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ウェリアティタンの荒野




「あっつ!? なにここあっつい!?」


「あーーーとける。だめだわこれ」


『……凄まじい熱気ですね』


 ウェリアティタンの荒野が見えてきたところでハムちゃんが高度を下げてくれた。

 そんなボクたちを襲う猛烈な熱波。え、なにここ本当に王国なの!?


「……エルル。帰っていい?」


「せるちゃんが頼みの綱なのに!?」


 手の平の中に座っているせるちゃんがものっすごくぐったりしていた。触れてればもうびしょびしょだし、本当に溶け始めちゃってる!?


「せるちゃん、ほら、早く冷やして!」


「あっづー……あっづいわー……」


 せるちゃんがふらふらな手つきで手をかざすと、たちどころに周囲が冷え込んでいく。


「……いやー。これまじでおかしいわよ。ミニマムとはいえ私の力でここまでしか冷やせないなんて」


 少しだけ元気を取り戻したせるちゃんが立ち上がって空を見上げる。

 まるでボクたちを焼き殺さんとする灼熱の太陽すら熱気に歪められてしまっているように見えるくらいで、せるちゃんが何度周囲の気温を下げようとしても快適な気温にまでは落ち着かない。


「なんとか活動は出来るけど、こりゃ私は戦闘には参加したくないわ……」


「うーん。そうだね。ハムちゃんの負担増えちゃうけど、大丈夫?」


『問題ありません』


 この暑さの中でもハムちゃんはうな垂れること無く着陸できる地面を探してくれている。けれどもこの暑さだ。地面のどこかしこも相当の熱を持ってしまって普通に着地するのも大変そうだ。


「せるちゃん、普通の状態ならどれくらいまでいけそう?」


「……普通なら、行動する分には問題ないくらいには下げられるわね」


「うん。じゃあお願い」


 身体を巡る魔力を集中して、せるちゃんへの魔力供給を増やす。

 ミニマムモードだったせるちゃんは一瞬の吹雪に覆われてすぐに大人の姿に戻る。


「ん。よし。これくらいなら余裕ね」


 そういって再び手を振りかざすと、一気に周囲の気温が下がっていくのがわかった。

 ……はー。少しだけど冷たい風も吹いたよ~。


「ほんっと何よここ。意味わかんないわ。王国の魔法使いはこんな環境を二週間ほったらかしてたの? バカでしょ」


「げ、原因不明だからね……」


 ウェリアティタンの荒野の荒野は立ち入り禁止になっているって先生が言っていたけど、上空から眺める分にはどこにも封鎖されている様子が無い。

 魔法で封鎖区域の設定をしてるのかな。まあ封鎖をしてるって明言しておけばこんな環境の荒野に好き好んで立ち入る人もいないだろうけど。


『着陸します』


 せるちゃんが力を使ってくれたおかげで大地の熱も少しは和らいだのか、ハムちゃんがゆっくりと地面に着地する。

 着陸と同時にボクはせるちゃんに腰を抱き留められながらハムちゃんから降りて、ボクの着地を確認するとすぐにハムちゃんもいつもの青年の格好に戻る。


「うわ、これでもあっつい」


 雪と氷の精霊であるせるちゃんが周囲の気温を下げたというのに、それでも暑さを感じてしまう。だらだらと流れてくる汗を手で拭いながら荒野を見渡すけど、入り口からじゃ何もわからない。


「……この中歩くの?」


「歩くしかないですね」


「できる限り冷やすわよ。少しはマシになるでしょ」


「せるちゃんだいすきっ!」


「私も大好きよ!!!」


 ひしっ、とせるちゃんと抱き合う。こういう時のせるちゃんはひんやりしてて抱きつくだけでとても心地いい。




「なるほど。あまりの熱気で空間が歪んでますね」


 荒野をまっすぐ歩きながらハムちゃんが気付いたことを呟く。

 空間が歪んでいる。それはボクもわかっていた。空間が歪んでいるからこそリードン火山も見えなくなっているのだろう。

 問題はそこだ。

 本来のリードン火山一帯であれば巨大にそびえる火山こそが象徴であるのに、それすら見えないほどの事態になっている。

 いったいこの熱量はなんなのか。何が原因でこんなことになっているのか。

 そして、大火傷と脱水症状についても何も答えが出てこない。


「とりあえず火山を目指そう。せるちゃんの力で空間の歪みも少しは落ち着くはずだから」


 せるちゃんを見ると額に玉のような汗をかいている。とはいえせるちゃんの身体は雪と氷だ。だからあれは汗では無くただの水。とても暑そうだ……。


「ねえエルル、あれはなに?」


「うん?」


 なにかに気付いたせるちゃんが指差した方向を見る。


「なに……あれ」


 そこには球体があった。それも真っ黒な。真っ黒でなんなのか正体不明の球体がゆっくりと空に浮かんでいた。


「嫌な予感がします」


 ハムちゃんが警戒レベルを最大限に引き上げて構えると。


 ゴォ、と黒い球体から灼熱の炎が放たれ、たあ!?


「なななななんなのあれ!?」


「灼熱の波ですね」


「見てわかるよ!?」


 黒い球体から放たれた炎はまるで意思を持っているかのように波打ちボクたちを襲う。

 まるで生物のように。まるで海洋の大津波のようにボクたちを飲み込もうとする。


「せるちゃん!」


「わかってるわ!」


 せるちゃんが咄嗟に全面に氷の盾を作り出し、炎を防いでくれるんだけど――それでも防ぎきれない。ボクたち三人を覆う氷の盾は生み出された瞬間から溶かされていく。いつ終わるかわからない炎とせるちゃんの攻防。

 大丈夫、魔力に問題は無いし防げない火力では無い。

 でも、せるちゃんの疲労が心配だ。


 ボクの心配は現実になる。あまりの熱さに耐えきれなくなったせるちゃんが片膝をついてしまう。


「せるちゃん!」


「セル!」


「だい、じょうぶよ……これ、くらいぃ……」


 明らかに無理をしている。氷の盾ももう持ちそうに無い。どうしよう。魔力がいくらあってもせるちゃん自身が持たなければ意味が無い。


「ええと、回復魔法回復魔法は!」


 デッキから取り出したカードをすぐにせるちゃんに向けて発動する。気力も体力も回復する魔法だけど、今のせるちゃんには焼け石に水だ。

 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!


「こっちじゃ!」


「――え?」


 聞こえてきた声に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 声が聞こえてきた方に顔を向けると、声は確かに地面から聞こえていた。


 ぱかっ。


「え」


「っへ?」


「落とし穴ですか」


 なんでハムちゃんだけそんな冷静なの!?

 足下の地面がいきなり空いたと思ったら、ボクたちは足場を失ったわけで落下するしか無い。

 確かに炎の波から逃げられるかもしれないけど!


「おち、落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

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