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海底神殿の崩壊




「わ、なになに!?」


「神殿全体が揺れて、いますねっ!」


「リヴァイアサンがいなくなったからじゃないの!?」


 海底神殿を大きく震わせる縦揺れの地震は徐々に大きくなってきている。

 振動に耐えきれなくなった柱が倒れ、それに巻き込まれて壁や天井が崩れていく。


「……くだらん戯れ言だな」


 テュポンさんとルクスリアさんはボクたちに背を向けて歩き出す。

 これ以上話す必要はないと言わんばかりの態度に、ボクは少しだけ苛立つ。


「テュポン……さん」


「なんだ、ナナクスロイ」


「エルルです」


「あ?」


 何をと言わんばかりにテュポンさんが顔を歪める。

 わかっている。彼はボクたちを娘だとは思っていないし、ボクもテュポンさんをお父さんだとは思えない。

 お母さんが愛した人かもしれないけど、到底信じられない。

 お母さんが愛した人が、精霊を、世界を、そして誰かを傷つけるような人であってほしくないから。


「エルル・ヌル・ナナクスロイ。黒の力を持って生まれ、アルトリア聖王国にて唯一ゼロ(ヌル)の位階を与えられた召喚士サモナーです」


「くだらん。お前がケーラの娘であろうと、誰であろうと関係ない。ケーラの血は俺が必ず滅ぼす。そうでなければこの痒みは治まらない……っ!」


 にらみ合って、ボクは初めて敵意を人に向ける。ルクスリアさんにも、ボクは宣戦布告する。


「精霊を歪めるあなたたちを、許せません。ナナクスロイの名に誓います。これ以上あなたたちに、世界は穢させません」


「――ッハ! 寝言は寝て言え」


 それを最後にテュポンさんはルクスリアさんを連れて歩き出した。

 追うことはしない。今追ったところで海底神殿の崩壊に巻き込まれるだけだ。

 ……それでも、二人の背中が消えるまでは目を逸らさない。


「エルル、大丈夫?」


「大丈夫だよ。さ、早く脱出しよう」


 気に掛けてくれたせるちゃんに笑顔で答えて、ボクたちは来た通路へと戻る。凍っている場所を通れば脱出する時間くらいは大丈夫だろう。


「エルル、待つのじゃ!」


「リフルちゃん!?」


 リフルちゃんの突然の制止の声に急停止する。何事かと振り返れば、リフルちゃんの指差す方向に小魚のような存在が横たわっている。


「リヴァイアサン!?」


「黒の力に分解されても少しだけ残ったみたいだね。もう力はほとんどないみたいだけど」


 冷静に分析してるクルルだけど、そういう問題じゃない!

 力を失っているならなおさらここの崩壊に巻き込まれれば死んでしまうだけだ。

 それは駄目だ。精霊はなんとしても生きてもらわないと。

 せるちゃんの制止も振り払って駆け出して、リヴァイアサンを手の平に掬う。

 小さい。あまりにも、小さくなってしまった。

 でも、生きてる。


『き、さ、まは』


「喋らないで。脱出したらしっかり治療もするし魔力もあげるんで!」


「エルル、早く! 混雑するからクルルとリフルと私はミニマムになってそれぞれにしがみついて!」


 氷を支えているせるちゃんが慌てた声をあげてるくらいだからよっぽど危ない状況なのだろう。リヴァイアサンを両手でしっかりと持ってボクも氷の階段目指して走る。


 さすがはせるちゃんの氷だ。ボクたちが下りてきた氷の洞窟は崩れることなく残ってくれていた。階段を昇り始めると後ろで轟音が鳴り響く。

 海底神殿が崩れていく。リヴァイアサンが眠っていた場所が、壊れてしまう。


「っ……」


 でも、こればかりはボクにもどうしようもない。ボクの力じゃ海底神殿を直すことはできないし、せるちゃんの氷で支え続けるにも限界がある。

 氷の階段を急いで駆け上がる。ハムちゃんにはクルルとリフルちゃんが乗って、ボクの肩にはせるちゃんが。

 でも手の中のリヴァイアサンのおかげで凄く走りづらい。

 走るしかない。


「エルル、神殿が崩れて波がこっちにまで!」


「えぇ!? 凍らせて!」


「出来るけどちょっと威力が強すぎて完全にはできないわ! だから急いで!」


 せるちゃんに急かされながら長い階段を昇り続ける。足の痛みも忘れて昇り続ける。

 どれくらい昇ればいいかわからない階段を昇り続ける。階下は徐々に海に飲み込まれていき、足を止めればボクたちも飲み込まれてしまうだろう。


「出口が見えました!」


「ハムちゃん、すぐに変身をっ。クルルとリフルちゃんはボクに移って!」


「わかった!」


「のじゃ!」


 階段を走り抜けるハムちゃんから二人がボクの頭に乗り移り、登り切ったハムちゃんがすぐさま竜の姿に変身する。その手を伸ばしてボクを掴み、そのまま頭の上へと。

 その刹那、階段の全てが飲み込まれた。黒の力によって殺したはずの海すらも飲み込まれる。

 なんとか上空に逃げることがボクたちは、ようやく一息付けた。


「あっぶなかったぁ~」


「エルルがリヴァイアサンを拾うからギリギリだったのよ!?」


 小さなせるちゃんがリヴァイアサンを指差しながら責めてくる。


「ごめんごめん。でも、放っておけないからさ」


「あのままじゃ確実に死んじゃってたろうしね。エルルの判断は正しいよ」


 クルルがフォローしてくれる。リフルちゃんは疲れたようでボクの膝の上で寝転がっている。


「ま、生きてるからいいわよ」


『一度ラングルスに向かいますか? おそらく女王陛下は残ってると思いますが』


 ……そうだなぁ。ハムちゃんはこの依頼でも発生するはずの依頼料を楽しみにしてたし、落ち着いて考えてみればクルルの服とか雑貨も欲しいし。

 うん、ラングルスに行こう。ボクはせるちゃんたちと物陰に隠れてればいいし。


「じゃあハムちゃん、疲れたしゆっくりラングルスに行こうか」


『了解しまし――』


『馬鹿者がッ!!!』


「うひゃあ!?」


 手の中で弱っていたリヴァイアサンがいきなり怒鳴り散らしてきた。

 起きてたというかもの凄く元気じゃない!?

 でもやはり弱っているのは事実なようで、よろよろと身体を起こしたリヴァイアサンからはほとんど魔力を感じられない。


『はや、く。はやく、どうにか、しろ』


「え? え?」


『我が力を失い、海は元に戻るだろう。だが、寄せた海が戻るということは、波が発生する……! その量を、考えろ!』


「あっ!」


 そうだ。ラングルスの港一帯は干上がって陸地が晒された状態なんだ。

 そこに海が戻ろうとすれば、穏やかに戻るわけがない。あれだけの面積の海水が戻るのであれば、発生する波がどれだけ巨大になるか。


「津波になる!?」


『急げ。凍らせたところで次々に押し寄せてくる。なんとか、して、くれ……』


 リヴァイアサンはそこで意識を失ってしまう。申し訳ないけどリヴァイアサンをカードに封印し、ホルダーにしまう。


 クルルとせるちゃんが両肩に乗り、リフルちゃんは頭にしがみついてまっすぐラングルスの方向を見る。

 リヴァイアサンの言葉通りなら、どれほど巨大な津波が起こってしまうか。

 そしてそれが直撃すれば、ラングルスは間違いなく壊滅する。ラングルスだけじゃない。

 海に面した場所は甚大な被害を受けるし、それは王国にとって痛手程度では済まない。


 防がないと。なんとかして、津波を抑えないと。


「ハムちゃん全速力! 魔力持っていって! せるちゃんはボクたちが振り落とされないように凍らせてでもいいから固定して! リフルちゃんはとりあえず静かに!」


『了解しました!』


「わかったわ!」


「わかったのじゃ!」


「あとは津波を止める方法。津波が迫る瞬間に凍らせる? でも辺り一帯までせるちゃんが凍らせられるかはわからない。海を殺すにも範囲が広すぎる」


 もし海を殺すことで勢いを止めれたとしても、そこに住む生物たちが苦しんでしまう。それだけはできない。

 どうすればいい。どうすれば、津波を止められる?

 考えろ。これまで十八の年月で培ってきた魔道の知識を総動員しろ。

 ボクの力じゃ津波を止めることは出来ない。だから力を貸してもらうことが前提だ。


 考えろ。考えろ。考えろ!

 身体は吹き飛ばされそうになっても、せるちゃんの氷がしっかりとボクを固定してくれる。全速力のハムちゃんならあと十五分もしないでラングルスにまで辿り着ける。


 でも津波は待ってくれない。津波の今の動きから推測するに、ボクたちが到着してから五分もかからずに到達する。

 王国の人たちに説明している時間はない。逃げてもらう時間もない。


 ――駄目だ。出来ないことを考えるな。出来ることを考えろ。


「津波の勢いを、殺せれば」


 黒の力で強引にかき消す? 駄目だ。海に何かあっては不味い。


 ……なら。


「ハムちゃん、せるちゃん、リフルちゃん。今から契約を上書きするよ!」


 ここには世界を支配する精霊たちと、一夜にして都市を滅ぼせる皇帝竜が存在している。

 一人の力では駄目でも、三人なら!

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