第4話 八神将 Aパート
テーブルに突っ伏し頭を抱えて唸り続けるその男を、俺は憐憫の情を込めて見守り続けていた。
気持ちは分からんでもない。分からんでもないんだが、人の出番を横取りしたのだから当然の報いとも言える。
テーブル上に映る立体映像には、全長三十メートルを超える巨大ロボ、奏星機が振るう大上段からの剣撃を、伸ばした指一本で受け止めるインテリ眼鏡の姿が流されていた。
「……あーあ」
<華焔将アインヴァルト>のやっちまったなー、というため息交じりの呆れ顔に、渦中の男<極光のシルバリオ>がビクッと突っ伏したままの身体を震わせる。
受け止めた剣をそのまま押し返し、バランスの崩れた奏星機をこれまた指先一本でを弾く、つまりデコピンの一撃で打ち倒す眼鏡が映し出されると、テーブルを囲む八神将を重い陰がのしかかった。
「なんてことをしてくれるんじゃ、このうつけは」
<傾城娘々>が黄金の液体が注がれたジョッキを傾けながらジトっとした目で眼鏡をにらみつける。
……好きだなその培養液。
トゲトゲしい傾城娘々の言葉に身を縮める眼鏡だったが、遂に限界が来たのか、勢い良く椅子から立ち上がった。
「仕方ないじゃないですか!私だってまさか奏星機があそこまでショボ……もとい至らな……でもない、あー、んー、そう!未完成だとは思わなかったんです!ん、未完成?なんか違うな?んん?」
自身でも奏星機の体たらくは擁護しようがなかったのだろう、なんともふんわりとした反論とも言えない反論は尻つぼみで終わってしまった。
「ところでさ、なんかパイロットに言ってるわよね、アンタ?何て言ったの?」
つまらなそうに映像を見ていた<絢爛舞踏クロエ>が出来もしない読唇術に挑むかのように、顔を映像に近づけて眼鏡の口の動きを読み取ろうとしていた。
言われてみれば、頽れた奏星機から這い出たパイロットの眼前に降り立った眼鏡が、何か言葉を放っているように見える。
クロエの疑問に、再び体を強張らせた眼鏡に何かを感じたのか、アインヴァルトの奴がガッシリと眼鏡の肩を抱き、満面の笑顔を向ける。これはうぜえ。
「ん、何言ったの?何か言ったからそんなヘコんでるんだよな?ほらほら、言うてみ、言うてみ?」
マジでうぜえな、コイツ。だが同意。
「いえ、特には……」
アインヴァルトから視線を外し、そっぽを向く眼鏡(そろそろ名前で呼んでやろう)
と、逸らした視線の先には高速で移動してきた<魔導機姫アンネロッテ>が待ち構えており、シルバリオの手を両手で包み込み無表情の中で唯一、瞳だけをキラキラと輝かせるという、珍妙な顔で先を促した。
「さあ、シルバリオ様。勇気を出して。今を生きる、今を生きるのです」
コイツもコイツで何言ってるんだろうな。
「いえ、ですから何も……」
頑なに言葉を濁し続けるシルバリオを左右から挟み込む二人の八神将。
ほらほらほらほらさあさあさあさあ──
「ははーん。さてはアレじゃな汝」
傾城娘々が何かを察したのか、シルバリオに意地の悪い笑みを送った。
シルバリオを除く八神将の視線が仙人少女に集中する。
注目に満足したのか、むっふーと鼻息を荒げると傾城娘々はビシィ!と指をシルバリオに突きつけた!
「待ちに待った奏星機との戦は思いのほか肩透かしだったけれども、それはそれとしてテンションが上がってたから、つい死亡フラグである、お前など殺す価値すらない、的なセリフをかましてしまったのであろ?!」
なんと?!
この眼鏡、ただでさえ前回の会議で脳筋パワーキャラの死亡フラグを建てていたのに、更に積んできやがったのか……
再度頭を抱えてテーブルに突っ伏したところを見ると、傾城娘々の予想は正しかったらしい。
「仕方なかったんですよ!ついですよ!気分ですよ!皆さんだってあのシチュエーションなら絶対言いますって!そうでしょう?!」
……否定はできんなあ。
喚き嘆くシルバリオを、どう慰めたものかと俺は傾城娘々のジョッキを奪い喉に流し込みながら思案を巡らすことにした。
おっと、そういえば自己紹介がまだだったか。
俺は<剛腕パンツェーセン>。八神将の一人で、異世界からの侵略者。
ネット上ではその名前から、パンツさんだのミスターパンツだのと呼ばれている悲しくも雄々しい戦士。それが俺だ。