第10話 紅蓮の息吹 Aパート
「揃ったか、我が腹心たる刃、八神将よ」
定型文で始まるこの無駄会議も幾度目になるか。
椅子に思い思いの格好で座る異能の魔人達は、盃に満たされたヒュンケル皇帝液を呷りながら忠誠を誓った主の声をガン無視して雑談に耽っていた。
「……揃ったか、我が腹心た」
「聞こえてるんで言い直さないでも良いっすよ、陛下」
顔すら向けず<華焔将>アインヴァルトが手をヒラヒラと振りながら先を促した。
「……卿等、最近予への態度がえらく雑になっておらんか?」
「お言葉ながら、陛下、それは下種の勘繰りというものでゲス」
<極光>のシルバリオがやはり顔も向けずに適当に応対する。
「現在進行形で蔑ろにされている気がするのだがな。てーか誰が下種だ、誰が」
眼鏡を面倒気に上げ下げしながら<極光>がため息を一つ。
「我等八神将、いえ、ライヒ・エンパイア帝国全ての臣民の忠誠を陛下はお疑いになるというのでゲスか?」
「その語尾の発言で、どこをどう信用しろというのであろうな」
やれやれと両手を上げて<極光>は愛すべき同士達にフォローを求めた。
「と、いうことですが、どう思われますか、皆さん?」
<剛腕>パンツェーセンが心外とばかりに肩を竦める。
「俺達の鋼より固く、炎よりも熱く燃える忠誠心を疑われるだなんてなあ、臣下としてこんなに悲しいことはないぜ」
「床に膝を付いて頭を下げての発言なら予も反省するところなのだが、ふんぞり返って酒かっくらいながら言われても不信感しか沸いてこんぞ?」
ああ言えばこう言う、とばかりに首を横に振った巨漢は隣に座る<絢爛舞踏>クロエにパス。
「蔑ろとか言うけどさ、今こうして面倒くさい会議にも出席して世界征服って壮大な目標に向けて話し合ってるじゃない。もうそれだけで忠義に満ちた真の国士だと思わない?」
おぉ、と八神将から感心の声が漏れる。
「えー、ホントに?ホントにぃ~?」
未だ疑心暗鬼の皇帝に対し<紅>がわざわざ椅子から立ち上がり挙手をして発言を求めた。
「この手のロボット物なら、敵に最高幹部が八人も居れば一人くらい裏切って地球人側に付くのがお約束ですが、御覧の通り、我等八神将の厚き忠誠心がそれを良しとはしないのですよ、陛下」
「あー、あれじゃろ。相手側のパイロットと恋に落ちてだとか、スパイとして潜入したらうっかり馴染んでしまってそのまま居着いてしまうとか、そういうヤツ」
<傾城娘々>が楽し気に手を叩く。
「より一層不信感が芽生えたのだが」
「では仕方ありませんな。ここはひとつ、皆がどれだけ陛下をお慕いしているか、確認してみるとしましょう」
<紅>が仮面の奥の瞳を細めて微笑を浮かべた。
「確認?」
「ええ、分かりやすく挙手で」
仮面の男は大きく両手を広げ、八神将に問いを放つ。
「ではこの中で、我が帝国を裏切り、地球の……いや奏星機の味方になってもいいという者が居れば挙手を!」
──愚問である。
究極の力と絶対の忠誠、比類するもの無き克己心。その体現者こそが八神将。帝国の刃。
だからこそ──
自身を含む、高々と挙げられた八本の右手を見て<紅>は穏やかに微笑んだ。
「さあ、いかがです、陛下!」
「うむ、とりあえず泣くわ」




