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不安と焦燥




「『新発見の竜の化石か?』。ねえハムちゃん、これどう思う?」


「ええ、ラグナロクやバハムートと同様の、遙か昔より生きていた竜でしょうね」


 時たまハムちゃんが買ってきてくれる新聞に目を通しながら、大々的に書かれた見出しに惹かれて思わず読んでしまった。新聞は書き方がちょっと乱雑だからあんまり好きじゃないし、読んでも世間の情勢とかばかりで知識を蓄える感じがしないんだよね。

 ハムちゃんは新聞を読みながら紅茶を飲むのが大好きで日課にしたいくらいとよくぼやいているが、ボクのぬいぐるみを認めてくれないから新聞の購読も認めていない。


 お、大人げなくなんかないし!


「じゃーなーくーてー。この竜は知ってるの?」


 新聞にでかでかと移された竜の骨。魔法による転写は情報の世界にも有用性が認められていて、正しい情報を的確に伝えてくれる。

 まあ、それでもウソは多いんだけど。さすがに国が発行を認めてる新聞でウソは書けないだろうし。


「ああ、邪骨竜ですか。スギュラネイトとも言われてるはずですね」


「じゃこつ……?」


 へびのほね?

 スギュラネイトという名前も聞いたことがないし図鑑で見たこともない。

 ハムちゃんのことは図鑑に書かれてるのに、もしかしたら希少種なのかな。


「邪悪なる骨、という意味です。その名の通り骨なのに生きている、高密度の魔力で動いている竜ですよ」


「骨なのに竜なんだ」


「あの当時の人間からすれば竜のような格好であれば竜に括られていましたからね」


 文化が違うし文明が今ほど栄えてるわけじゃないとはいえ、当時の人たちちょっと雑すぎませんか?


 ……ん。待って。骨なのに生きてるの?


「ねえハムちゃん、嫌な予感がするんだけど」


「予感ではないと思いますよ。死んでると思ったのは長い間埋もれて眠っていたとすれば、ちょっとした刺激で目覚めると思います」


「想定される被害は?」


「邪骨竜の脅威としては、私ほどではありませんが確かに『竜』です」


 ハムちゃんの言葉通り、竜という種族は本当にやばいくらいに脅威である。

 竜種はもはやこの世界の一部にこっそり潜んでいるくらいしか存在しないほど貴重な生物で、分類的には精霊と魔物の中間くらいにされている。

 ハムちゃんたちは精霊と魔物と同レベルにしないでほしいとも言うくらい、偉大で尊大で雄大な存在だ。

 それ故にプライドも高く、ラグナロクやハムちゃんが人間と関わっていることすら驚かれるほうが多い。


 それだけ竜種は、危険な存在として認識されている。


「は、早くミリアちゃんに連絡を!」


「さすがに各方面のスペシャリストが揃っているから大丈夫だと思いますよ。そこまで凶暴な竜ではないですし」


「で、でも……」


「それに、エルル様の症状も治まってません。まだ絶対安静です」


「うっ……」


 森のお家に帰ってきてから一週間が経過したけど、ハムちゃんの言うとおりボクとせるちゃんはまだ黒の力の名残が抜けていない。気を抜けば心を染めようと暗い感情は溢れてくるし、今も陽気に振る舞ってなんとか抑えてる感じだ。

 黒い力は確実にボクを蝕んでいる。せるちゃんもカードの中で眠っていることが多い。


 リフルちゃんは森の世界が物珍しいのか毎日のように探検している。

 昨日なんか昆虫を捕まえてきてしばらく遊んでいたくらいだ。


 生活を送るにはある程度問題はないんだろうけど、ハムちゃんが心配するようにしばらくは安静にしたほうがいいのは確かである。

 ミリアちゃんとの問題は解決しても、それでもボクは外に出るのが好きではない。

 ましてや王都に向かう、のは勢い任せに口にしたが考えてみれば非常に嫌な気分になる。


「……うっ、王都のこと考えたら……………」


「トキシラ草の粉末を用意します」


「お、お願い……」


 キリキリと胃から訴えられてくる痛みを堪える。なんでボクの内臓はこうも的確にボクを苛めてくるのか。あれか、長年の成果なのかな。長年胃痛と戦っても嬉しくないけどさ。


 ハムちゃんが用意してくれたトキシラ草の薬を飲んでなんとか落ち着く。

 はー、にがかった。


「でも、本当に大丈夫なのかな」


 確かに十年前とは比べものにならないくらい、王国魔法隊は精鋭揃いになってるはずだ。

 現存している各属性のトップも歴代の中で相当の実力者が揃ってるとも言われてるし、王都の防備は完全とも言えるはずだ。


 でもなんだろう、すっごく不安である。

 それはきっとボクくらいしか、竜の恐ろしさを知らないから。

 ハムちゃんの強さや恐ろしさを。

 ラグナロクは確かに強大だけど、申し訳ないけどレギンダットさんでは完全に力を引き出せていない。竜を用いてデュラハンに負けるくらいなら、竜を従えない方がいい。

 そう断言してしまえるほど、竜は凄い種族なんだ。


「ざわざわするんだ。なんかこう、凄く嫌な予感がする」


 この不安が黒の力から来るものだとはなんとなくわかるんだけど、それでもボクの直感が、本能が告げてくる。

 この予感は、危ないと。


「……もしここで王都へ向かえば、エルル様は取り返しの付かない状況に陥るかもしれません。下手をすれば、十年前よりも辛い環境になってしまうかもしれません」


「う……」


「それでも。それでもエルル様が女王陛下――いえ、ご友人を助けたいと願うのであれば、私はそれに従います」


 ゆっくりと頭を下げるハムちゃんは、ボクの手を掴んで離さない。うつむいたままのハムちゃんは、心の底からボクだけの心配をしてくれる。

 だからそんなハムちゃんを安心させるように、そっとハムちゃんの手にボクの手を重ねた。

 顔を上げたハムちゃんは、珍しく気弱な瞳だった。


「ハムちゃんが守ってくれるから、だいじょーぶ」


「わかりました」


 邪骨竜が本当に目覚めるかもわからないし、ボクたちが行く必要何て本当にないのかもしれない。

 でも、それでもボクは行きたいんだ。怖いけど、辛いけど、ミリアちゃんが危ないかもって考えたら……いてもたってもいられない!


「エルル、ただいまなのじゃー」


「リフルちゃんもいくよ! とりあえずカードへ封印!」


「のじゃー!?」


 帰ってきたリフルちゃんをカードに仕舞って、文句は空の上で聞くとしよう。

 せるちゃんも念のために連れて行く。というか心配だから一緒にいてあげたい。

 二人のカードとデッキも急造だけど用意して、外で竜に変身したハムちゃんに飛び乗る!


『行きますよ』


「お願いします!」

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