第3話 WAR CRY Bパート
<黒薔薇の間>は沈黙に包まれていた。
アタシも他の八神将も、眉間に皺を寄せ、或いは苛立たしげにテーブルを指で叩いたりと何かを堪えるかのような様を見せている。
テーブル上の立体映像には、さっきから繰り返し帝国の破壊ロボを撃破する白い巨大ロボットの姿が無音で流されていてそれが更にアタシ達の沈黙を深いものにしていた。
白い巨大ロボット(奏星機というらしい)に我が帝国の破壊ロボが倒されるのはこれで五機目。
映像の中で真っ二つに切り裂かれ、爆発を起こす巨大ロボはアジア方面の侵略を指揮する<傾城娘々>旗下の機体。
四機目までは日本で様子見がてらの戦いだったけれど、国外ではこれが初の戦闘ということになる。
奴等の基地があるであろう、日本以外での運用はどうなのか、という名目で傾城娘々が中国西部で破壊ロボを暴れさせ、奏星機の動きを計ることにしたのだ。
・・・・・・考えてみたらこれも様子見よね。
結果を言えば、破壊活動を始めてから三十分程経った時、やたらとカラフルで鋭角的でかっこいい大型輸送機から舞い降りた奏星機に破壊ロボは見事に倒された。
地球の裏側でも迅速に対応できるようになっているのかもしれない。
その事実を各々が飲み込み、理解したと思ったら、こうして八神将は黙りこくってしまった。
陛下も同じように静寂に身を任せている(脳だけ)。
※
実のところ、沈黙の理由は察してはいるのよね。
目線を動かせばチラチラと特定の八神将に視線を向けてる連中が居るし。
その目には期待という名前の光が灯っている。
視線の集まる先はアタシと<剛腕パンツェーセン>、それに<華焔将アインヴァルト>の三人か。
候補となるのが八人のうちで三人も居るってどうなのよ。
期待に籠められている意味を考えると若干腹正しい。自分でも自覚があるだけ余計に。
でもその期待に応えるのは中々難しい。その後の展開を考えると安易に請け負うわけにはいかないのだ。
アタシは腕を組んで小さく唸っている巨漢、パンツェーセンを横目で見ると、それに気付いたのか顔を僅かにこちらに向けた。
どうする?とその目は訴えてたけど、アタシの方こそそれは聞きたい。
視線を逸らし、今度はアインヴァルトに送る。
彼は顔を上に向け、僅かな苦悩の表情を浮かべていた。心中の葛藤と戦っているんだろうな。
ううむ、とアタシも小さな唸り声を上げてしまった。
アタシの中にも強い葛藤がある。
<それ>を行うことへの誘惑は、とても甘美なもので、だが実行してしまえば破滅へと突き進む狂気の行為。
だからこそ、三者三様に躊躇し、動く事が出来ないでいる。
世界全てを相手に戦う力を持った帝国の大幹部が、だ。
それほどまでに<それ>は恐ろしい。
けれどやってしまいたい。極限のジレンマの中でアタシは見た。
覚悟を決めたパンツェーセンがテーブルに両手を叩きつけようとする姿を。
──その時、テーブルに強い衝撃と轟音が襲い掛かった。
今まさに、それを起こそうとしていたパンツェーセンが驚愕の表情を浮かべてその震源に振り向く。
勿論、アタシもだ。そこに居たのは……
「はっ!どいつもこいつもビビりやがって!こうなったらこの俺様直々にぶちのめしてきてやるよ!」
全く似合わない粗野な笑みと台詞を口にした知的眼鏡<極光のシルバリオ>がテーブルに足を投げ出してふんぞり返っていた。
全員の視線が集まるのを感じたのか、しばらくニヤニヤと品の無い笑顔を続けていたけど、スッと真顔に戻り、椅子に座りなおすと重いため息をついて項垂れてしまった。
一度言ってみたかった、という充足感と言ってしまった、という絶望感が混ざり合った複雑な顔で。
……言っちゃったよ。
本来であればそのポジションであるアタシ達を出し抜いてまで。
そう、つまりは──
悪の組織の幹部あるある「脳筋パワー馬鹿」による舐めプ演説!
これ以上ないくらいの強力な死亡フラグとして認知されている<それ>はアタシ達八神将の言ってみたいセリフランキングで上位に入るだろう。
言ってみたい、けど言うと死亡フラグが屹立というジレンマがアタシや剛腕、華焔将を椅子に縛り付けていたのだけど、まさか自身のキャラを捨ててまで<取り>に来るとは・・・・・・
つまるところ、アタシとパンツェーセンとアインヴァルトは他の五人+陛下からは脳筋パワー馬鹿だと思われてるわけよね。
いつか落とし前はつけよう。
遂に姿を現した帝国の幹部、八神将。
その強大な力に、鷹士は誓いを秘めた心を刃に立ち向かう。
次回、奏星機グランセリオン第4話「八神将」
──僕は、抗う。