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一方その頃。




 みなさんこんばんは。ユーゴ・マトウです。故郷を出て早七年ほど、師匠に虐待が泣いて逃げ出すレベルの修行をつけられて嫌と叫んでもまだまだ成長させられました。

 アルトリア聖王国には師匠から逃げるために航行中の船から飛び降りて七日間ほど泳いだ末に辿りついたわけで、ええもうラングルスに付けば不法入国者だしギルドに登録するにも四苦八苦でしたよ。何しろ言葉も全然通じなかったからな!

 それでギルドに登録してみれば使える魔法がどうのこうのでいきなり魔法学院に目を付けられるし、信用してもらうためにクエストこなしまくってたら気付けば『銀の一位(シルバー・ワン)』なんて呼ばれるようになってるし。

 王国の女王は同性愛者のボインキュボインだし。


 俺の嗜好は置いといて。


「何で俺まで滞在してるんでしょうね」


「旅は道連れ、とあなたの故郷の言葉でありませんでしたっけ」


「ああ、そういう」


 道連れは構わないんだけど、俺だけ事情をろくに知らないから道連れされてもなぁ。

 エルル・ヌル・ナナクスロイ。

 ラングルスで出会った時の第一印象は極めて最悪だった。恨んだりはしないし、たしかに相手の嫌がる距離に無断で踏み込んだのは俺だけど、不意打ちで目くらましされれば……。

 おかげで路上で悶絶して思わぬ注目を浴びてしまってマジで恥ずかしかった。


「ナナクスロイさん、ねえ」


「どうかしましたか。エルル様が気になるのですか?」


「何でも無い言動してるくせに構えるのやめてくれません!?」


 俺と相部屋となったスタイリッシュな男性は執事服をきちんと着こなした優しげな目つきの人だ。

 ラングルスでもいつでもナナクスロイさんの傍にいるから兄かなにかだと思っていたら、まさかの皇帝竜バハムートだった。

 その名前はいくらこの国で日が浅い俺でも知っている。というかその異名に国の境は関係ないほどだ。

 かつて栄華を誇った鉄壁の城塞都市が海の向こうに存在していた。

 けれどもその都市は一夜で姿を消し、荒廃した街並と中心にそびえたる世界樹だけが残った――有名な話である。

 この人、この精霊は、その城塞都市を滅ぼした元凶だ。


 いやーほんとさっきからカードの中のデュラハンが騒がしいんだよな。デュラハンは城塞都市の生き残りが執念を以て魔物と化した存在だから。

 魔物、精霊に似て違うモノ。悪い印象を抱く人が多いけど、魔物だからと決して被害だけを出す生物というわけでは無い。

 デュラハンなんかは城塞都市を守り続ける魔物だった。死んでも、魔物と化してでもかつての主がいた場所を守ろうとしている。

 俺はその在り方に感動した。その意思に感服した。

 普段は対話なんて出来ないけど、今では心はちゃんと繋がってると思ってる。


「いや、本当にあなたがバハムートなのかなって」


「ええ」


 話題を変えようとしたら即答された。微笑みを崩すこと無く――いや違う。目だけ笑っている。おぞましさを感じさせる、怖い目だ。


「あなたのデュラハンのことはわかっています。だからこそ先に宣言しておきましょう。私は、城塞都市を滅ぼしたことを否定しませんし、あの都市は滅ぼしたくて滅ぼしました」


「――」


 こ、の人なにいいだしてるの!?

 ああもうデュラハンが騒いでる騒いでる!

 わかってて敢えて挑発してきてる! なんなんだこの人!?


「まあ悪ふざけはこの程度にして」


「あ、ら?」


 感じていた不穏な空気が一瞬にして弛緩する。デュラハンはずっと警戒してるけど、目の前にいる俺はバハムートさんから感じていた威圧はもう感じない。


「なにが……したいんですか?」


「いえ。過去の私を知ってる者など一握りでして。ついつい遊びたくなっ――おっと口が」


「遊びって言った!」


 ああもうこの人絶対に遊んでるわ!

 なんとなくわかった。この人は普段ずっと猫を被っていていざというときに本性曝け出す人だ。性根が悪い。関わっちゃいけないタイプの悪性だ。


「――と、私の酷評を心の中でしっかり刻み込んでくれたところで本題に入りましょうか」


「さりげなく心を読まないでください」


「申し訳ない。あなたのような方はわかりやすいので、エルル様のように」


 ……言ってることは最悪なのに、屈託のない笑顔を見せられると毒気が抜かれてしまう。

 なんなんだ。なんなんだこの人。印象は最悪なんだけど、憎めない……。


「はぁ……。で、本題ってなんだよ」


「それはもちろん、エルル様が好きかどうかです」


「は?」


 何をいきなり言い出すのだろうか。確かにナナクスロイさんは美少女だしスタイルも好みだけども。


「具体的に言うならまぐわいたいかどうかですね」


「ぶっこんできやがった!?」


「どちらかというとぶっこむのは貴方でしょう?」


「下ネタはやめましょう」


 ……いや、なんなのこの人。つかみ所が無い。会話しているようで、一方的に会話を押しつけられている感覚だ。

 これはあれだ。非常に師匠に似ている話し方だ。俺の意見を聞きながらも自分の意見を押しつけてくる、傲慢で非情なやり口だ。


「男同士なのに何を言い出すのか。なるほど、貴方童貞ですね?」


「どどど童貞ちゃうわ!」


 女性経験が無いだけだから! 師匠のせいで女の子と触れ合うチャンスなんてなかったんだよ!


「つ、疲れる……」


「私は楽しいですけどね」


 もう好き勝手にしてくれ。

 これ以上の話はしたくないことをアピールするためにベッドに横になって背を向ける。

 向こうもそれなりに察してくれたのか意外とすんなり黙り込んでくれた。

 あーよかった。これでゆっくり寝ることが出来る。


「……貴方は、エルル様をどう思いますか?」


「なんだよ、いきなり真剣な口調になって」


「いえ、聞いておきたくなったのです。女王陛下の護衛であれば、接する機会も増えると思いましたので」


 もしかしてこの人、心配してるのか。精霊が、契約者を。

 まるで父親のように。見た目的には兄妹にも見て取れるバハムートさんとナナクスロイさんを思い浮かべる。


「……好きかどうかは、正直わかんない。多分予感でしかないけど、俺はあの子を好きにはならない」


「ほう」


 言葉にして、心の中が少しもやもやした。思い浮かぶのはミリアとナナクスロイさんが嬉しそうに手を繋いでいたあの光景。友情を取り戻した二人の仲に、俺が入り込む余地は無い。


「もしも俺との出会いとミリアとの仲直りが逆だったら――わからなかった」


 もしもの話はあんまり面白くないからしたくないんだけどな。

 けれども俺の言葉にバハムートさんは興味津々なようだ。

 だから、きっぱり言葉にしておこう。


「ナナクスロイさんは、ミリアが守る。俺は女王陛下(・・・・)を守る。俺たちの関係は、多分それだけだ」


「なるほど」


 俺の答えに満足したのかバハムートさんは嬉しそうにもう一つのベッドに腰掛けた。


「もし貴方がエルル様を好きだと言っていたら全力で殴りにいくつもりでした」


「なんだよいきなり!?」


「黙りなさいずっと支えてきた娘のようなエルル様に得体の知れない虫が張り付こうとしてるのですよ? セルではなくても警戒します。私たちのエルル様は渡しません」


「親馬鹿かよ!」


「親馬鹿で結構。エルル様がちゃんとした相手を選ぶまでは、しっかり私が品定めすると決めています。あの子の兄としても父としても、契約した竜としても」


「……はは。面白いよ、バハムートさん」


「“ハム”でいいですよ。皆そう呼びます」


 ……認められたの、かな。とはいえそれはナナクスロイさんに近づく悪い虫では無いと判断してもらえたからだろうけど。

 ああそうか。俺の中でしっかりと答えが出てきた。ハムさんはあれだ。


「アンタ、面倒くさい奴だな」


「ええ、そうですね」


 二人して笑いあって、どうやら打ち解けたようだ。




 多分。

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