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ラングルス絶対防衛ライン

「ラングルスが見えた!」


 風の魔法で防御しても振り落とされそうな勢いでハムちゃんが海上を波をかき分けて飛翔する。

 せるちゃんの氷のおかげで落ちずに済んでいるけれど、捕まっているだけでも相当体力を消耗させられる。

 でもそうしなければ津波より早くラングルスに到着することなんてできない!


「エルル、契約の上書きとはどういうことじゃっ?」


「ボクから皆への魔力の供給量をめいいっぱい増やす。過剰だと思えるほどに」


 そうすれば皆はいつも以上に力が使えるようになる。もちろん溢れた魔力は無駄になってしまうが、そこは精霊と竜だ。生まれながらにして本能で魔力の使い方を知っている彼らだからこそ託せる方法だ。

 覚醒深化(リアディヒティア)では海を殺してしまう。だから、精霊自体の力でなくてはならない。

 本当はリヴァイアサンにも協力してもらえると非常に助かるんだけど、まだ傷も癒えてないし無理させられない。酷使させてリヴァイアサンが死んでしまうのだけは避けなくちゃいけない。


「とりあえず港に着地して!」


『わかりました!』


 ハムちゃんが翼を広げて急制動をかける。身体が引っ張られるのも構わず、ボクはそのままハムちゃんから飛び降りる。着地はせるちゃんに任せて、ボクは皆に指示を出す。


「リフルちゃんが先頭! 次にハムちゃん、最後にせるちゃん! クルルはミリアちゃんたちに事情を説明してとにかくできる限りの避難を!」


「「「了解!」」」


「おっけー!」


 それぞれヒトの姿になったせるちゃんとリフルちゃんが駆け出し、クルルはミリアちゃんを探して走り出す。


「あらクルル、おかえり――」


「早く退避指示を出してミリア! 津波が来る!」


「え? どういう――」


「私たちを信じて! もう五分もかからない!」


「っ……わかったわ。トリスタン、ユーゴ。救命団に指示を出して! ラングルスの民を全員海岸から遠ざけるように指示徹底! 従わない者は力ずくでも構わないわ!!!」


 遠くでクルルとミリアちゃんの声が聞こえて、ミリアちゃんは咄嗟に判断してくれたらしい。聡明な人で良かった。ミリアちゃんたちの号令があればラングルスの人たちも退避に従うだろう。

 あとは、ボクたちがやるべき事。


 ハムちゃん、せるちゃん、リフルちゃんと契約の証であるカードを地面に並べる。

 契約の上書き。ボクから流れる魔力をより増大して皆に渡すための術式を、今この場で追加していく。

 ボクなら出来る。

 ボクじゃなきゃ出来ない。

 ずっと森に籠ってる間に思いついて作り上げた術式の数々は全部頭の中に入っている。


「まずはリフルちゃん! 火山を統べるイフリートよ、その灼熱を解き放て!」


「任せるのじゃ!」


 リフルちゃんのカードの書き換えを終えると、ボクの中からごっそりと魔力が消えた。

 思わず身体がふらついてしまう。

 大丈夫だ。このくらいなら、ボクの魔力は切れやしない!


 魔力を受け取ったリフルちゃんが炎の巨人となる。それは火山で変身した時よりもさらに巨大。炎の精霊であるイフリートの荒々しさを携えて、ハムちゃんと同じか、それ以上の大きさにまで巨大化する。


 津波が見えてきた。

 誰かの悲鳴が聞こえた。きっと退避指示を信じられなくて飛び出してきた人なのだろう。

 でも、大丈夫。絶対に守ってみせるから!


『ブレイズ・カノンッ!』


 リフルちゃんの両手から放たれた灼熱が横ばいに広がって一斉に津波にぶつかる。

 衝突した灼熱は津波を蒸発させていく。でも、それだけじゃ津波は収まらない。


「ハムちゃん! 大陸すら滅ぼす皇帝竜よ、その息吹を放ちたまえ!」


『了解しました!』


 リフルちゃんから数十メートル離れた場所に立つハムちゃんが大きく息を吸い込んで、盛大に吐き出す。


『バーストブレスッ!』


 ブレスは大地の岩すら吹き飛ばしながら津波に激突する。

津波の勢いが少しだけ弱まった、はずだ!

 ガク、と身体から力が抜ける。咄嗟に腕を突き出して身体を支えて、最後のせるちゃんのカードを書き換える。

 津波が、海が相手だからこそ氷の精霊たるせるちゃんが切り札だ。

 津波を凍らせるのでは勢いを殺すことが出来ない。

 だから、ボクがせるちゃんに頼むのは。


「せるちゃん、氷壁で受け止めて!」


「わかったわ! ダイヤモンド・コフィン!」


 両手を突き出したせるちゃんから発生した氷の壁が津波を受け止める!

 氷の壁を傾けて、津波がこちらがわにこれないように押し込める!


「ぐ、ぅ。き、つ……!」


 もっと、もっと、もっと魔力を!

 与えた魔力の分だけせるちゃんは氷を厚くして津波を抑えてくれる。


「せるちゃん、がんば、って!」


「任せて。エルルがこれだけ、これだけ魔力をくれてるのよ? 津波なんかに負けてたら、セルシウスの名が泣くわよッ!!!」


 一度は押し負けそうになったせるちゃんが拳を突き出すと、氷の壁がさらに分厚さを増していく。

 津波は、津波はそれで――。


「とま、った……?」


「やったのじゃ!!!」


『なんとか、できたようですね』


 リフルちゃんもハムちゃんも、そしてせるちゃんも片膝をついた。与えすぎた魔力で逆に消耗しすぎてしまったのだろう。

 沖合には分厚い氷の壁が展開され、あとは時間をかけて解けていけば海も元に戻るだろう。

 よかった。本当に、よかった……っ!


「エルルっ!」


 声を張り上げてミリアちゃんが駆け寄ってくる。

 そうだ、ちゃんと事情を説明しないと。天人(ジェリアル)って人たちと、精霊のコア。海底神殿の崩壊と津波と、いろいろ話さないといけないことが。


「あ、みりあ、ちゃ」


 ……あれ。


「エルル!?」


『エルル様!?』


「どうしたのじゃ!?」


「エルル、しっかりしてよっ!」


 どうしてボクは倒れてるんだろう。痛みも何も感じなかったけど、ボクは地面に寝転がっている。横倒しになった視界でミリアちゃんたちが駆け寄ってくるけど、上手く声が出せない。

 頭が、ぼーっとする。


 おかしいなぁ。


 全然、力が入らない。


 手を伸ばそうとしても身体が動かない。身体が空気を求めて浅い呼吸を繰り返す。

 痛い? 痛みは感じない。でも、痛い?

 幻痛を感じながら、ボクはミリアちゃんに抱き起こされた。

 腕を動かす力もない。


「エルルどうしたの? しっかりして!」


「らい、じょー、ぶ。ちょ、と、まろく、きれた」


 ああ、もう言葉も上手く話せない。せるちゃんたちに魔力を与えすぎた。普段であればなんともない精霊と竜への魔力供給だけど、今回ばかりはボクの魔力が底を突いた。


 ……あー。も、だめ。


「エルル、駄目。意識を保って! 魔力昏睡なんかなったらエルルがっ!」


 声がどんどん遠くに消えていく。考えることもままならない。

 少し眠っても、だいじょうぶだよね。

 だって、ラングルスは無事だったんだから……。


 ……………………ばたり。

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