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まずは一休み




「さて、ひとまず休憩にしましょう」


「のじゃ?」


 地上に繋がる坂道の前でボクたちは休憩を取ることにした。

 すぐさまイフリートへ挑むと思っていたのか、リフルちゃんは目を丸くしている。


「何故すぐに父上のもとにいかないのじゃ!?」


「え、だって疲れたし」


「結構洞窟も長かったしね。エルルは普通の人間なんだから休憩も取らないと熱中症になるわ」


 鞄の中から取りだしたカードの封印を解く。ぼん、と小さな煙とともにカードに封印されていたお菓子が山のように積まれて、リフルちゃんが衝撃を受けていた。

 ハムちゃん特製のドーナツとおせんべいを取り出して、リフルちゃんに向けてみる。


「甘いのとしょっぱいの、どっちが好き?」


「うーん、固いものじゃな!」


 え、なにその第三の選択肢みたいなの。

 とりあえず固いしおせんべいをあげてみる。


「あー、む。むむむつ。これは、これはぁぁぁぁぁ!」


 ばり、とおせんべいを齧ったリフルちゃんが叫び出してびっくりしてしまう。


「岩ほどではないがほどよいかみ応え! しっかりと口に残る味の濃さ。素晴らしい歯ごたえじゃ! なんじゃこれは!」


「あ、おせんべいって言うんだよ。ちょっと遠い国のお菓子」


「うまー! うまー!」


 どうやらリフルちゃんはおせんべいをいたく気に入ってくれたようで、持ってきたおせんべいをとにかくリフルちゃんにあげることにした。

 うわ、目をキラキラ輝かしてて可愛いなぁ。


「紅茶がはいりしました」


「ありがとね」


 簡単な炎の魔法とせるちゃんの氷を溶かして水を作り、ハムちゃんが紅茶をいれてくれる。コーヒーは苦手だし、紅茶の方が味わいがあって美味しいよね。

 ドーナツを齧りながら人心地つく。


「では、どうやってイフリートを元に戻すか検討しましょう」


「そうね。あんな真っ黒球体になってどう対処するべきかしら」


「ハムちゃんがぐーで殴る?」


「私の方がやられますね」


 ですよねー。

 正直な話、イフリートをどうにかするためにはあのフィールドを攻略する必要がある。

 漆黒の太陽となったイフリートによって干上がった大地。より高温となった世界。

 生きるもの全てを奪う勢いで灼熱を吐き、あらゆるものを干上がらせる。


「そこが難点なのじゃ。この大地に生きているものでさえ、今の父上には接近することも敵わぬ」


「せるちゃんが気温を下げるのにも限界があるしね」


「下げきる前に私が溶けるわね」


 それだけは絶対に避けないと。危険なのは承知だけど、命を失っては元も子もない。

 ではどう戦うのがベストか。

 答えはなかなか出てこない。


「それに、あのフィールドを攻略してもまだ解決ではありません」


「そうだよね。ああなってしまったイフリートをどうにかしないと」


「ちちうえ~……」


 リフルちゃんがしょぼんと落ち込んでいる。よっぽどお父さんのことが大好きなのだろう。

 お父さんを思う気持ちはわからないけど、家族が大切って気持ちはよくわかるから、無碍には出来ない。


「……あんな状態じゃが、それでもイフリートはイフリートなのじゃ。灼熱を吐き、大地を割る力はそのままじゃろう」


「うーん。うーーーーん……」


 講じなければならない対策は二つ。

 あのフィールドをどう対処するか。そして、イフリートを正気に戻す方法。


「イフリートだけなら、弱らせることが出来れば封印することはできると思う」


「……なに?」


「そうね。エルルだったらそれくらいはできるわよね」


「ちょっと待て」


「うん?」


 イフリートを封印すること自体は別に難しいことではない。精霊を封印するための魔法はボクにとっては容易なものだし、使う魔力も微々たるものだ。

 だけど問題は封印できるくらいに弱らせる――正確には、動けなくするのが難しい。

 なにしろ相手は浮いているんだ。たたき落として地面に埋め込めば……なんとかなるかなぁ。


「エルル、お主は精霊を封印できるのか? セルシウスとバハムートに魔力を供給している今でも?」


「あ、うん。そのくらいは簡単だよ?」


「それを早くいわんか!」


「ぴゃあ!?」


 凄い剣幕でリフルちゃんが距離を詰めてきた。

 え、なんなんだろう。ボクがイフリートを封印できることがそれほど重要なことなのだろうか。


「もう一つ聞かせてくれ。お主の魔力は、それでもどれくらい余力がある?」


「え、うーん……。余裕すぎる?」


 ボクの魔力量は同年代、いや、国中の魔法使いと比べても有り余るほどだ。

 せるちゃんやハムちゃんに供給してもなお余裕。というか、二人に魔力を与えても一割にも満たないくらいボクは魔力を持っている。

 生まれつき持っていた魔力だから、きっとお母さんかお父さん譲りなのだろう。ボクにとってはそれが当たり前だったから、出会ったばかりのころのミリアちゃんにはよく睨まれてたっけ。ずるいっていつも言われてた。

 でもミリアちゃんはボクより魔法の知識多かったし理解力も早かったし、ボクはそこが羨ましかったからお互い様でしょ。


「なるほど……。ならば、妾と契約することも可能か?」


「え……うん、大丈夫だけど」


「うむ! それなら万事全て上手くいくではないか!」


 どういうことなんだろう。ボクがリフルちゃんに魔力を与える――契約することが、イフリート攻略の鍵になる?


「妾はまだ未熟故に父上ほどの力はない。じゃが、お主のその魔力をありったけ貰えれば――」


 リフルちゃんが地上の光を指差しながら意気揚々と立ち上がる。


「父上の炎を妾が喰らう。喰らい、取り込んで、あの環境を妾の支配下に置く」


「で、できるの……?」


「応とも。妾は次世代のイフリート。炎を操る。炎こそ我が真髄。妾こそが炎である。今日この日をもって、父上からイフリートの座を頂く」


「なるほどね。この荒野の支配者の座を奪ってしまえば、あいつから出ている熱を押さえ込めるかもってことね」


「可能なの、せるちゃん?」


「そもそもこの荒野がこれだけやばい状況なのは支配者が環境を制御していないからよ。私がいた世界が猛吹雪だったのは覚えてるでしょ?」


 せるちゃんがいた場所――遙か北の大地。王国では考えられないほど雪に覆われた世界。常に吹雪いていて視界すら奪われてしまう極寒の大地。

 あれはせるちゃんの意思によって出来上がった世界、ということなのかな。


「支配の上書きは今の支配者より力を持っていればできることよ。確かにリフルがエルルと契約して力を増せば可能でしょうね」


 ……なるほど。せるちゃんが言うんだったらその通りなんだろう。


「わかった。じゃあリフルちゃん、ボクと契約しよう」


「うむ。父上を助けるためじゃ。頼むっ」


 リフルちゃんが差し出してきた手を掴んで立ち上がり、まだ何も封印したことがない新品のカードを取り出す。

 あらかじめ封印の魔法を施してあるから、契約は非常に簡単だ。

 カードに施された封印の魔法を発動させる。同時に契約をしてしまうから、それ相応の呪文も必要となる。


「汝に問う。名を、意思を、力を問う。炎の大地を統べるものよ。名と共に我の手を取れ。立ち上がる意思を執れ。その力、我の望みを叶えるために震え」


「誓おう。我が名はイフリート・リフル。父上を救い、この地を元に戻すために。我が操る全ての炎を以て汝に貢献しよう」


 キィ―――――ン……。


 繋いだ手から熱い感覚が、魔力が繋がった感覚がボクの全身に走る。

 本来であればこのままカードに封印する流れなんだけど、その工程は必要ない。

 ここに契約は完了した。リフルちゃんにボクの魔力が流れ、ボクの中にはしっかりとリフルちゃんの力を感じる。


「行くぞエルル、父上を助けに!」


 底抜けに明るい笑顔を共に、リフルちゃんは坂道を駆け上っていった。

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