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夜も更けて




 報告を終えたボクは四階建ての寮の一部屋に案内された。豪華な装飾は特別な来賓を迎えるために用意された一室であるのは明らかだ。

 なんでボクなんかにこんな部屋を用意してくれたんだろうか。


「エルル、ふかふかなのじゃ!」


「落ち着きなさいよ……」


 少し大きめのベッドはとてもふかふかでこのベッドだけ持って帰ってしまいたいと思ったのは心に秘めておこう。ハムちゃんはハムちゃんで別室が宛がわれたみたいで、話を聞く限り今日はマトウさんもこの寮でお世話になるらしい。

 今はリフルちゃんがベッドの上でその弾力を堪能している。ミニマムモードだからそこまで激しさもないし、呆れたせるちゃんもベッドの上でごろごろしてる。

 部屋に備えられたお風呂を済ませ、髪をわしゃわしゃ拭いて一息ついた。


「はー、お風呂はいいよねぇ」


 王国ではあまりお湯に浸かる習慣がないんだけど、ボクはお母さんの受け売りから全身を沈めるのが大好きだ。だから寮のお風呂にしっかりした浴槽が設置されていたのはありがたい。

 命の洗濯っていうくらいだからね。あーすっきりした!

 リードン火山は暑すぎてずっと汗かいててさすがに気になってたしね!


「こういう時だけ一緒にお風呂に入れないこの身体が憎いわ……!」


「まあお主はそうじゃろうな」


 リフルちゃんは一緒に入ったんだけど身体を軽く洗うとすぐに出てしまった。リフルちゃんがいうにはこのくらいの温度はぬるすぎて入った気にならないし、汚れを落とすだけで充分だといってすぐに出てしまった。


 コンコン。


「……? はーい」


「エルル、入っても大丈夫かしら?」


 不意に来たノックに応答すると、声の主はどうやらミリアちゃんのようだ。

 特に断る理由は無い……わけじゃないけど、ここで一方的に距離を置いても仕方が無い。


「どうぞ」


「……失礼します」


 どこかよそよそしく入ってきたミリアちゃんは薄桃色のパジャマを着ていた。さすがにもうすぐ寝るつもりだったのだろう。

 あれ、でもミリアちゃんは王宮の自分の部屋に帰ったって聞いたけど。


「あ、あのねエルル。お願いが、あって……」


「お願い?」


 頬を赤らめて弱々しい声のミリアちゃんはなんだか別人みたいだ。胸に抱いた枕を強く抱きしめて、なにかを決意したかのかさらに顔を真っ赤にした。


「い、一緒に寝ましょう!」


「ふぇ!?」


 いきなり何を言い出すのか。確かに昔はミリアちゃんのとこにお泊まりしたこともあるから初めてってわけじゃないけど。ボクたちはいい加減結構年齢を重ねて――あ、別に同性だから気にしなくてもいいのか。


 どうにもミリアちゃんを下手に意識してしまう。さらさらの髪とかお風呂上がりであろうほんのり汗をかいてるうなじとか。

 それもこれも再会というなの襲撃直後に結婚とかいいだしたミリアちゃんが悪いっ!


「ど、どうぞ」


「何言ってるの私ははんた――むぎゅ」


「旧友が親睦を深めようとしとるのじゃ。妨害するのは無粋なのじゃ」


 飛び出そうとしたせるちゃんをリフルちゃんが押さえつける。そのまませるちゃんを引っ張るようにテーブルに移動すると、せるちゃんをカードへ向けて放り投げる。


「エルル、妾たちはカードで休息を取るのじゃ」


「え? あ、うん」


「ちょっと待って待って待ってエルルエルルエルルゥ!」


「血涙なんぞ流すでないお主は偉大なる精霊じゃろうが!?」


「ミリアリア! ハイゲイン・アルトリアぁ! もしエルルを痛め、泣かせるようなことがあったらぁ! 我魂魄百万回生まれ変わろうと恨み晴らすからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


「ではエルル、ぐっどらっく!」


 リフルちゃんに押し込まれるようにせるちゃんがカードの中に消えていった。リフルちゃんも続けて自分のカードの中に消えていく。あ、手だけだして親指を立てて沈んでいってる。

 器用だなぁと思いつつ、ミリアちゃんを伴ってベッドに座る。


 ミリアちゃんと並んで座ったけど、お互いにずっと無言だった。き、気まずい……。

 昔からいつもミリアちゃんに引っ張られてたから、こういう時どういう会話をするのかもわからない。

 うーん。下手なこといってミリアちゃんに拒絶されるのも嫌だしなぁ。


「ねえエルル。さっきの推測はどう思ってるの?」


 しばらくの沈黙が続いたあと、ミリアちゃんが口を開いた。けれどその表情は真剣そのもので、友達というよりも女王の表情をしていた。


 さっきの推測、ってことはボクが口にした偽物の黒の力、のことだろう。


「黒の力は絶対的な破壊の力。混ざれば破壊衝動に捕われ歪んでしまう、恐ろしい力」


「ええ。それはわかってるわ」


「そう、『絶対』なんだ。例外は有り得ない。だから、ボクの黒の力を用いても『絶対』に破壊は起こるはずなんだ。黒と黒がぶつかるのであれば、双方に」


 比べたことがあるわけじゃ無いけど、黒と黒のぶつかり合いであれば――それは同じ性質である以上、どちらも破壊されなくてはならない。そうでなくては黒の力とは言えない。そうでないのなら黒の力とは言えない。

 ボクの火傷はバラヌスによるものだけだった。バラヌスが黒の力で歪んでいたのは真実だけど、ボクの黒の魔力によって無傷で正気に戻ったのもまた真実。


「……なるほどね。黒に精通してるエルルがいうのだから、そうなのでしょうね。じゃあ、イフリートを歪めた存在の目的はなんなのかしら」


「それは……わからない」


 イフリートを殺し、世界のバランスを崩すことではないと推測は出来る。

 けれどそうではなかった。従えるわけでも封印するわけでもなく、バラヌスを歪めるだけ歪めて放置した。


「うーん…………」


 根拠の無いことならいくらでも言える。ウェリアティタンの荒野を立ち入れなくすれば、あの荒野と接している国とは交易も交流も出来なくなる。ましてやそれがどこかの国の仕業であれば、水面下で戦の準備を進めているのかもしれない。

 でも、それにしては計画がずさんすぎる。


 わからない。本当にわからない。せめてその人が出てきて説明してくれればわかるんだけどなー。


「難しいことはわかんないなぁ」


 ぼふん、とベッドに身体を沈める。ボクを受け止めてくれるベッド、大好きー……。


「ふわぁ……」


「もう寝る?」


「うん……もう眠い」


 目をゴシゴシと擦りながら枕元にペンギンがないことに気が付く。あー、お家じゃないからギン太くんも他のペンギンたちもいないんだ。うぅ、寂しい。


「私も寝ましょう」


 枕を置いてミリアちゃんも横になる。二人で布団を被って向き合う。

 ほんのりとミリアちゃんの匂いが届く。甘ったるさを感じさせないすっきりした感じの匂い。


「……ねえ、ミリアちゃん」


「どうしたの?」


「ぎゅー」


「っ!!!!?!??!!?!」


 不意打ち気味にミリアちゃんに抱きついた。か、勘違いしないでよね。ボクはなにかを抱きしめて寝た方が落ち着くからであって決してミリアちゃんに抱きつきたかったわけじゃないからね!


「え、エルル!?」


 ミリアちゃんはあったかい。そっとミリアちゃんもボクを抱きしめ返してくる。

 より密着すると、ボクの顔が柔らかな弾力に包まれる。うわ、柔らかいなんだろこれ。もう眠いから気にしないことにするけど、なんだろうこれすっごく安心する。

 あたたかいしやーらかいし、ボクは意識をすぐに手放した。


「………ぐぅ」


「寝たっ!?」


 ミリアちゃん、おやすみなさい。


(襲えと!? ああでも気持ちよく寝てるから起こしたくないしこのままでも気持ちいいというか華奢すぎて強く抱きしめたら壊れちゃいそうだしいい柔らかいし凄くいい匂いだしくんかくんかしたいぃ……ああもう生殺しは酷いわよエルルぅぅぅぅぅぅぅぅぅ)

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