われたら私の思考回路は麻痺してしまう。

 大好き。大好きなエルル。愛してる。絶対にあなたを支えてみせる。たとえあなたに拒まれようとも、私は私の全てを賭してあなたを守る。

 それが私に出来ること。幼い日にあなたを守ると魂に誓った。


「エルル絶対に幸せにするからね!」


「いきなりどうしたの!?」


「エルルに絶対にウェディングドレス着させるんだからぁーーーーー!」


「あー……ちょっと、憧れるかも? えへへっ」


「ああもうだめエルル可愛すぎまた抱きしめて――」




「エルルが目覚めて貞操の危機を感じた時に私が駆けつけないわけがないわけだぁぁぁぁぁぁぁぁあああミリアリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「勝手に抜け出して迷惑かけるでないわこの拗らせ精霊がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 エルルを抱きしめようと手を伸ばした瞬間に扉を開けてきたセルシウスへイフリートがすかさず跳び蹴りを見舞った。


 え、えーっと……。


 エルルが目覚めて万事オッケーね!

キマシタワー!

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