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大復活




「これで……よし、と」


 黒の力は無事に消すことが出来た。どうやらリヴァイアサンから受けた黒の力もイフリート・バラヌス同様偽物の黒の力に侵されていると見て間違いないだろう。

 黒を消して、ヒールの魔法で傷口を塞ぐ。

 竜の身体で負った傷は、人の身体に変身した時も身体のサイズに合わせて傷は残ってしまう。

 人型であってもかなり大きな傷穴が空いてしまって卒倒しそうだった。


「ありがとうございます。では」


「あだぁっ!?」


 また殴られた!


「……無茶はしないでください。あなたを守ることこそが私の使命なのですから」


「……ごめんなさい」


 ハムちゃんはそれ以上ボクを責めては来ない。あの時、ボクが落ちてハムちゃんが変身を解除する以上の選択肢が見えなかったからだ。

 リヴァイアサンを攻撃するという選択肢もあるにはあったけど、あそこまで肉薄されていてはハムちゃんも巻き込んでしまうし。

 正解ではないのは確かだ。だってハムちゃんを困らせてしまったから。


「まあいいです。結果的に現状を打開することは出来ました」


「そ、そうだリヴァイアサンは!?」


 先ほどまでボクたちがいた場所を見上げてもそこにはもうリヴァイアサンの姿は見えない。海中に潜んだのか、それとも姿を消してボクたちの傍にいるのか。


「リヴァイアサンならすぐ海中に潜ったよ。不自然なほどする~って感じで」


「襲いたかったのかハッキリせん奴じゃ。行動がめちゃくちゃだったわ」


 ゼリー状の海面が気に入ったのかクルルとリフルちゃんは小さな身体を利用してぴょんぴょんと跳ねている。ちょっと楽しそうだけど、今はそれで楽しむ場合ではない。


「……ここからどう移動しようか」


 見渡す限りの海が四方に広がっているだけで、島もなにも見えやしない。

 ましてやハムちゃんに乗って移動するとしても、いつリヴァイアサンに襲われるかわからない。とにかくリヴァイアサンと対等に戦える場所を構えなければ、一方的に襲撃を食らい続けるだけだ。


「せめて他の精霊か魔物でも生息してればいいのですが」


「見当たらないよね」


 海上から海を覗き込んでも、おかしいと思うくらい精霊も感じられないし魔物も見当たらない。挙げ句普通の魚すら見当たらないくらいだ。

 やっぱりリヴァイアサンが関係してるのだろう。

 むー……。どうしたものか。


「あとは拠点ですが……そろそろセルをたたき起こすべきでしょう」


「え、でもまだ本調子じゃないから寝てるんじゃないの?」


 カードに語りかけても返事をしてこないということは、それだけせるちゃんが負ったダメージが大きいことでもあるわけだし。

 だから今回は極力せるちゃんに頼りたくはない。無理をさせてお話も出来ないくらい弱ってしまうのなら、せるちゃんの分もボクが頑張らないと。


「はぁ……我々がエルル様に甘いのはいいのですが、エルル様が我々に甘すぎるのは駄目なことです」


 やれやれと言わんばかりにため息を吐くハムちゃん。ボクだってせるちゃんに頼りたいけど、無理はさせたくないし。


「ところでエルル。そろそろ口を挟んだ方がいいと思ってな」


「どうしたの?」


 跳ねることに飽きたのか、リフルちゃんがボクの肩に飛び移ってくる。ほのかな暖かさを感じながら、リフルちゃんが足下を指差した。


「リヴァイアサンが来るぞ」


「あ、ほんとだやばいよこれ」


 続いたクルルの言葉でボクも気付けたけど、確かに――リヴァイアサンの魔力を感じた。もの凄い速度でこちらに迫ってきている。

 どどどどうしよう!? 対策もなにも出来てない。黒の力で止めた海面とはいえ、リヴァイアサンの攻撃を食らえばひとたまりもない。


「エルル様、安心してください。こういう時の秘策があります」


「え! 何それ早く教えて!?」


 ここぞとばかりにハムちゃんがボクに耳打ちしてくる。

 それを言えば、状況は絶対に解決するとさえ断言してくる。

 えー。で、でもさぁ……。それは、そのー。色々と問題発言な気がするよ?


「エルル様がやらないのであれば、私がもう一度竜となって迎撃するだけです」


「それは、だめ」


 相手は黒の力を得ている。いくらそれが偽物の力で、ボクが消すことが出来るといっても危険なことに変わりはない。


 ……あー! もー!


「ハムちゃん帰ったらご褒美にペンギンのパジャマ買ってよね!」


「仕方ありません。今回の依頼料で賄うとしましょう」


 ……すー、はー。


 せるちゃんが眠っているカードを取り出して、魔力を込める。

 ごめんなさいせるちゃん。気分良く眠ってると思うんだけど、今をどうにかするために力を貸してほしいんだ。

 だから、ハムちゃんに言われた通りの言葉を叫ぶ。


「せるちゃんがいつまでも起きないなら――ボク、ミリアちゃんのお嫁さんになるからね!」


「えるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅだめだめだめだめだめだめだめ私は認めない認めないわぁぁぁぁぁ!?」


 バン、と破裂するような音と共にせるちゃんがカードから飛び出してきた。

 うわ本当に起きた。しかもミニマムモードじゃなくて大人の姿だし出てきてそのままボクを抱きしめてくるし。


「嫌よ嫌よエルルは私がきちんと育てるの! ミリアなんかに渡さないんだから!!!」


「わぷ、ちょ、ちょっとせるちゃん落ち着い」


 苦しい! せるちゃんの胸に強く押しつけられて抱きしめられているから呼吸するのがもう辛くて苦しい!

 せるちゃんの背中を何度も叩いて限界だと主張するけどせるちゃんはそれでもボクを解放してくれない。

 ああああああもうリヴァイアサンもすぐそこに迫ってるみたいだし!?


「うん? これリヴァイアサン。私とエルルの愛の抱擁を邪魔するんじゃないわよ!!!」


「……わーお」


「普通に引きますね」


「ドン引きなのじゃ」


「わぷっ……ぷはっ!」


 ハムちゃんたちの呆れた声が聞こえてようやくせるちゃんを引き剥がすことが出来た。とはいえすぐさませるちゃんはボクの腰に抱きついてくる。


「エルルだエルルだわーいわーいくんかくんかくんかくんかすりすりすりすり!」


「ぴゃあ!? くすぐったいからだめー!」


 さっき港で結構動いたから汗もかいてるだろうしだめだめだめー!


「って凍ってる!?」


「今更気付いたのですか……」


 せるちゃんを引き剥がそうと力を込めててようやく気付けた。

 ボクが黒の力で染めた海面を包み込むように、周囲一帯が凍っている。足下を見ればおそらくだけど海中まで凍っている。


「……え。せるちゃんってここまで一気に力使えたっけ?」


「うーん。どうやらずっと眠ってたおかげで黒の力が馴染んだ感じがするね」


 ぴと、とせるちゃんの肩に飛び乗ったクルルがせるちゃんの頬をぐにぐにと突きながら推測を立てている。


「エルルが二人!? 楽園はここにあったのね! 我が生涯に一片の悔いなしぃ!」


「わーせるちゃんお願いだからまともなお話してー!」


 気付けばリヴァイアサンの魔力も感じられないし。多分だけどせるちゃんの力に怯んで距離を取ったのだろう。

 強化された(らしい)せるちゃんを見てリフルちゃんも引いている。どちらかというと性癖のほうに。


 とにかくせるちゃんを落ち着かせてこれまでの事情を説明しよう。

 目覚めてくれさえずれば海上でせるちゃんの力はかなり戦力として期待できる。


「うへへ……エルルが二人……幸せ……ぐぇっへへ……」


 涎を垂らして恍惚の笑みを浮かべているせるちゃん。……強くなっただけじゃなくて、性癖もおかしなほうに増しちゃった?


「……せー、の」


 あれ、リフルちゃんがハムちゃんの肩に飛び乗って――。


「ドーンなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」


 せるちゃんに向かって凄い速さで跳び蹴りを放った!?

 しかも何あれ足にちっちゃいけど炎を纏ってる!


「げぶぁ!?」


 ……あ、せるちゃんの顎に見事命中して仰け反らせた。

 うん、これなら落ち着いて話が出来るよね多分!

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